第7話
帝国は主に東西南北にある四つの街と中央区と呼ばれる貴族や王族が住む地域の五つに分かれており、その四つの街は東から順に、
サイドセントラルワン、サイドセントラルツー、バックセントラル、フロントセントラル
と、呼ばれている。
北側をフロントにしているのには何か意図があるのだろうか。きな臭い。
そして私たちがいるところの近くの街、サイドセントラルワンは帝国の東側に位置している、帝国内で二番目に大きい街なんだと。
そもそも帝国の国土がこの大陸の中で一番だという事から、街一つとってもその広さが相当なものだとすぐに分かってしまう。
「ですが、このサイドセントラルワン内でもいくつか小さな街が点々と存在しております。確かに帝国内ではこのようにサイドセントラルワンを街、と称しておりますが実際は小さな街や村の集まりなので、一気に全てを占拠しないといけない、と言う訳ではないのです」
このセントラル、の呼び方はここで地域を意味しているんだと。英語だとセントラルって中央とか、中心とか、そう言った意味があるから少しだけ混乱するな。
まあいい。少しずつ慣れていこう。
それからレイナたちと何度も話し合いながら少しずつ方針を固めていく。と言っても二ヶ月近くある上に情報も足りていない以上、机上の空論でしかない。
妄想やたらればで作戦を立てられたらどれほど楽か。人生そんな簡単じゃない。
だから今できる事をしよう。作戦会議はほどほどに。今彼らは実力の底上げをしてもらわなければならない。
私も私で研究を進めるとしよう。
まず初めにする事としては魔力子の更なる解明だ。この世界に重力子があるのかは定かではないが、魔力子なる者が存在している以上重力子も存在しているかもしれない。前までは絶望的観測だったのが今では希望的観測にまで上がってきている。
だが重力子を見つけたところでそれが魔術もとい魔法にそれほど影響を及ぼすかと言われたらそれほどとしか答えられない。
だって魔法で既に反重力を生み出してしまっているから。
今でも疑問に思う。最初に私が使った魔法、
いや、考えてみればあれは反重力のようなものであって反重力ではなかった気もする。
重力は地球の中心に向かって物体が引っ張られる、大まかに力を四つに分けた時一番弱いとされる力だ。
高校では重力加速度と質量をかけてそれを物体にかかる重力とか何とか言ったりしていたが……懐かしいな。
そんな重力だがこの力は先ほども述べた通り、引力である。そう、引っ張る力だ。では逆の力は?そう、斥力。押す力だ。
斥力はとある点から物体を離す力の事を言う故に、視点を変えてみれば斥力とはその物体の行きつく場所からくる引力と変えることができる。あくまで見かけ上の話で、そのように見ることができるってだけだが。
こんな難しい話をごちゃごちゃ言っても仕方がない。簡潔に言ってしまおう。
私が出した魔法はあり得ない重力子を生み出したわけではないと、言いたいのだ。つまり反重力を生み出したのではなく、視点を変えて引っ張っていたに過ぎない、という事。最初すげースゲーと興奮したが、よくよく考えるとおかしな点ばかりで恥ずかしくなってくる。
故に改良が必要だと判断した。その為に魔力子の出来る事と出来ない事の区別を見つけないといけない。
あの時検証と称してライターの火を再現した。だがそれ以上の火力が出せるのかはまだ見ていなかった気がする。
してみるか。
イメージしやすいように言葉にして、
『ライター。火力二倍』
結果。
『あっぶな』
想像以上の火力が我が肉球から飛び出した。あわや大火災を引き起こしかねないものだったので急いで消したのだが……どういうことだ?今確かに二倍の火力で、と唱えたはずなんだが。
もう一度試そう。
『ライター。火力二倍』
直後、さっき同様明らかに二倍以上の火力で火が噴き出した。再度急いで火を消す。さて。
『これは……何か法則性があるのか?』
魔力子が反応するのはイメージのみだと思っていたが、それ以外にもあるのか?それ以外で一旦試すとしよう。
『風二倍』
……こない。もう一度唱えても風が吹くことなどなかった。元々風そのものの威力が弱かったから二倍にしたら確かな風を感じれると思ったんだが。
室内でやったのが良くなかったのか?それじゃあまた別のもので試そう。
この二つはあの男を前に使ったものだから確実に発生するだろうと思って使ったものだ。だがこれから使うのはまだ確かに使えるか分からないもの。
仮に使えなかったとしてもまた新たな疑問と調べるべき事柄ができるからこっちとしても嬉しいからどっちの結果に転がっても問題はない。
よし、ではやってみるか。火、風、ときたら次は─────
『水道の蛇口から出る水』
結果。
『お、出た出た』
私が想像した通りの、チョロチョロと静かに蛇口から出ているような威力の水が私の肉球から出て私の足元を濡らしていく。
……ぬるい水だな。なんか気持ち悪い。
取り敢えず水が出ることはこの一度で確定できた。後はこれの二倍の威力で放てるかを検証しよう。
後唱える時いちいち水道の蛇口とか言うのは面倒だな。そこは頭の中で補完するとしよう。
『水二倍』
そう唱えた直後だった。まるで極限まで細めた糸のような水が肉球から飛び出て、目の前の小屋の壁に穴を空けた……ん?は?
余りにも一瞬の出来事過ぎて思わず放心してしまったが、
「ネコマタ様、何か凄い音がしたので来ましたが……」
『……』
直そうとしたところにレイナがやってきてしまった。
レイナに何とか弁明して戻ってもらってから、再度この問題と向き合う。二倍と唱えたはずなのに結果それ以上の火力が出てしまった。
これは何故か。いや、そもそもだ。
私がこうして口に唱えて魔法を放っていたのは単純なイメージの補完のためだ。だがそれを二倍した光景を私は見たことがないではないか。
ライターの火を二倍にしたところなど見たことがない。いや、普通よりも火力の強いライターの火なら見たことはあるが、それは二倍だと明確に言えるかと言われたら間違いなく違うと言うだろう。
つまりイメージ不足が今回の原因となっている。と、仮定する。
そして検証することとして、我が研究室の蛇口から出る水をイメージしながら再度水を出してみる。
私の研究室にあった水道から出る水の勢いがそう言えば物凄い勢いだったのを思い出したのだ。助手と一緒にこれどうしようと話し合った時に、
「これ、まるでマシンガンみたいですね。どうやっても直る気がしない」
と言っていたのだ。
ならば、魔法でマシンガンのようなあの水の勢いを再現してみようではないか。確実なイメージ、いや、もはや記憶そのものから魔法を放つ。
早速試し─────……あ。
外でやろう。
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第8話は今日17:30投稿予定です!
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