第2章 舞王の末裔
第1話 負けられない戦い
(第2章「舞王の末裔」開始します。しばらく第1章の登場人物は出てきませんが、同じ世界のお話です)
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おやまあ、そうですか。
私の話が聞きたいと、そう
私の話と言っても、何から話せば良いのやら…
え?最初から?私が、どこで生まれ、どのように育ち、何を為したのか。覚えている限り全て話せと仰るのですね。
………長い話になりますよ。
そうですか。構わないから話せと。
まあ、時間ならたっぷりありますからね。お互いに。
それでは、お話しましょう。私が生まれたのは、王都の…
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私が生まれたのは、王都の、あなた方が『花街』と呼ぶ賑やかな区画の路地裏でした。雪の降る冬の寒い朝であったと母から聞いております。
私たちは最初4匹の
そんなわけで、私が物心つくころには、
『
最初の戦い。そう、
母の乳首を奪い合う、決して負けられない最初の戦いのことです。
え?3匹の
分かっていませんね。乳首には『あたり』と『はずれ』があるのですよ。
『あたり』の乳首に吸い付けば、湧き出るお乳が腹を満たし、『はずれ』の乳首は、吸えども吸えども1滴の乳もにじまず、息の続く限り吸引して、やっとわずかな乳が得られるのです。
あなたならどちらを選びます?そうですよね。『あたり』の乳首ですよね。
その日も私は、
この戦いで重要なのは
え?何ですか?何で乳飲み子の頃の記憶があるのかって?……え!?あなたには乳飲み子の頃の記憶がないのですか?はあ、そうですか、人間は生まれて数年後からの記憶しかないのですか。
私たちは、さすがに生まれた直後の記憶は残っていませんが、目が開いてからの事は良く覚えておりますよ。
私たち、本当は記憶力が良いのです。忘れたふりがうまいのであまり知られていませんが。
さて、話を戻しましょうか。その日も私たちは母の乳首を奪い合っておりました。目は開いたもののまだぼんやりとしか見えず、手足も思うように動かせない頃でした。その日、私は久しぶりに『あたり』の乳首に出会えました。
喜びに震えながら芳醇な
「ぴゃー(ちょっと、何すんの)」
たまらず、私は抗議しました。すると奴は、
「ぴゃー(交代して)」
と言うと、私を押しのけて『あたり』乳首を奪ったのです。
なんたる非道………え?何ですか?何で「ぴゃー」と「ぴゃー」で会話が成立しているのかって?ああ、あなた方人間は、ほぼ鳴き声だけで会話しているのですよね。
私たちは、鳴き声だけじゃなくて、しっぽの角度、耳の向き、相手との距離、それに何と言っても匂いで会話するのです。あと「ぴゃー」じゃなくて「ぴゃー」です。発音が全く違います。
…ええと、どこまでお話しましたっけ。そうそう、
乳首から転がったら乳首に出会いました。何を言っているか自分でも分かりませんが、今あったことをありのままに話すとこうなります。
まあ、細かいことは気にしません。乳首に
…………………。
なんということでしょう。『はずれ』乳首でした。息の続く限り吸いましたが、1滴の乳も出てきません。ここまで残念な乳首は生まれて初めてです(生後数週間)。これはもう『はずれ』を超えて『がっかり』です。
私は意地になって、その『がっかり』乳首を吸い続けました。これまで出会ったことのない強敵です。でも心配ご無用。私には、どんな出の悪い乳首にも乳をひり出させることのできる必殺技があるのです。
「むー(必殺、乳ふみふみ!)」
私は、乳首を吸いながら、乳首の近くに両の前足を当て、高速の突きを連続で繰り出しました。要はマッサージすることで乳の出を良くする技です。
「ぬー(ふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみゃふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふみふゃみふみふみふみふみふみ!!!)」
…………………。
全然ダメでした。頭がくらくらするほど吸引しましたが、まったくお乳が出てきません。
何だか腹が立ってきた私は、顔を上げて、この乳首の持ち主に一言文句を言ってやろうと思いました。
「みゃっ!(ちょっと、アナタの乳首、全然お乳が出ないんですけど!がっかりですよ!)」
「………(………)」
路地裏で休んでいたところ、突如転がってきた仔猫にぶつかられ、何だ何だと思っているうちにその仔猫にもみもみされながら乳首を吸われた挙句文句を言われた雄の黒猫は、困惑した顔で私を見下ろしていました。
それが、私とおっちゃんとの出会いでした。
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異世界の猫の話なので、地球の猫とは別の生き物としてお読みください。
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