第5話 キャラクター
アン「私は大いに反省した。」
薔薇「ん?」
アン「前回、アレキサンダーとの戦いは微塵も面白く無かった。緊張感が無ければカタルシスも無い、何の意味も無い!しかも話が逸れた!」
薔薇「……」
アン「どうしてこんな事になったのだろう?私は全てを理解していると思っていた。だがそれは狭い視界での範疇に過ぎなかったのだ。」
薔薇「……」
アン「この世で最も罪深きものはつまらないものだ。死や病であっても訓戒を頂ける。我が罪は地獄の業火に百年晒されても果たされぬ」
薔薇「……」
アン「あー死ぬ死ぬ、死にてぇ。」
薔薇「これからどうする?第二ヵ国目に行くけど」
アン「お前を殺して私も死ぬ」
薔薇「落ち着け!今からでもリカバリーが利く」
アン「ではまずは“真剣さ”を取り戻したいと思う。要するに彼らには心が足りないんだよ」
薔薇「ほう?」
アン「魔法使い……彼女は頭が良い。このままにしておくとこちら側に気付かれる可能性がある。」
アン「そうしないためにも……」
アン「彼女のために、“一章”作ってあげよう」
──魔法使い、彼女は学術国のエースだった。しかしそれは今の話。彼女の知られざる過去には大きな秘密があったのだ……。
魔法使いは子供の頃、今の国ではなく辺境の村で暮らしていたのだが、それは魔物に滅ぼされてしまった。
ウワーッ ギャーッ グワーッ
魔法使い(幼少)『お母さん!お父さん!うわあああ』
母『う…ぐ…』
父『…魔法使い…後は、頼んだ……』ガクッ
薔薇「やめろっ!やめてくれぇーっ!いや幾度も見た光景だがやはりきついんだ!!」
アン「だが、それが良い!」
彼女が禁忌の術に手を出したのも納得だろう。魔物に対して強い恨みがあった。幼少の頃につけられた傷は、癒える間も無く成長と共に肥大化していく。
彼女が…“エース”と共に付けられた名は、“魔物殺し”である。
魔法使い『結局、火も水も地も風も、どんな魔法も強大な魔物の前では霞んでしまう。魔物と魔物を殺し合わせるのが一番良い。』
アン「薔薇様、私は恨みや憎しみは肯定しないけど…この、故に無知を振る舞い続けて道を進む力にするのには、違った“強さ”を感じるよ」
だがその道は往々にして誤った道である。禁忌の術を研究した彼女は恐ろしい秘密を発見してしまった。術に手を加えれば、人間すら操る事ができるというものだ。こういった伝承には大体深い意味がある。
魔法使い『違う!私は決してそのために研究したのでは無く…!』
アレキサンダー『知った時点で罪、だから禁忌なのだ。二度とここに戻る事を許さん。』
魔法使いは追放された。故郷も無い魔法使いは放浪を余儀なくされた。残されたのはもはや、自分の持つ術だけである。
魔法使いは禁忌の術を使って魔物を従え、自分と奴隷だけの王国を作った。
薔薇「ん?」
孤独に、忌み嫌う魔物に囲まれた魔法使いは既に正気とは言い難かった。魔物を絶滅させる目的に違いはないが、その目に自身と人類が入る事は無くなっていた。
そこで出会ったのが、勇者アルスルである。
薔薇「あっ良かった、また変な話が始まるかと思った」
アルスル『よろしく、魔法使い!』
魔法使い『(勇者…?こいつからは得体の知れないものを感じる。私の計画の鍵になる気がする。)』
薔薇「だいぶ変わってきたな…」
アレキサンダーを手に掛けた時、人間の心を失っている事を自覚した。
魔法使い『さようなら、アレキサンダー様。貴方は良き王かもしれないが、それでは魔王は倒せない。』
アレキサンダー『何…?』
魔法使い『…“ミスティック・ロッド”。』カッ
ドォォォォン……
魔法使い『奴隷の血と肉だけが、不可能を可能にする』
勇者アルスルに自身の王国から馬車を提供した。馬も車、いずれも魔物である。
魔法使い『こういうデザインなんだ。かっこいいだろう?』
馬『ブゲゲ…』
車(骨肉粘土)『ピギ…ギ…』
アルスル『言われてみれば確かに!』
薔薇「いやいや!どう見てもゲテモノだから!補正のせいで感性壊れてないか!?」
魔法使い──いずれ全ての魔物の主になる女。彼女の目は遥か先の敵だけを見据えていた。
魔法使い『改めて──私は【ディアーク】。よろしくアルスル』
アン「そう…彼女の名はディアーク、悪魔の悪魔だ」
薔薇「へー」
アン「どうだい薔薇様?なんだかリアリティが出てきたんじゃないか?」
薔薇「確かに…」
薔薇「でもこれ…救いあるか?」
アン「ん?んーーー」
アン「運命とは必ずしもハッピーエンドを迎えるわけじゃないんでね」
薔薇「ディアークにも補正分けてやれよ。幸せにしなくちゃ」
アン「うるさい!そんな生温い世界にこそ救いは感じられない!彼らは自力で立たねばならんのだ!」
薔薇「そろそろ俺のイバラの出番か」
アン「どういうつもりだ!」
薔薇「確かに情感が込められた感じはするが…陰鬱なのは御免だぞ!」
アン「まあ…だからこそ!勇者アルスルがいるんだ!アルスルに全て背負わせよう!」
続く
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