第8話

 という事で外に出た私だが、道中何人もの猫獣人達に挨拶された。まあそれはいいんだがその中に私を拝んでいた人がいたのだ。


 ……やはり彼らにとって私は神なんだな、と思いつつ、でも自分はそんな器じゃないからやめて欲しい、と思いつつ。


 前にレイナから、どうやら自分は神であると同時に救世主でもあるのだ聞かされた。あの時私がいなかったらきっとあの男に猫獣人全員が殺されていただろうとも。


 いやいやいや、と。実際彼らの持っている力だったらあの男に勝てたはずだ。それはいくら何でも買いかぶり過ぎである。

 あの糸、彼らがほどけないほどに強かったのか?そうは見えなかったんだが……。


 まあいいだろう。いつかはあの糸も再現できればいいなとは思っている。私のこの目に関してある程度どういったことができるのか把握できている今、あの糸が何で出来ているのかも既に分かっているからだ。

 だがそれを生み出すだけの要素がまだ補完出来ていない。


 もしかしたら今から放つ水で再現できるかも……?このあとやってみるか。


『“水マシンガン”』


 周囲に人がいないことを確認して肉球を前に出してそう唱えると、勢いよく鋭い水の塊が連続で放たれる。それは地面を抉り、砂埃を引き起こし、地面がぐちゃぐちゃになってしまった。


 安直な名前ではあるが威力は十分だった。


 次に木に向けて同様に放つとなんと木を抉った。


 思わず笑みが零れる。明らかに想像していたものよりも威力が跳ねあがっている。ライターの火や蛇口から出る水を再現した時はその通りになったのに、それ以上を出した途端、普通ではあり得ないものが出てしまった。


 そこで私は右手に普通の火を、左手にはそれの二倍以上の火を出してみることに。魔力子によって差が出るのなら、果たして必要量の魔力子にどれほど差が生まれているのか確かめるためだ。


 結果。


『……なんだと?』


 威力に二倍以上差があるにも関わらず消費されている魔力子は丁度二倍だった。

 これはエネルギー保存則に沿っていない。私は100ある魔力子を使って100以上の魔法を放つことはできないと立証したはずだ。しかし何故ここでそれが崩れるような現象が起きている……?


 まさか間違っていた?まあ、一度立証しても直後に否定される、なんてことはよくある話だ。こう言った時間違っている部分は魔力子の性質はそのようなものではない、と言う場合とまだ私の知らない性質がある場合のどっちかだ。


 今度は水、風、更にはあり得ない重力子アンチグラビティでも検証を行った。その結果どれも消費魔力子は二倍だったのに効果は二倍以上になっていた。


 これはいよいよエネルギー保存則が成り立っていないと見直さないといけなくなってきたかもしれない。

 ここから更に発動時間を延ばしてみて─────


「あ、ネコマタ様。何をされているのですか?」

『む』


 と、新たな検証をしようとしたその時、奥からレイナが私に話しかけてきた。ここでの生活で何かとレイナには迷惑をかけている上にせっかく作ってもらった小屋を少し壊してしまった負い目があるせいか、既に私はレイナに頭が上がらなくなっている。


 なのでこう話しかけられると対応せざる負えないのだ。


 そうだ。こう行き詰った時よく研究室とは別の人にヒントを貰っていたではないか。レイナに少し相談してみよう。


『レイナ』

「はい、なんでしょう?」

『まずはこれを見てくれ』


 そして私は両手に威力の異なるライター火を生み出す。


「凄いです。両手で魔術を発動できるなんて」

『私は今、君たちの言う魔術を発動した際の魔力の消費の違いについて研究していてね。どうやら、魔力の消費の差が二倍あるにも関わらず、発動した効果が二倍以上の差が出ているのだ。そこで君に何か思い当たる事が無いか聞きたいのだ』

「え?しっかり

『なんだと……?』


 どういうことだ?これで丁度二倍になっているだと?

 私の目からしたら明らかに差は二倍よりも大きくなっている。やはりこの世界と地球の基準が違うというのか。夢の中なのに。



 それから私はレイナに他の魔法についても見てもらい、結果どれもしっかり二倍になっていると言われた。

 それを聞いてこの世界の認識と私の認識がずれている可能性が濃厚になってきた。これは他の人にも見てもらって確かめた方がいいかもしれない。


 そうして他の人にも私の魔法を見せた結果、レイナと同様の反応を見せた。更にそれとは関係なく、


「ネコマタ様、私に魔術を教えてください!」

「俺も!」

「僕も教えてください!」

「強くなりたいんです!」

『お、おぅ……』


 私に魔術を教えて欲しいと懇願してきたのだ。

 だが私だってまだ全容を解明していない以上、誰かにそう偉そうに教える事なんて─────いや。


 思い出せ。私の職業はなんだ?そう、教授だ。


 ***

 名前:ネコマタ

 職業:教授

 称号:神擬き

 ***


 私は教授だった。それを忘れてしまっていた。知識を渇望する生徒にその知識を教えるのが私の役目だった。

 それに他人に教えることで自分の理解も深めることができる。まだ未知のものであるためこれは必要な行程だと言える。


『いいだろう。魔術の真髄を求める者のみ、私の講義を受けるがいい』

「「「「「ありがとうございます!」」」」」


 忘れていた高揚感が私の中からまた湧き出てくる。他人に私の知識を分け与えることで生まれる新たな発見への期待。


 今から楽しみだ。彼らがどれ程成長するのか、そして私がどれほど魔術、魔法への理解を深められるかが。

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