第14話

 それからしばらくの間彼女と付きっ切りで魔法について徹底的に教え込んだ。

 正直私だって分かっていないことが沢山あったりするが、それを言ってしまえばお終いだ。まあ、今回教えた内容は確実性を持っているものだけだから問題ないだろう。


 そうして彼女が順調に魔法を習得していくと、彼女の職業欄にあった“贋作”の意味が次第に判明してきた。


「教授」

『なんだ』

「これが出来上がったんですが」

『む?』


 魔法は魔術以上に分かっていないことが多い。まず魔法を扱える者が限られる上に別人が同じ魔法を今まで見たことがない。私が使ってきた魔法だってカカリナたちが習得した魔法をオマージュしているに過ぎないものばかりなのだから。

 

 故に彼女が持ち込んできたものを見た私は最初戸惑ってしまった。それは紛れもなく─────


『……私だ』

「でもこれ、動かないんです」

『……動いたら溜まったものではない』


 だが贋作、模倣か。それなら一つ試そう────としたがここで一つ壁にぶち当たった。


『リリベッド、これを魔法で模倣してみろ』

「えっと……魔力が」

『魔力?……ああ』


 そう言えばリリベッドの保有する魔力量が少ないとか何とか言っていたな。


『体内の魔力子の数……いや、魔力量は増やせるぞ』

「え?」

『簡単な話だ。結局、この世界はイメージの世界だからな。働きかける魔力の対象を体内だけでなく体外にもすればいい』

「……そんなことできるんですか?学園では空気中に漂っている魔力は自然と体の中に入るだけで、自分の意思で操作するどころか体内に入れることも出来ないと……」

『ふん。それは確かに間違いではないが、正しくもない。魔術を発動するときに体内の魔力が殆どを占めているのは確かだが、少しだけ外の魔力も吸収しているのだ』

「そうなんですか……!?」


 そう驚くのも無理はない。私だってこれを知った時はとても驚いたものだ。魔力子の移動はいつだって不規則で、体のどこから出てきてどこから入っているのか分かっていなかった。


 これを発見することが魔力子の性質の発見につながると思った私はこれの研究を始めた。その時私はこれとは別に魔術の種類と限界を纏めていた時だったので急いでこれを纏めて早速研究を始めたのだ。


 時間が足りないのでは、だと?知るか。私は睡眠を必要としないから時間は沢山ある。だから好きなだけ研究が出来るのだ。


「……」


 おい、なんだその目は。まあいい。

 兎に角私は体のどこかにある魔力子の入り口と出口を調べ始めたのだ。

 

 まず最初に着眼したのは手のひらだ。


「手のひら?」

『私たちは魔術を発動させるときどのように発動させている?』

「……あ」

『だからまずは手のひらの構造について調べた』


 


「ひっ!?」

『まずは自分の体で確かめる。こういう研究をするときはそうした方が手っ取り早い』

「……痛くなかったんですか?」

『痛みは勿論あったがそれも資料になる。痛みが強いという事はそれほど体にとって傷ついてほしくない大事な場所という証明に他ならない。まあ、実際結構痛かったが』

「なんでそんなさらっと言えるんですか」

『自分で調べ上げた研究結果を自慢せずに何が研究者だ』

「知りませんよ」

『そうか……話を戻そう』


 だからまずはこの肉球を切り開き、私の特別製の眼で視た。私の眼はあらゆる情報をひけらかす。まあその情報は限られているが、断片の情報さえあればあとは推測と実験を繰り返すだけだ。故にきっかけが欲しかった。


「それで何が分かったんですか?」

『何も』

「……はい?」

『何もなかったよ。手のひらには魔力を放つ特別な穴とかも、何もなかった』

「本当ですか?それ」

『間違いない。人体構造学はあまり精通していない身ではあるがある程度は分かる。故に断言しよう─────我々は手のひらからでなくとも魔術を放てる』

「……」


 実際その眼に頼らず自分自身の目でも確認したが、何もなかった。

 私がそう言うと彼女は黙ってしまった。しかしこれは事実である以上覆すことができない。それに彼女は一度見ている。


『私と君が初めて会った時、私は何処から糸を出していた?』

「……あ」


 私は手のひらが魔術、魔法の発動に全く関係ないことを突き止めた後、では何故手のひらから出ているようになっているのか、その原因を考えた。

 そして行き着いた先がやはり─────


「……イメージ」

『そうだ。手のひらを突き出して何かを出す。これ以上にイメージしやすいものがあるか?』


 このイメージはどこかの少年漫画の影響が強そうだが、創作物の人型ロボットなどの中に手を突き出さないで攻撃するものがあるか?無いだろう。私の主観だがな。


『人間は手を動かして何かを作り、書き、持ち、振い、様々なことをする。これ程自由な器官があるか?』

「……ありません」

『だろう?だからこそ、何かをする事、この一点において手と言うのはイメージの補完がしやすいのだ』

「では、そのイメージの指向性をさらに広げれば、手でなくとも魔術は放てる、と?」

『そうだ。だが体から離れた場所を始点として魔術を放つのはできなくはないが難しい。余計に魔力を消費するからだ』


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 第15話は明日の17:00に投稿予定です!

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