第2話
「君たちの神、猫神様だ」
猫神?こいつは何を言っているのだ。どこからどう見ても、このフォルムはただの猫で神の姿では─────
「この御方が、我らのご先祖様の……」
「あぁ、なんと神々しい……!」
なんだこいつらは。さっきからまるで本当に生えているみたいに頭の耳をピコピコ動かしやがって。
ん?なんだこの記憶は。これは……ケモミミ?こいつらの頭に生えているのは本当に猫の耳……だと?私はそんなの一切知らなかった。ケモミミなど初めて聞いたはずだというのに何で知っているのだ?
これも夢だから?にしてはさっきからやけに現実的だ。
《殺せ》
っ、それにさっきから聞こえるこの声は何なのだ。頭の中でずっとこの声がこびり付いて離れない。
はぁ、きっと疲れているんだろうな私は。夢なのにこんな幻聴が聞こえてくるほどには体に疲労が溜まっていたんだろう。この夢が醒めたらすぐに休暇申請を取らなければ。
それにさっきのケモミミというものだって同じ研究室の研究員から世間話をしたときに聞いたことのあるもので、それをどこか頭の片隅で覚えていただけかもしれないし。
でなければ自分の知らないものがポンと分かるわけがない。
「それでは博士。すぐに猫神様をこちらに」
「いいけど、その代わり……契約はしっかりとしてもらうよ?」
「ああ、異論はない」
博士と呼ばれた男からケモミミを生やした女へと私の体が引き渡される。
《殺せ》
っ、だからさっきから何だ。黙っていろ煩いな。それに一体誰を殺せと─────
***
名前:レイノルド
職業:博士
称号:大量殺戮者(猫獣人)
***
……なんだこれ。
私の視界に突如謎の文面が見えた。そこに書いてあったのは名前と職業と、称号と呼ばれるよく分からないものの三つだった。それはさっきまで聞こえていた謎の声が導いたもので、まるでこいつが標的だと言わんばかりに。
今私は博士と呼ばれていた、目覚めた時からずっといたこの男と文面のみが映っている。つまりこれは、この男の情報……ってことになる。
なんで急にこんなものが見えているのか分からないが、一つ見逃せないものがあった。それが一番最後の大量殺戮者(猫獣人)。きっと猫獣人を何人も殺したってことなのだろう。でなければこうやって猫獣人って種族を名指しで載せはしない。まぁ推測でしかないのだがな。
しかしさっきの研究室で見た物の中に臓器と思わしき肉の塊があった。それはまだドクンドクンと蠢いていたのだが、その時は特に気には留めていなかった。
もしそれが猫獣人の内の一人のものだとしたら、この男と、今私を抱きかかえているこの猫獣人どもは同胞を犠牲にして私を生み出したことになる。
……何ともリアルな夢なことだ。反吐が出る。なんで自分の夢でこんな血生臭いものを見せられているのだ私は。
果たしてこの女は自分の同胞をダシに使って私を創りだしたことを知っているのだろうか。正確には私のこの体だが。
そう思って上を見上げる。うん……私を見る目がキラキラしている。これは多分知らないな。
《殺せ》
……もしかしてこの声って死んだ猫獣人の叫び、なのか?いやいやいや、そんな非科学的なことあり得る訳が。
すると私を抱きかかえている彼女の目のキラキラが無くなって、何か考え込み始めた。これは、不味いかもしれない。
と思っていた矢先に、
「なぁ、そう言えばあなたの研究に協力した500人の同胞はまだ戻ってこないのか?」
「……あーあ」
彼女が気づいてしまった。この女は持っていた違和感を正直に口に出してしまった。まぁ知らなかったからしょうがない部分もあるんだろうが、それでもここで言わなくても。
見る見る男の顔が曇り始めたな。想定はしていたみたいだし、これから何かしそうな雰囲気を醸し出している。
《殺せ》
……煩い。ちょっと黙っていてくれ。考えている最中だ。
「ふふっ、やっぱりそこ指摘してくると思ってたよ」
「っ!?」
なんて思っていると次の瞬間、私を抱きかかえていた女が何かに縛られ動けなくされてしまい、私は放り出された形で地面に降り立った。
重力がある状態での体の操作も慣れてきたが降り立つのはかなり無理したようで、少しだけ転んでしまったのはご愛敬。
やはり人間の体とは違うからか、少しだけ扱いが難しい。まず四本の足で立つというところから既に間違っているからな。それに見え方だって目の位置が人間のそれとは違うから地上との大体の距離が測りずらかった。
だが猫だったからか、体の柔軟性は良かったものでこうして落とされても特に痛みを感じはしなかった。
最も、今そんな事考えていいような場面ではないんだがね。
─────でもここにいる猫獣人全員の体が彼女みたいに一瞬で縛られたんだ、少しくらい現実逃避してもいいじゃないか。
「何をするっ!?」
「気付いてしまったのなら仕方ない。このままこの糸に魔力を流し込んで無理矢理契約することにしたよ。さぁ、これから僕の奴隷としてしっかり働いてもらおうじゃないか」
「何だと!?それは最初の話とは違うではないか!私はただ同胞はどこに言ったと聞いただけで─────」
「うんうん。それで?」
「っ!?」
薄っすらとあくどい笑みを浮かべながらそう言った博士に、猫獣人たちは同胞がどうなったのか察したようで、一斉に怒りの牙を向ける。
それと同時に私の脳内にまた、
《殺せ》
と、私にしか聞こえない声がどこか焦りを含んでいるように、さっきよりも強く響いた。
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第3話は明日の17:00に投稿予定です!
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