第3話

《殺せ》


 あんまり非科学的な事象を信じたくないんだが……これはもう信じざる負えないだろう。この言葉はこの地に、正確にはあの研究所にいる猫獣人らの怨霊の声だったのだ。


 こうなってしまえばもうあらゆる不可思議を一端受け入れないといけないだろう。一応夢の中とは言え、この世界に関してある程度順応していかないといけない。

 困ったものだ。非科学的でありながらどこか魅力的な何かを感じている自分がいる。それにこんな状況でも猫獣人たちを助けたいという気持ちと、楽しいという二つの感情が私の中で入り乱れている。


 こうなったらヤケクソだ。夢の中の長期休暇を楽しむとしよう。


 それにあの男が言っていた魔力と言うのは何だろうな。これまた聞いたことの無いものが……あー成程成程。ファンタジーではお馴染みのものなのか。

 どこからこの情報は供給されているんだろうって不思議に思うが、存在さえ知ればなんとかなるだろう。それに、


 ***

 名前:未定

 職業:なし

 称号:神擬き

 ***


 私が何なのか、さっきと同じような感じで見ることができた。

 名前は……いや、ここで自分の名を口にする必要は無いだろう。私は私だ。これは未定でも問題ない。それに職業は猫だからある訳がないだろう。そして称号の神擬き。これはどういう事なのだろうか。


 ***

 神擬き:神と同じ力を振えるが神とは別の存在。矛盾を持つ事こそが生物たらしめるのだとしたら、きっとこれも神ではなく生物なのだろう。

 ***


 ふむ、確かに私が猫神とか言ったってあの状況からして私のこの体はあの男が作り出したようなものだ。

 しかし彼は私の創造者でありながら私に何か命令するようなことはしない。それは何故か考えればきっとこの神擬きが関係しているに違いない。


 神のようで神ではない。だがしかし、力は神と同等かそれ以上のものを引き出せそうだ。特にそのようなことは証明できていないのだが、確信だけはしている。私は人生で一度も神など信じたことなどないため、神はどれほどの力を発揮できるのか全く分からないが。


 魔力、そして神に似た力。うむ、まだよく分からないが何となくで行ける気がする。


《殺せ》


 ……この声の主たちの願いを、夢の中だが叶えてあげるとしよう。でないと、寝覚めが悪くて研究の集中できなくなるかもしれない。


「ははっ、強引だけど当初の目的は果たせる……まずはこいつらを支配下に─────」


『─────それは困るな』


「っ!?」


 おぉ、声を発せたのだな、この体は。少しびっくり。

 それに私が声を発した途端男が驚いた表情で私を見てきた。やはり私を支配下に置けていると思っていた、と。

 ふん。馬鹿馬鹿しい。


「な、なんで僕の許可なしに喋っているんだ!?」

『何故喋るのにお前の許可が必要なのだ、馬鹿が。研究者の端くれなら、こう言ったイレギュラーにもしっかりと対応しないといけないだろうに。さては、こうなる可能性を考慮していなかったな?』

「う、五月蠅い!僕の計算は完璧だったはずだ!なのに何で……!?」

『それはお前の計算が間違っていただけだろう』


 そう、いつだって実験、研究は間違いの連続で、成功することなんて万に一つだってあり得ないことの方がほとんどだ。だがその万に一つのあり得ないことの中から極僅かの小さな欠片を集め続けて初めて大きな成果を得ることができる。


 理論と実験。それを何度も何度も繰り返すことで人類はここまで発展したのだ。


『お前の間違いを私が正してやろう。但し少々強引な手で、だが』


 魔力の存在を認識してから、少しだけそれの性質を理解した。それをこの男に試すとしよう。この魔力とやら、随分と面白いもののようだからな。


 私は早速この体にある魔力を操作し、唱えた。


『─────あり得ない重力子アンチグラビティ

「ぐっ!?」


 すると彼の体はまるで反発したように、さっき入ってきたばかりのドアを突き破り研究所の中へと消えていった。

 と同時に猫獣人たちを縛っていた糸が解れた。


 魔力……成程な。これは重力とも電磁気力とも、それに強い力と弱い力、今地球にある四つの力のそのどれとも違う別の力か。

 それにこの力、可変性と変質性を持っているのか?まるで物体。力そのものではない。


 重力を発生させる重力子が確かにあると仮定して、もしかするとこの魔力にはその重力子と同じような素粒子があるのかもしれない。それは


 これを“魔力子”とするか。細かな魔力子を集め、それを変化させることで初めて魔力と言う力を発揮させられる、と。


 そう解釈すればさっきよりもいくらか魔力の動きがスムーズになった。


「猫神様が、私たちを助けて下さった……!」

「何だあの力は。はっ、まさか!?」

「それにさっき喋って……」


 魔法……ああ、これもファンタジーの産物か。何もない所から炎を出すとかそういった類の、あり得ない能力の事か。だがそれとは別に魔術と言うものもあるのか。


 ん?この二つ、やっていることがほとんど同じではないか。なんでこう区別しているのだろう。めんどくさいことをする。

 まあいい。一先ずあの男を殺して……この言い方は物騒だな。


 叩きのめすか。


「くっ……魔術耐性の効果は発揮されているはず。なのに何で僕はあいつの魔術の効果を受けているんだ……?」


 取り敢えず奴をここから離して猫獣人たちの拘束を外すことはできたが、これだけで奴は倒せなかった。


 どころかあまり効いているようではないし。言い訳をするのならまだ魔力子の認識と諸々の操作に慣れていないのだ。夢の中なんだからすぐにできるようになっててもいいじゃないかと思うんだが。


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 第4話は今日の17:30に投稿予定です!

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