第4話

 むぅ。しかし違和感が凄いな。体の、ではなく第五の力が存在する、という現状にだ。

 魔力と言う今までで一番自由な力をどう扱うのか、どのような理論の元動かせるのかなど謎な部分が多い中でこうして力を行使しているというその事実に、強烈な嫌悪感を抱いている。


 これまでの常識を捨てる必要があるな、これ。だがどうやって。夢の中で常識を捨てるって理解に苦しむのだが。


 いや、逆に考えれば常識に囚われたままで見る夢は夢ではないな。うん。


 強引に理解した私は更に考察を深めるために魔力子そのものに対し、どのようにアプローチをすれば動くのか検証してみることに。


 そんな時にまたもやどこからか記憶が私の中に浮かび上がってきた。

 ファンタジー世界では魔法はイメージの影響を強く受ける……なんだその曖昧なものは。そんなもので毎度の出力に差が出るなんて不安定過ぎるだろうが。よくそんなもので成立してきたな、魔法。


 まあいい。兎に角イメージなのだな。本当に手探り状態で心配になってくるが……こういう時は仮説を立ててやっていくしかない。


 仮説その一。魔力子は魔法及び魔術使用者の脳内イメージを具現化している。


『実証開始だ』

「な、何を」


 脳内イメージを具現化する際にどれほどのイメージで魔法が出るのか、やってみよう。

 こういう時イメージしやすいように声に出して行った方がいいな。


『まずは……そうだな。うん、ライターの火』

「は……?」


 ライターはたばこを吸う時によく使うものだから馴染み深い。だからこれは安易かつ確固たるイメージができた。


 結果。


『ほう』


 私の右前足の肉球から縦長の火が出てきた。その際魔力子が私の体の中で動き、右前足に収束していったのを確認した。

 確固たるイメージで行う場合、魔力子の働きはスムーズに行われる、という事がこれで実証できた。では次に曖昧なイメージで行ってみよう。


『風』


 自然現象の中で最も身近な物の一つと言える、風。外で活動する際大抵我々の体に向かって吹く物だが、しっかり想像できるかと言われたら難しいものだと私は感じた。

 だから風。かなり曖昧なものなのだが果たして─────


『これは……』

「さっきから何をしている……!僕の命令に従えよ……!」


 確かに穏やかな風が私たちの体に当たり始めたが、魔力子の動きが少しだけ鈍かった。この時、少しの魔力子が余計なエネルギーに変換されたのが分かった。成程。


 曖昧なイメージで魔法もしくは魔術を行使すると100%それがエネルギーに変換されずに外に出されるのか。だが100ある魔力子を100以上の魔法、魔術に変換はできないとこれではっきりした。

 力学的エネルギー保存の法則……物体が運動するときに使われたエネルギーと摩擦など別のものに変換したエネルギーの総合は物体が運動する前に保有するエネルギーの総量と同値になるこの法則と同じ法則の元成り立っているんだな。


 エネルギー変換率はイメージに左右される。その変換率そのものが魔法、魔術の威力に直結する、と。


 最初の仮説とずれてしまったが、新たな発見ができた。と同時に、どんなイメージでも魔力子は具現化してくれた。

 これで仮説は立証された。


 だがこの仮説の過程で第二、第三の考えていた仮説も立証されてしまった……。


 仮説その二で魔力子の変換効率に関して、仮説その三で第三の魔力子供給源の有無を確かめたかった。だがもう分かってしまったから飛ばすことにしよう。


 仮説その四。魔力子の固体化の可否。

 魔法、魔術発動時、魔力子はイメージしたものに変換される。しかしその際、何もない所にそれを生み出す故、魔力子がどのように変化することでそれを生み出しているのか。

 より正確に言うのなら、魔力子の性質が変化してから物質化しその場に顕現するのか。


 それを確かめよう。


操術の糸マリオネットっ!」


 丁度いいものが来たな。あれを防ぐためにまずは魔力子を右足に集め、簡単な盾をイメージする。そしてそれを放出するように押し出せば─────


「何だと!?」

『成程な』


 出した直後、純粋な魔力子が固体となって私の前に出現した。魔力子の配列が変わったと同時に魔力子がイメージした盾を構成する物質へと変わっていったことが私の目に映った。


 ……なんだこの、魔力子と言うものは。自由が過ぎるものだぞ。


「ね、猫神様。それほど魔力を出してお体に影響は無いのですか……?」

『魔力……?ああ、魔力子の事か』

「魔力子……?」

『今あの男を使って仮説を検証している。済まないが、奴を殺すのはもう少し後になってしまうかもしれない』

「それは構わないのですが、それよりも猫神様の御身に何かあってはいけませんので」

『心配ありがとう。だが問題ない。どうやらその“魔力”とやらを私は多く保有しているようでね。お陰で今無性に楽しいんだ』

「そうなのですか。猫神様が楽しそうで我々一同とても嬉しく思います。では、これが終わるまでに我々も準備をして参ります」

『そうか。好きにしてくれ』


 ***

 名前:レイナ

 職業:巫女

 称号:神の使い

 ***


 猫獣人の彼女─────レイナは私にそう告げると、後ろの同胞たちに指示を出し始めた。彼女はどうやらこの猫獣人たちのリーダーのようで、明らかに彼女より歳を食ってる人も彼女の言葉に従っていた。

 しかし私はこの直後の光景に目を剥いた。


『……早っ』


 動きが人のそれを超えていたのだ。まるで瞬間移動のそれでテキパキと作業を進めている。あの男も猫獣人の事を“世界最強の種族”とか言っていたが、成程、これを見てしまえばそれも少しだけだが納得がいくものだ。


 ……あ、そうだ。


『レイナ』

「あ、はい。って、なんで私の名前を……」

『そんなことはどうでもいい。あの男は君たちの同胞を何人も殺している。ここに同胞が一人も帰ってきていないのは奴が私をここに呼ぶために殺したのだ』

「なっ……!?そ、それは本当ですか……?」


 レイナは分かりやすく驚き、そして再度博士を睨む。

 私は考えたのだ。さっきまで聞こえてきている“殺せ”の声の主たちの願いを完遂するのは何も私である必要はない、と。

 もういっそ彼女たちに任せようと。


『あの男を殺せ』

「はっ」

「何を─────」


 そして任せた結果、一瞬で事が終わった。

 ……動きが全く見えなかったんだが。命令して、瞬きした次にはもう奴の首刎ねて戻って来ていた。

 これが世界最強の種族。強さの底が見えない。


「終わりました」

『……ご、ご苦労』

「これくらい、当然のことです。あの程度、我々には朝飯前以前のものですので」


 ……猫獣人、恐ろしいものだな。


 それから研究室の中に在るものを粗方拝借した。中には無限に物が入るという空間鞄なるものを得たお陰で研究室のもの全てを入れられた他、伐採してくれた丸太たちも入ったのだ。


 ……さて、丁度いいころ合いだ。そろそろ起きるとするか。


 ─────と思って、寝たのだが……。


『……何故だ』


 普通に朝を迎えてしまった。


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 第5話は明日の17:00投稿予定です!

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