第10話 アルスル2
アン「反省した。全て理解した。」
薔薇「ああ」
アン「私の脳内には今、無限の可能性が広がっているんだ。」
アン「だが、それを一つの本、一つの章節、一つの文字に表した時…」
アン「全ての可能性が絶たれて、その時間には唯一の現実しか現れなくなる。」
アン「……なんて脆く、拙く、つまらないシステムだろうか?」
薔薇「その通りだな。」
アン「薔薇様もいつになく、全肯定してくれている。そう、私は悟りの境地に達したのだ。多分薔薇様からは私から発せられるオーラが見えているのだろう。」
薔薇「それは無いっす」
アン「おっと、こうして喋ってる間も全ての可能性を絶ちながら無駄話が続いてるというわけさ。一分、一秒。一行、一文字を大切に。」
薔薇「うん」
アン「お前の「うん」も未来を裂いて作られている。少し黙れ!」
薔薇「はい」
──勇者アルスル。彼は神に選ばれし者である。
しかしその本性は、小さな村で幼少から過ごしてきた、一般的と言っていい只の青年である。
アルスルには世界の本質も、魔王と戦う事の恐ろしさも理解できなかった。
だがアルスルには神の加護があった。彼の心は恐怖に挫く事は無く、人々は彼を心から助けたいと思う。
……彼の銘は、「狂気」が相応しかった。
──アルスル『あはは!すまんな!魔法とか何とか、分からなくって!』
ディアーク『…非常識で、知性の欠片も無い。はあ…放って置けないのは、私に唯一残された人の心だろうか?』
──アルスル『幼馴染み!やっぱり君のパワーがあれば何でも解決できるぜ!』
幼馴染み『えへへ…そう言ってくれるのはアルスルだけだよ…。みんな、怖がるから…』
──アルスル『おお!俺は永遠に孤独になることはない!お前がいてくれるからな!』
封魔『人間とはこういうものだったか?もっと汚く惨めで脆いものかと記憶してたが…俺も衰えたな。人間に気を許すとは…。』
──アルスル『あはは!何でだろうな?みんな俺に協力してくれるし、みんなの言う苦難も大したものとは思えない。』
アルスル『テイク・イット・イージー。全て楽勝余裕綽々!なんて楽しい晴れ晴れした世界!人生!』
薔薇「急にアルスルがめちゃくちゃ嫌いになってきた」
だが、現実は加護だけでは上手くいかない。
第三ヵ国目に行こうとする時の事である。突如現れた強大な魔物に、アルスル一行はいとも簡単に敗れてしまった。
魔物『我が名はヘル・シルグドラ。アルスル、お前の父を殺した者よ。』
アルスル『なん…だと…?』
ディアーク『禁忌の術が…効かないなんて…!』
幼馴染み『ぼ、僕のパワーも…』
封魔『逃げろ!殺されっぞ!』
ヘル『ふはは、父と同じく弱いクズ虫であったな。ここで死ぬがいい!』シュバッ
封魔『ちぃっ!出力最大!』バッ
ズバッッッ!!!!!
ヘル『ん…?外した?我の手が自ら…?』
封魔『…加護を何とか最大化してる。直接殺される事は無いはずだ。…しばらくしたら、俺は力尽きて消えるがな……』
アルスル『封魔…?き、消える…?』
ディアーク『アルスル!』バッ
ディアークはワープ魔法を使い、アルスルを遠くへ飛ばした。
ヘル『逃げる気か?』
幼馴染み『追わせないよ!僕が相手だ!!』ダッ
──アルスルはこの一戦で全ての仲間を失った。残されたのは、折れない心だけだった。
アルスル『はは!なんて情けない話だ!ま、仲間はもう一度募ればいい!』…ポロ
アルスル『…テイクイットイージー!なのに、何で涙が出るんだろうな?……』ボロボロ
アルスルの心は折れない。だがそれは変化が無い事を意味するわけではない。
アルスルの心は曲がり始めていた。
続く
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