第13話

『ふむ、こんなものだろう』


 その紙の束を糸で纏めて亜空間魔法で亜空間に仕舞う。


「い、今の魔術って……失われた魔法ロストマジックじゃ……」

失われた魔法ロストマジック?』


 今の魔法ってここだとそう言われているのか。まさか技術の衰退がもう始まっているのか?流石に早すぎでは。


「なんでそれを使えるんですか。それは遥か昔に消えた魔術だから失われた魔法ロストマジックって呼ばれているのに……」

『……ふむ』

「教えてください。あなたは、一体何なのですか……?」


 私は誰か、か……。そうだな、なんて答えるのが正解なんだろう。名前を言うのは違うし、かと言って何を言えばいいのか分からない。

 それにこの図書室には私と彼女以外誰もいないがもしかすると監視カメラのようなものがあるかもしれない。保険は必要だ。一応結界は張っておくとするか。


 よし。これで十分。


 思えば猫獣人たち以外では初めて知り合った人かもしれないな、彼女は。もしかすると今後何かの役に立つかもしれない。

 だったら、こう名乗るしかないな。


『─────私は教授だ』

「……教授?」

『そうだ。私は魔術、魔法を探求し果てにはその全てを解明したいと思ってここに来た』

「……」

『今日は君と出会えてよかった。最初出会った時は最悪だったかもしれないが、それでもこうして連れて来てくれたこと、感謝している。ではな』

「待ってください!」


 私が図書室の窓から出ようとした時、リリベッドが私を呼び止めた。


『なんだ』

「……あなたの魔術は、普通の魔術じゃない。そうでしょう?」


 まあ私があそこまで見せればその結論には行けるだろうな。だが何故今その話を?


『……で?』

「私に、魔術を教えて欲しい、です」

『それは何故?さっきの女を見返したいからか?』

「っ、それは……─────そう、です」


 一瞬だけ逡巡したけど言い切ったぞ、こいつ。見た感じリリベッドはあの女にいじめられているのか。


「私は平民でこの学園に入学しました。でも平民だから、保有している魔力が少ないんです。だから魔術じゃなくてそれ以外のことで頑張ったんです。そしたらあの女が……っ」

『……』

「それからはずっと奴隷のような生活でした。さっきの試験のことも、いつもの事です。あの女の代わりに私が試験を受ける」

『そんな事をしたらすぐに不正がバレるんじゃないのか?』

「この学園は平民に対してなにもしないですよ。どうでもいいんです、平民が何しようと。でも平民が過ぎた成績を取ったら小言を言ってくる。それに貴族相手には生徒の実家から文句を言われるのを恐れているからそっちにも何もしません。だからこうしてお咎めが無いんです。私にも、あの女にも」

『……』


 この帝国はそう言えば貴族優遇の国だったか。まあ昔のヨーロッパなど貴族がいた時代もそんなだったからな。

 しかしいくら何でもこの学園は放任過ぎないか?まるで生徒には一切興味を示していないような……。


「私はもう学園に期待しません。将来が約束されているから、と頑張って頑張って、厳しい試験を乗り越えて入りましたが……まさかこれ程とは思っていませんでした」


 彼女の目には虚無だけがあった。何に対しても期待していない。頼っても無駄だ、と。

 ここまで頑張ってきたからこそ、ここまで失望が大きくなっている。最悪こいつ、自殺するんじゃないかって気もしてくる。


 しかし、平民のくせにと言ったらあれだが、この学園に入学できるくらいには彼女は優秀だ。そこら辺の貴族よりも。

 聞く限り、貴族がこの学園に入学するのは然程難しくないようで、さっき学園の校庭で授業を受けていた生徒の殆どを観察したが優秀かと聞かれると首をかしげるほどだった。


 それらに比べたら目の前の彼女の方が優秀だ。魔術の腕に関しては確かに劣るだろうが、状況に応じた判断力は高いと見ている。

 私と初めて会った時、素直に私の話を聞いているとあの時思ったがよくよく考えてみれば彼女は常に私の隙を探していた気もする。


 彼女の目がせわしなく動いている時があったのだ。まあ可能性の一つに過ぎないが、私は彼女は育てればすぐに強くなると踏んでいる。それは彼女の職業にある。


 ─────贋作の魔法使い。


 贋作、と言うところがまだ未知数だが、これまで彼女の魔術の腕が然程上がらなかったのはきっとこの職業のせいで、適性が無かったと思うのだ。


 それにこれは本音だが、彼女に魔法を教えればもしかするとまだ見ない魔法が見れるかもしれない。私はそれが見たい。


「お願いします……私は、強くなりたい」

『……』


 私は彼女の目線に合わせるように、机に乗り、


『契約魔術の更新だ。先の条件を全て破棄し、新たな条件に変更する。一つ、私の存在を他人に教えない。二つ、私の教える内容は他言無用。三つ、あの女をコテンパンに潰せ』

「っ!?」

『こうして予め宣言をして再度契約魔術を使えばこのように書き換えができる。これで、新しい事実を君は知ることができた。これから数日で君を、魔法使いに仕立て上げる』

「魔法、使い……?」

『ああ』


 さあ、彼女を自分好みに改造しようではないか。

 ……何か言い方がいやらしいな。


 学園を抜け出し、傍にある寮の彼女の部屋に来た私は早速リリベッドを私の前に座らせる。

 すると彼女が聞いてきた。


「あの、教授」

『なんだ?』

「さっき言っていた、魔法使いってどういうことですか?」

『ああそんな事か。簡単だ。君は魔術師に向いていないという事だ』

「魔術師に、向いていない……」

『その代わりに魔法に適性がある』

「……さっきから言っているその魔法?ってなんなんですか?魔術とは違うのですか?」

『ああ、そう言えば言ってなかったな』


 魔術と魔法……この二つは無から何かを生み出すという点では同じだろう。しかし魔術と魔法で決定的に違う面が一つだけある。


 それは一人が扱えるものの種類だ。どういうことか。


 魔術には炎や水など様々な種類の属性があり、その属性ごとにまたいろんな種類の魔術がある。例えば炎魔術では“ファイアランス”、“ファイアボール”。水魔術でも同じように“ウォーターランス”、“ウォーターボール”など。

 と、このようにランス系、ボール系と言った型がある。故に型に収まっている物なら極論全員使える、と言うのが魔術だ。


 それに比べて魔法はこれと言った決まりごとが無い。人それぞれの性質が色濃く出てくるのが魔法だ。

 それに魔術よりも使う人を選ぶから万人向けではない。だがその分魔法一つ一つが強力で、私の主観は魔法一つを食い止めるために必要な魔術は100を超えるだろう。


 しかし本質は一緒のはずなのにどうしてこのような違いが生じているんだろうか。発動時のイメージは殆ど変わらないし……。


 


 この二つの関係を言葉で表すのならこれだろうな。


 と、言うのをリリベッドに伝えると、


「そうなんですね……あまり理解できませんでしたが分かりました。それでなんで私には魔法……?の素質があるんですか?」

『それは、まあ私にはそれが分かるんだよ。今はそれで納得してくれ』

「……はい」


 無理矢理納得させた私は、早速魔法について彼女に教えていくことにしたのだった。


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 第14話は今日17:30投稿予定です!

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