第12話

「こ、ここです」

『ふむ……やはり凄いな』


 彼女の肩に乗り揺られながら、ようやく学園の中に入ることに成功した。

 すると外で見た時よりも迫力のある校舎が私を出迎えてくれた。


 しかしこれはこれは……現代の建築にも勝るとも劣らない、素晴らしい校舎ではないか。私の人生でこれ程の建物を見たのは学会でフランスに行った時以来だ。

 そして中は─────おぉ。中も素晴らしいな。やはり外面だけでなく中もしっかりと作りこまれている。これは建築家のこだわりが見えるな。


 知らんけど。


『それでは案内してくれ』

「……はい」


 私は早速彼女に図書室に向かうよう指示を出して、しばらく廊下を歩いていると、


「あ、リリベッドじゃない」

「っ!?」


 後ろからリリベッドに声をかける者がいた。彼女の友達だろうか。

 私はそっと彼女の肩から降りて、隅に移動する。もしあの友達が仮に私の体に触れられたりでもしたら大変だからだ。

 一先ず彼女がリリベッドから離れるのを待つしかない。


 ……だが、リリベッドの様子が何やらおかしい。何と言うかそわそわしていると言うか。


「丁度良かったわ。明後日の試験、私の代わりに受けてくれない?」

「……そしたら私が」

「何よ。あなたの都合なんて関係ないじゃない。兎に角私の代わりに受けといてね。あ、落ちたら承知しないわよ。私の氷魔術で殺すから」

「っ……!?」

「じゃあね」


 幸い彼女は言うだけ言って勝手に去ってくれた。だが彼女の言った言葉の一つ一つで、この学園内でのリリベッドの立場のようなものが分かったかもしれない。


 だが彼女の去り際、私の目は彼女の手に自然と注目していた。

 ……さっきからしきりに動いていると思っていたが、まさか同じだと言うのか?いや、ここは夢の世界だからそう言うものか。


 まあいい。これは私が彼女に言っていいことじゃない。


「……」

『なんだ君、いじめられているのか』

「っ!そ、そんな事は」

『じゃああれは何だ?』

「……」

『まあ私には関係ないからこれ以上聞くことは無いが、これは年長者としてアドバイスだ。─────黙っても何も変わらないぞ』

「っ!」

『ほら、分かったらさっさと図書室に連れて行け』

「……はい」


 そうしてまた彼女の肩に乗った私はもう一度彼女を視てみることに。


 ***

 名前:リリベッド

 職業:贋作の魔法使い

 称号:怨念/復讐を望む者

 ***


 さっきよりも一つ称号が増えていた。成程。最初からあった怨念が成長して復讐を望む者が増えたのか。

 彼女は心に闇を抱えている。その原因はさっきのを見れば明らかだ。

 だが彼女の事情など、今の自分にはどうでもいい。なんでさっきあんなアドバイスを彼女にしてしまったんだろうな。


「ここです……」

『ご苦労。ではドアを開けろ』

「……はい」


 図書室に着いた私は彼女と共に中に入る。

 そうして目に飛び込んできた光景に、私は絶句した。


『沢山の本が……素晴らしい』


 この世界で初めて、これほどの本を見た。本好きだったらたまらない光景だろう。上から下まで本本本。

 一体どんなものがあるんだろう。


『早速読むとしよう。リリベッドも読むか?』

「……私は、別に」

『そうか』


 取り敢えず一目見て気になった物から手に取っていく。魔術の基本が書かれていそうなものから魔術の種類が書かれているものまで。

 それを魔法で編み出した糸を駆使して取ってはこの目で内容を把握していく。


「……よ、読むスピードが、速い」


 一先ず3分程度で一冊を読み終えた。この世界で初めて読んだ本の感想としては……。


 内容が薄い。


 いや、魔術を知らない人が読んだらきっと為になるんだろうが、私の求めていたものは書いていなかった。更に他の文献も漁ってみるが、それと言った内容は書かれておらず、それ以外の、例えば歴史とかはかなりためになった程度だった。


 と思ってもうこれ以上探すのを辞めようと思ったが……お?なんだこの本は。


「……なんですかそれ」

『ふむ、“魔力の本質とその可能性”か』

「ああそれですか」

『読んだことあるのか?』

「ええ。でも書いている内容は荒唐無稽で妄想だらけでしたよ」

『……いや。これだよ』

「え……?」


 この本に書かれていたもの。それは今私が一番欲しているものだった。

 魔力の本質に、私と同じように辿り着いた者が残した本だったのだ。


『私が求めていたものはこれだったんだよ。これこそ、今の私に必要な物だ』

「でもそれ、間違ったことが書いてあるって……」

『先生にでも聞いたのかい?』

「……はい」

『はは、そうかそうか』


 それは良いことを聞いたな。

 それが本当なら少なくとも、サイドセントラルワン内の魔術師の中に魔法を使う者は存在しないことが確実となる。

 そして、彼女含め、この学園内の魔術の進歩の程度も知れた。


 ここにあった魔術に関する図書の全てが、私が研究を進めていく中で仮定し、棄却した物ばかりだったのだ。

 つまり、魔術の発展度で言えば私たちよりも下。ここを卒業した魔術師もそれほど強くないことが分かった。


『ここに書いてあることは全て本当の事だ。魔力とは何かがしっかり書かれている。私が実験の末に判明した事実もここで書かれている。良かった。私の方向性は間違っていなかったのだ』

「……」

『よし、これをコピーしよう』


 私は即座に魔法を組み、それをこの本に適用する。そうすることで私の目の前にこの本と同じ内容の文面が書かれた紙が積まれていく。

 その光景をリリベッドは唖然と見ていた。


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 第13話は明日の17:00に投稿予定です!

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