第9話

 それから二ヶ月。


「おはようございます、先生」

『おはよう』


 猫獣人たちへ魔術を教えてからまあまあな時間が経過した。彼らの強くなりたいという意思と、私の魔法への理解を深めたいという欲が一致して生まれた魔術教室。

 最初は皆魔術に対して良くも悪くも頓珍漢だったが、時間をかけていく毎に少しずつだが皆魔術を使えるようになっていった。

 特にレイナの部下として最初紹介してもらったフィンセルとレイナ、それともう一人の三人がかなり魔術を使えるようになっていた。


 まずはフィンセル。彼の職業は魔術師で、そのお陰もあってか習得はすぐだった。


「先生、出来ました!」


 なんて無邪気にはしゃぐ姿はちょっと見てられなかったが。だってもう立派な大人が手から火を出して遊んでるんだぞ?怖い怖い。


 次にレイナ。彼女の職業は巫女で魔術とはあんまり関係ないかもしれないが、彼女曰く、


「ネコマタ様を想っていたら出来ました」


 なんて恐ろしいことを言い、実際に出来ていた。もしかすると魔力子を反応させるために必要なものはイメージだけでなくあやふやな強い感情でもいいのかもしれない。

 新たな発見だった。


 そして最後の一人─────名をカカリナと言うが、こうなるまで正直なところ、私は彼女を知らなかった。

 だって交流があったのレイナとフィンセルとカリオネルの三人だけで他の人とは特に喋ってこなかったからだ。

 故に私はまず彼女を視た。


 ***

 名前:カカリナ

 職業:魔法使い

 称号:ストーカー

 ***


 何やら称号に不穏ありだが、それよりも職業だ。

 魔法使い。まあ魔術師と同じようなものだ。故に彼女も成長が速かった。フィンセルは多種多様な魔術を扱えるが、彼女はただ一つだけの魔法しか使えない。それは職業の魔法使いの特性なのか、それともまた別の理由があるのか判明はしていないが、彼女曰くそうなっているらしい。


「この魔法いいですよね。だってこれがあればあの人も……ふふふふふふふふふふh」


 私はこの話の途中で離れたからいつまで“ふふふ”って笑っていたのか、私は分からない。


 そんな彼女の扱う魔法は“連鎖崩壊”と呼ばれる魔法。魔力子を介して生み出した“糸”を繋ぎ、崩壊を伝播させる。糸を仕込む必要はあるが、この魔法の凄いところは糸で繋げさえすればそれだけで全てを破壊することができる。


 最初にそれを聞いた時、この女やば、と心の中で思ったものだ。今でも彼女を見ると偶に鳥肌が立つ。だが強力だから彼女を積極的に使いたくなる。劇薬だ。


 この三人を筆頭にした魔術師部隊を編成するのもいいかもしれない。

 特にカカリナは絶対にこの部隊の部隊長にすべきだろう。ていうか、それ以外に彼女の運用方法が分からない。考えたくない。


『さて、二ヶ月だ』

「はい」


 それについては後で考えるとして、今日で丁度二ヶ月だ。


『今日よりサイドセントラルワンへの潜入を始める。最終目標は帝国の壊滅。だがそれは段階を踏む必要がある。二か月前、我らはサイドセントラルワンを攻略するとだけ決めた。これを壊滅への狼煙とするとも。だが情報がない。敵は誰か、どれほどの戦力か。そもそも、まず地形すら何も把握できていない』

「おっしゃる通りです」

『故に私は情報が欲しい。どんな些細な情報でも塵も積もれば何とやらだ。力だけ持っていても出し抜かれたら得た力は無と化す。だからまず情報を集める。二か月間力を蓄えた。次は情報を蓄える。部隊の編成は』

「既に完了しております。隠密行動を得意とする猫獣人20名を選別いたしました」


 レイナが名前の書かれた一覧を見せてくれる。私の目はこの二ヶ月で直接見た者の情報なら名前を見るだけで再度ことが可能となった。

 成程。確かに一通り書かれている者たちの殆どの職業が隠密系だ。だが数人だけ別の職業の者が混ざっている。これは?


「彼らは別動隊です。まずその彼らがあの街の住人として生活をし始め溶け込みます。そこを第二の拠点にして隠密部隊を動かします。既にその者たちには一か月ほど過ごさせております」

『いつの間に』

「報告が後となってしまい申し訳ございません」

『大丈夫だ。元よりこの部族を率いていたのはレイナだ。私ではない。今後もこのようにして貰えると助かる。確か作戦立案が得意な奴が数人いたな。その彼らを次からは呼んできて欲しい』

「了解です」


 これで想定よりもだいぶ早く作戦を進めることができる。と言ってもまだ作戦は殆ど立っていない。こんな風に進んだらなあと漠然としている。


『一か月で情報を集めろ。そして集まり次第私に伝えるように。内容によっては臨時で作戦会議を開く。これを他の人たちにも後で伝えておけ』

「はっ」

『そして実働部隊の編成を今の内に進めておくように。魔術師部隊と兵士部隊だ』

「分かりました。フィンセルとカリオネルをそれぞれの部隊長として編成を進めておきます」

『一先ず今決めれるのはそれくらいか』

「そうですね」


 遂に動くことができる。夢の中なのに二ヶ月も過ごしてしまった。何とも不思議なものだ。

 魔力子の研究も順調に進んでいるし、レイナたち猫獣人たちの実力も上がっていっている。正直これ以上いらないだろうってほどには強くなっているのだが、相手の力が未知数である以上やりすぎってことはないだろう。


 なんせ、学者であったあの男でさえあれほどの実力を擁していたのだから。こと魔術の発展で言えば向こうに一日の長があるはずだ。きっと私がまだ見つけられていない法則などを得ているに違いない。

 ああ、気になるなぁ。もしかすると魔力子についてはもう全容を解明しているかもしれない。このようなファンタジーには魔術に特化した国とか都市があると何故か記憶にある。


 故に私は期待している。もし私が今望んでいることが出来るのだとしたら……。

 それもこれも、帝国を少しずつ崩してからだ。


『さあ、始めよう』

「そうですね」


 国崩しの始まりだ。


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 第10話は今日17:30投稿予定です!

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