第6話
「はい。帝国は私たち猫獣人だけでなく、他の種族も迫害しています。その中には過去我らのご先祖様が大変お世話になった種族もおるのです。ですので、彼らの為にもここで動かないと、助けられない」
成程。
さて、今ここで私に二つの選択肢が出現した。
一つが彼らを助けることなく見捨てる事。これのメリットとしては間違いなく私の死亡率が減ることと、余計な気遣いをするような相手がいなくなること。
そしてこれが一番大きなメリットで、それが魔力の研究を自由に行えること。
魔力は全くの未知なる力で何が出来て何ができないのかを探りつつこの世界を旅したいという欲が芽生えてきている。
だがデメリットとして、間違いなく寝覚めが悪い。この先絶対にここで彼らを助けなかったことを後悔し続けながら旅を続けるだろう。それはきっと、気分が悪い。
そしてもう一つの選択肢、それは勿論の事だが、彼らを助ける事。これのメリットとしてはさっきのメリットデメリットが逆になる感じだな。
寝覚めが良くなるし、この先後悔しなくなる。だが同時に自由が無くなり、好きな研究が出来なくなってしまう。
だがここで、一つ目の選択肢のメリットにある死亡率に関して、そう言えば夢だったことを思い出し別にここで死んでも特に問題ないことに気づいた。
そうだ。私はここで死んでも別に問題ないのだ。
それに研究に関しても合間合間ですればいいだけの話だし。
そうやって一応の言い訳を述べつつも、結局最初から選択肢なんてあって無いようなものだったのだ。
私は、とにかく寝覚めが悪いのを好まない。嫌悪していると言い変えてもいい。
睡眠は私の中では特別重要な役割を担っている。研究で酷使した脳を休めるだけじゃなく、滞った研究に対する苛立ちを整えるためでもある。
極稀に深夜テンションで作業したりもするのだが、そう言った日の次の日などは絶対に吐き気が止まらなかったりしている。
そしてそんなテンションに陥る理由として最たるものが“寝覚めの悪さ”だった。
前の日に嫌な物を見た、聞いた、起こった、など。自分のメンタルを抉るような物事が起きるだけでそうなってしまう。深夜テンションで研究しても全く進まないどころか変に悪化させてしまったりするので迷惑千万なのだ。
故に寝る前後ではメンタルに影響が起きないように細心の注意を払っている。
そしてきっと、彼らをこのまま見捨てればそれがずっと起きるだろう。それだけは断固として嫌なのだ。
結局彼らを助けるのなんて自分勝手な理由だ。これが世のため人の為とかだったらなんと崇高な魂を持っているんだと自画自賛したりもしたと思うが、生憎私はそんな風にできた人間ではない。
自分が嫌だからする。私の行動原理はいつだって寝覚めの良し悪しで決まるのだ。
まあこれによって帝国の住人達が大量に殺されるかもしれないし、逆に猫獣人達が全滅するかもしれない。だがそんなのは私にはどうでもいいのだ。
私が彼らを助けた、彼らは私に助けられた。それがどのような結果を生もうがその事実さえあれば私はいいのだ。
助けたという事実だけで寝覚めは間違いなく良くなるだろう。
それに私が自ら先頭に立って戦闘に参加するのだってそんな無いだろうし。
『この先は地獄だぞ?帝国を滅ぼしたって返ってくるものは間違いなく少ないだろう。もしかしたら何もないかもしれない。それでもいいのか?』
「構いません。私たちの心は既にただ一つだけに向いています。それがどのような結果を生もうが関係ない。猫神様、私たちは不器用な種族なんですよ?」
自らを不器用と言うか。その愚直にも真っすぐな心のことを指しているのだろうが、成程確かに間違っていない。
彼らの瞳には私ではなく別の何かを映し出している。それが一体何なのか、私には見当もつかない。だがそれでいい。
興味が湧いた。
『いいだろう。ではこの私─────ネコマタにお前たちがどのような結末を迎えるのか、その生きざまを見せつけてみろ』
「はっ。我らが神であらせられるネコマタ様をきっと満足させられるような散り様をお見せできるよう、死力を尽くして参ります」
彼らは復讐者であり、命を全力で燃やす。その姿は間違いなく、人そのものの果たすべき使命を全うする人本来のあるべき姿に違いない。
今私の姿は猫そのものだが、同時に心、魂は人のものだ。同じ人として、私は心の底から彼らに敬意を表したい。これ程真っすぐな願いを持てる人はそういない。
彼女たちの笑みはとても獰猛だった。獲物を見つけた肉食獣のような目で私よりももっと奥にある帝国を静かに見つめている。
……のだが、一人だけ何やらおかしな目になっている者がいた。それは私の目の前でひざまずいているレイナだった。
***
名前:レイナ
職業:巫女
称号:神の使い/復讐者/依存
***
深く彼女を見ると、その称号が変化していた。彼女の強い心がそうさせたのだろう。
私は未だにこの“称号”がどのような影響を及ぼすのか、全く分かっていない。そこらを是非解明したいと思っているのだが、果たしてこれで彼女に何か変わった部分があるのだろうか。
観察観察─────
「ああ、ネコマタ様ぁ」
……うん。なんか私を見る目が心なしか蕩けている気がするんだが。もしかして依存ってそう言う事なのか!?
ええっと、こう言う彼女のような人の事を“チョロイン”?いや、“ヤンデレ”?と言うのか?なんだチョロインとかヤンデレって。外国の言葉か何か何だろうか。
一先ず今後何をするかについては決まった。この夢がいつ醒めるか分からない以上行動はなるべく早く、失敗は少なく、の方針で私は動くことにしよう。
だが今は動くべきではない。
これは私が生まれた研究室に会った資料から見つけた物なのだが、どうやら近々ここの近くにある街─────サイドセントラルワンのデカルト領に帝国の第四王女がやってくるらしい。
らしい、と言うのは、そのような旨の手紙が発見されたからだ。あの研究所で。
聞くところによると、まだこの世界での通信方法は手紙一択らしく、それを魔術で運ぶのが主流なんだとか。いくらなんでも不便すぎるだろう。
だが電気、とかそこら辺がまだ未発達だったから仕方がないと言ったらそこまでだ。
そして手紙を送るにも相当の魔力……私の言い方では魔力子が必要のようで、ここまで送るにはまず間違いなく魔術が使われている。
それほど彼は国内では重鎮レベルの地位にいたんだという事が分かる。
あんな男でも技術力だけで見たらきっと帝国随一だったんだろうな。なんせ、この体を作り出したのだから。
私の体は確かに人工で出来ている故か、まず食事を必要としない。この体を維持するためには外に漂っている魔力子をちょっとでもいいから吸収するだけで事足りる。
この作りは正直ありがたい。食事をする時間なんて無駄だと思っていたから。
閑話休題。
兎に角そう言った事だから、今頃街は厳重な警戒態勢で入り込めないだろうと予想している。まぁ王女を殺してそれを狼煙とするという案も出たが、流石にこちらの戦力が無さすぎる以上すぐに殲滅されるのは目に見えている。
「だから動くのは今から半年後、なのですね?」
『そうだ。この世界の通行手段が馬車であり馬車の速度のことも加味すると、王女は恐らくだが二ヶ月ほどあの街周辺にいるだろう。王女を護衛している騎士はきっと精鋭ぞろいに違いない。そうなると万が一で負ける可能性が出てくる。私はその万が一、を嫌うたちでね。なるべく確実性をもって事に当たりたいのだ』
「成程」
『故に、まずは情報だ。今日から二か月間は各々のトレーニングを。この森には強力な魔物が出るのだろう?そいつらを殺して糧としろ。そしてこの二ヶ月が終わったら、街に潜入する』
「はっ」
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第7話は明日17:00投稿予定です!
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