第5話
いつものような朝をこのような形で迎えてしまった……が、おかしい。これは完全におかしい。一体この夢の終わりはいつ来るのだ?
「おはようございます、猫神様」
『……うむ』
私は昨日確かあの男の研究室の机で丸まって寝ていたはずだが、いつの間にか小屋の中で寝かされていた。
……小屋?どこのだ?
「ああ、この小屋は我が同胞が昨日建てた物です」
『……ワァ』
日本建築業顔負けの速度。それに見た感じ作りもしっかりしているし、デザインも木の良さを前面に出していて木のぬくもりを感じられるほどだ。
素晴らしい。この出来がまさか一日で出来上がるとは……恐るべし、猫獣人の建築力。
「朝食も用意しております。その後我ら猫獣人356名の前で改めて猫神様の存在をアピールしてもらいたいのですが」
『……わ、分かった』
や、やってやる。もうここまで来たら腹くくってやるさ。何でもかかってこい。
そうして朝食を取って、猫獣人らの前に立った私は改めて彼らを観察する。
特徴的な猫耳が頭についており、代わりに人だったらあるはずの所に耳が無い。流石に耳四つある、なんてことは無かったか。
そして容姿端麗の者ばかりで日本だったら間違いなくモデルになれる奴らがうじゃうじゃいて恐ろしく思ってしまった。こういう時、猫であることが何よりの救いだと思ってしまった私はもう終わっていると言っても過言ではない。
……いや、自己否定は止めよう。私だって、きっと、多分、恐らく、希望的観測の元、もしかしたら、容姿が優れていたかもしれないのだ……!
閑話休題。
それ以外にも特徴があるとするならば、爪や牙など、猫の身体的特徴が所々に見えるという事だろう。これは猫獣人の祖先である猫の血を引き継いでいるんだとか何とか。
引き継いでなかったらなんなんだって話ではあるが、些か猫が起源でこんな人型になるなんて、と思ってしまう。
異世界七不思議ってやつか?なんだその七不思議。私は知らないぞ。これも勝手に出てきた記憶だ。断じて私の記憶ではない。
取り敢えず観察はこれくらいにしておこう。これ以上見るべきものは……ああ、尻尾があった。これで最後だな。
それでは、軽い自己紹介でもしようかね。一応考えていはいたのだ。ここでどのような風に自己紹介をすれば、がっちりと心を掴めるのかについて。
それを今、発揮するときだ。
『猫獣人たちよ。私は猫神、と呼ばれるものだ。私自身実際自分の正体に関してよく分かっていない部分がある上に、この世界についても全くと言っていい程理解していない。なので私の扱いはそこらにいるペット、と言う感じで問題ないので是非ともフランクに接してほしい』
完璧だ。素晴らしい自己紹介─────
「ペットだなんて、そんな恐れ多い!」
「やはりあなた様は我々の神であらせられます!」
「ああ猫神様!」
「我々は一生あなた様について行きます!」
……完璧だな!
もっと、もっとこう、フランクな感じで接してほしいんだが、こうも畏まられると緊張するというか……うん。
ま、まあいいだろう、うん。
取り敢えずレイナとそれ以外にもう二人の猫獣人を私がいる小屋へと招き入れ、今後の動きについて話すことにした。
ここはどうやら帝国の領地らしく、その帝国と言うのは所謂人間至上主義で猫獣人を始めとした他種族を排斥しているのだとか。
そして猫獣人の仲間も何人か囚われたり殺されたりしているらしい。
「猫神様、図々しいこと承知の上でございますが、どうか我々の仲間たちの救出の手助けをしていただきたいのです」
「お願いします」
***
名前:カリオネル
職業:剣士
称号:なし
***
***
名前:フィンセル
職業:魔術師
称号:なし
***
レイナの部下だという二人が同時にそう言って頭を下げる。その後彼らと同じようにレイナも頭を下げ、私に懇願してきた。
彼らの仲間は帝国各地に散らばっているらしく、全員を助けることは既に諦めている。だが少しでも同胞を助け出し、
「この帝国を私たちの手で終わらせたいのです」
城崩しならぬ国崩しを引き起こそうとしているのだ。
何と壮大な野望なことだ。帝国ならば、文字通りあらゆる国に侵略して今の領土を得たに違いない。ここらの歴史なんか知らないし別に知っても意味なんて無いのだが、帝国と名乗っている以上軍事力は間違いなくある。それもかなりのだ。
侵略を成功させるにはそれなりの武力が必要になってくる。侵略先の国と互角では足りない。それ以上の、圧倒的な武力がきっとかの国は持っている。
そんな国に喧嘩を売るなど馬鹿のやること。だが私は仮にも彼らの神である以上叶えないと神とは呼ばれないだろう。いや、自分から呼ばれたいなんて思っていないが。
それでもなんか、寝覚めが悪い。
それに自分としては案外何とかなるのでは?と思ったりもしている。
さっきの彼らの目で追えないほどの動きがどうやら全力ではなかったらしいのだ。あれ以上の動きで敵を翻弄できるのだとしたら。やりようはいくらでもある。
彼らが動きやすいように私が裏でセッティングすれば、後は彼らが自由にしてくれるはずだ。
裏での仕事は私の得意分野だ。助手や研究員のみんなが少しでも研究しやすいように予めよく準備していたからな。
『この国を終わらせる、か……。同胞を助けるだけじゃ駄目なのか?』
「はい。帝国は私たち猫獣人だけでなく、他の種族も迫害しています。その中には過去我らのご先祖様が大変お世話になった種族もおるのです。ですので、彼らの為にもここで動かないと、助けられない」
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第6話は今日17:30投稿予定です!
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