第11話
前にレイナと話したことがある。私もいつかは人の街に行く。そうなった時この姿を見られたらまず間違いなく魔物だと判断される。
実際私は人ではなく神でもない、神擬きだ。この存在はどちらかと言えば魔物に近い性質を持っていると言えるだろう。それにこの姿だ、新種の魔物として討伐対象にされるかもしれない。
そうなってしまったら我々の計画を早めざる負えなくなってしまう。それは良くない。
だから極力人に見つからないようにする。仮に見つかってしまった場合、取るべき選択肢は二つ。
一つは即座に逃げる事。そしてもう一つが─────
『さあ、選べ小娘。ここで死ぬか、私を見たことを忘れるか』
「……し、喋った」
『そうか、死にたいのだな』
「ち、違う違う!ちょっと驚いただけで……って、まだ私何も言ってないじゃない!」
脅すことだ。
見つかった途端私は即座に最近使いこんでいる魔法を彼女に放った。この魔法はカカリナが得た魔法を参考にしたもので、何かと使い勝手がいいものだ。
しかし攻撃力がそれほどないのが玉に瑕だが。だがそれを差し引いて余りある有用性をこれ─────糸魔法にはある。
「何これ!?ほどけない……!?」
『……』
「だったら魔術で─────」
『無駄だ』
「っ!?」
この魔法の有用性は二点存在する。
一つ目が糸に魔力を流せること。これは本来意味がないものだと捉えがちだが、その流す魔力量が膨大であればあるほど、糸に反魔術の性質を付与することができるのだ。それによって捕らえた相手の魔術を封じることができる。
二つ目はこの魔法、別に肉球から放たなくてもいいのだ。体のどこからでも糸を出して、自在に操ることができる。だが先にも述べた通りこれの攻撃力がほとんどない。束ねて一本の強力な糸にしない限り攻撃できないのだ。
そこがめんどくさい。一々散らばらせた糸を纏めるというのが。だから攻撃の際は別の魔法を使う。いつかは二つの魔法を同時に使う、とかしてみたいものだ。
そうすればこの魔法は十分光るだろう。
閑話休題。
正直このような少女を脅すなど気が乗らないのだが……仕方あるまい。私の存在はあくまで伝説上かつ猫獣人の間でしか知れ渡っていない言い伝えの架空の存在。ここにいること自体おかしなことなのだ。
故に極力人の目に触れられてはいけないというのに……やってしまった。さて、どうしたものか─────おや。
『君のその制服……まさか学園の?』
「え、そうですけど……」
『ふむ。ならば小娘。さっきの条件を変えてやる。ここで死ぬか、ここで私と契約をしろ』
「け、契約!?」
契約とは契約魔術のことを指すもので、人が何か重要な約束事をする際に結ぶ魔術だ。これは体内にある魔力子に一種の縛りを課すものだと最近判明し、中々業の深い魔術だという事が分かった。
と言うのもこの魔術、契約を反故にした者に対して一定期間魔力子の動きを封じるのだ。なのでその間魔術や魔法が一切使えなくなってしまう。
この契約、特に魔術師や魔法使いにとってかなり重要な物に違いない。だからこそ、ここで私と彼女が契約をすることで彼女の動きを封じる。
かつもしかしたら彼女を介して学園に入れるかもしれない。
そんなことを考えていたら、彼女が興味深いことを言った。
「契約なんて、そんな命にかかわることできませんよ!?」
『何……?命にかかわるだと?』
契約が、命にかかわる……?それはどういうことだ?
私は確かにこの契約魔術はあくまで魔力子にしか作用しないことを確認しているから、これが命を奪うものではないことを知っている。
……もしかして。
『そのように、教えられているのか……?学園では』
「は、はい。危険なものだから無闇に使わないように、と」
『……成程』
もしかすると、魔術が使えない=死だと考えているからそのように教えているのかもしれないな。魔術師や魔法使いは魔力子が動かせないと魔術、魔法は発動できない。それはつまり戦場において死を意味する。
成程。だがそれはあまりにも飛ばし過ぎなのでは……?もっと段階を踏んで、死ぬかもしれないから気を付けよう、で終わればいいのではないのだろうか。
『……契約魔術は最悪反故にしても死にはしないぞ?』
「え……?でも先生が」
『……契約内容を反故にすると、しばらくの間魔術が使えなくなるだけだ。それ以上のことはない』
「嘘……」
私がそう解説すると彼女は目を見開かせて驚いていた。
でも、この子かなり純粋だな。ここで初めて会ったにも拘らずなんでこうも素直に信じれるのだ……?
うぅむ……。まあ深く考えないようにしよう。彼女の個性だと思えばいいだけだ。
それよりも学園の情報だ。
『学園ではそのように習わなかったのか?』
「な、習ってないです。ただ、死ぬと」
『……そうか』
説明が少ないのでは……?ま、まあいいだろう。
『今から契約を結ぶ。私からの条件は三つだ。一つ、私の情報を他の人に喋らない。二つ、学園の情報を私に教える。三つ、私を学園の中に入れる。それに対し私からは君を殺さないことを条件とする』
「むぅ……」
『これで、契約成立だ』
私がそう唱えた直後、私と彼女の中に在る魔力子が契約魔術によって縛られた。これで反故にした瞬間魔術、魔法が使えなくなってしまう。
だが私と彼女に課せられた条件の差はかなり大きい。私はただ彼女を殺さないようにするだけだが、彼女は私に学園に関することを話さないといけないからだ。
……ん?そう考えるとあんまり重くないような。まあ深く考えなくてもいいか、別に。
それよりもだ。
『早速私を学園に案内したまえ』
「……」
『返事』
「はぁい」
今すぐ私はこの世界で分かっている魔術の情報を知りたいのだ。すぐに私は彼女に学園を案内してもらう。その際私の姿は魔術で隠して、かつ彼女の肩に乗って遂に学園の中に入ることができた。
まさかこんなにもすんなり悩みが解決できるとは思ってもみなかった。
私の姿を見たのが彼女でよかったのかもしれない。
彼女の名前はリリベッド。
***
名前:リリベッド
職業:贋作の魔法使い
称号:怨念
***
これまた称号に不穏な気配を感じる─────眼鏡っ子だ。
そう、眼鏡。なんとこの世界に眼鏡が存在していたのだ。こんな技術が発達していない世界で眼鏡があるなんて。
……どういう事なんだろう。私の主観になるが、この世界をある程度見てみて技術の発達がそれほど進んでいないと言うのに。
まあ今はそんな事どうでもいいか。
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第12話は今日17:30投稿予定です!
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