第10話
「いらっしゃい。何が欲しいんだい?」
「これを二つ」
「んじゃ、銅貨六枚だね」
「はいよ」
「毎度」
猫獣人達がサイドセントラルワンで三番目くらいに大きな街、デカルト領に馴染んできて丁度二週間。少しずつ集めた情報をある程度整理できたところで私はこの街にやってきた。
もちろん、この姿を見られるわけにはいかないので魔術で姿を隠して、かつ屋根の上のみ歩くという風に徹底しているのだが。
こうして見ると、中世ヨーロッパのような雰囲気がありつつも、どこか違う側面があったりしてなかなか面白かったりする。
やはり魔法や魔術があるというだけで変わってくるのだろう。
そして私はこの街の中で一際目立つ建物に目を向ける。閑静な住宅街に大きくそびえ立つその建物は冒険者ギルドと呼ばれるところだ。
そう、やはりというべきか、この世界にも冒険者は存在したのだ。
これも私の中の謎の記憶情報なのだが、こう言ったファンタジーには冒険者がいるのは当たり前、なのだそうで、その冒険者のする仕事とは基本的に魔物の討伐。
果たしてここでも同じかどうかだが─────まああまり私たちには関係ないだろう。冒険者になった猫獣人も数人いたりするが、それは金策のためだとレイナから聞いている。
私は基本、彼らの自由に任せている。私がすることは知識や知恵を求められたときと、手助けが必要なほどまでに追い詰められてるときのみだ。
これは仮に私がここからいなくなっても彼らだけでこの帝国を滅ぼすだけの力を身に着けて欲しいというささやかな願いが込められている。
それに私の自由な時間も確保できるしな。これが一番大きい理由だったりする。私はあくまでも彼らの守護霊的存在として鎮座していればいい。
と言っても、今更なる魔力子に関する情報を探っているのだが、そこで壁にぶち当たってしまったのだ。なので何かヒントを得るためにちょこっとこの街にあるという魔術師を育成する学校を覗きに来た。
きっとまだ私の知り得ないものがあると信じて。
しかしこの街は何と言うか……かなり入り組んでいるな。まるで迷路みたいだ。こうして屋根の上を歩いているからいいものを、もし街中を歩いていたら迷子になったに違いない。
どうしてこんな構造になっているのだろう。だがこんなの、住んでいる人にも迷惑がかかるのでは?
私はそう言った兵法とかにはあまりにも疎い。精々こうしたらいいんじゃないか程度でしか話せない。
だからそう言った職業の人に一任することにしているのだ。もしかしたらその彼らだったらこの理由も分かるのかもしれない。
そう考えている内にどうやら目的の場所に辿り着けたようだ。今私の目の前には立派な建物と広大な敷地で魔術の訓練をしている学生の姿があった。
ここがサイドセントラルワンの中で最難関と言われている─────ファウスト魔術学園だ。
にしても大きな建物だ。これ程の学園、見たことがない。
そしてこう言ったところには必ずと言っていい程厳重なセキュリティシステムが組まれているに違いない。
私は目を凝らして学園の、特に入り口の門を注視する。と、
……見つけた。侵入者を検知する魔術道具と警報を鳴らす魔術道具。更にその二つの魔術の詳細もだ。
どうやらこの二つは連動していて、まず一つ目の魔術道具によって学園全体に薄い膜のようなものが張られ、それに決められた所有物を持っていない者が触れると、二つ目の魔術道具に信号を送るという風になっている。
だったらこの二つの繋がりを断てば─────いや、それは危ない。きっとそれをされるのは想定しているはずだ。
そもそも、私のいるここと門にある魔術道具の距離はまあまあ離れている。目測300メートルほどだろうか。それ故断つよう魔法を放っても別の何かに阻まれるだろう。
……ここの突破にあまり時間をかける訳には行かないというのに。どうしたものか……。
少し路地裏に降りよう。考え込んでいる内に透明化の魔法が切れたら大変だ。
スッ、と最近覚えた着地法で音もなく地面に降り立った私はその直後に透明化の魔法を切った。
何かとこれを維持したまま動くのはかなり精神を削るから嫌だったのだ。移動するたびに魔力子が細かく動いて動いて……。神経を張り巡らせて大変だった。
なので仕方なくこの路地裏を経由してあの学園への侵入経路を探ろうではないか。
よし、そうと決まれば─────
「……何あれ。もしかして、魔物?」
『っ……!』
……見つかった。見つかってしまった。最悪な事態が遂に起こってしまった。かくなる上は─────
「うわっ!?」
『選べ、小娘』
口封じだ。
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第11話は明日の17:00に投稿予定です!
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