ことの顛末

……………………


 ──ことの顛末



 暗殺作戦は実行され、暗殺部隊は魔王ソロモンがいるフルールヴァロンという都市に降下した。既に現地では残地工作員たちが暗殺部隊の受け入れ準備を済ませ、攪乱のための破壊工作を実施していた。


「首狩り部隊だな。歓迎する。ソロモンはこの先のホテルだ」


「助かる。敵の警備は?」


「警察軍の大部隊が展開しているが、俺たちがかなり分散させた」


「そうか。では、後は任せろ」


 デュフォール少佐は残地工作員にそう言い、彼らがソロモンの居場所を示した地図を見て、その場所であるホテルへと向かった。


「少佐。警察軍だらけだ。人狼もいる。気づかれるぞ」


「2班、3班は攪乱を実施しろ。戦友たちのために」


「了解だ」


 デュフォール少佐の率いる部下たちはドワーフもいればエルフもいる。全員が魔王軍の攻撃で祖国を失ったものたちであり、魔王軍に一矢報いることに命を賭してもいいと考えているものたちだ。


 彼らは死を恐れることなく、陽動作戦に参加していった。


 最終的に魔王ソロモンを直接暗殺するために向かう部隊は、人類勇者タカナシ・メグミを含めて僅かに4名となった。


「こっちだ」


 デュフォール少佐自らが先頭に立ち、ホテルに向けて前進する。彼が索敵を行い、ルートを確認し、ソロモンの居場所へと暗殺部隊を誘導していく。


 タカナシ・メグミはこう思っていた。


 多くのJRPGがそうであったように自分たちも4名のパーティで魔王と戦いに向かうんだなあと。本当にまるでゲームのようだと彼女は思っていた。


 しかし、ゲームと違って死ねばリトライはできない。セーブポイントなど存在しない。これは戦争なのである。


「近いぞ。そろそろだが……」


 そこでホテルの周囲に警報が鳴り響いた。警察軍の将校が警笛を鳴らし、ホテルの周囲で警察軍の将兵たちが慌ただしく行動を始める。


「不味い。気づかれたようだ。強行突破するぞ」


「了解」


 警察軍が動くのにデュフォール少佐はそう決断した。


「突撃!」


 梱包爆薬を放り込み、それから一斉にデュフォール少佐たちがホテルに向けて突進。


「敵襲、敵襲!」


「敵の狙いはソロモン陛下だ! お守りしろ!」


 警察軍の将兵たちがデュフォール少佐たちを食い止めようと機関銃や小銃を持ち出し、弾幕を展開してひたすら撃ちまくる。


「行け、行け! 突破しろ! ソロモンはすぐそこだ!」


「え、援護します!」


 ここで人類勇者タカナシ・メグミはその力を発揮した。


 魔力の爆発が警察軍の将兵を薙ぎ払い、ホテルの1階を崩壊させる。ホテルそのものも崩壊するかと思われたが、辛うじてホテルは崩壊せずに残っている。


「いいぞ! このままソロモンを殺すんだ!」


 デュフォール少佐が声を上げて警察軍が撃破された正面エントランスへと突入。今にも崩れそうなホテルの中に飛び込み、そこで魔王ソロモンを探した。


「こっちにはいない、少佐!」


「上だ! 上階に違いない!」


 デュフォール少佐が指揮する暗殺部隊はホテルの中を駆け巡り、ソロモンを捜索。小規模な警察軍の抵抗を受けながらも、勇者タカナシ・メグミの力もあって押し進んだ。


 そして、ついに──。


「いたぞ!」


 暗殺部隊は大元帥の軍服を着た魔王ソロモンを発見した。


 彼はホテルの廊下に出て、カーミラのみを従えて暗殺部隊の前に立っていた。


「ソロモン、覚悟!」


 デュフォール少佐たちは一斉に発砲。


 しかし、銃弾はソロモンの展開した魔術障壁によって遮られ、一発もソロモンに達することはなかった。


「私の暗殺とはまた汎人類帝国も短絡的な手段に出たな」


 ソロモンはため息交じりにそう言うと、グレートドラゴンがそうするように魔術で熱線を生成し、それをデュフォール少佐たちに向けた。


「うわ──」


 彼の部下たちが焼き払われ、デュフォール少佐とタカナシ・メグミだけが残る。


「動くな!」


 そこに警察軍の援軍が駆けつけて銃口を彼らに向けた。


「クソ、クソ! 人類勇者タカナシ・メグミ! 何としても魔王をやれ!」


 デュフォール少佐は警察軍の兵士たちに銃口を向けてそう叫ぶ。


「お前が人類勇者タカナシ・メグミ、か。我々はお前を迎え入れる準備がある」


「え……?」


「お前とて分かっているはずだ。私はカエサルではなく、ただのよくいる代替可能な政治的リーダーに過ぎない。私を暗殺するブルータスやカシウスになっても、歴史は何も変わらないということを」


「あなたは……!?」


 ソロモンの語るのは地球の歴史だ。彼は地球の歴史を知っている!


「タカナシ・メグミ。その名前は日の昇る国のものであろう。争いを好まぬ民族であったはずだ。下れ。さすれば、我々はお前を保護しよう」


 その提案は身勝手に召喚し、あまつさえ鉄砲玉としてここに送り込んだ汎人類帝国のそれよりも厚遇されているかのように感じられた。


「耳を貸すな、タカナシ・メグミ! ソロモンを殺せ!」


「ここで私を殺せば、生きてここを出れることはないぞ」


 デュフォール少佐とソロモンがそれぞれそう訴える。


 そんな中で、彼女は──。


「い、いやあ。申し訳ない。死にたくはないので……」


 タカナシ・メグミはそう言ってソロモンに向けて両手を上げた。


「貴様ああああっ──!」


 デュフォール少佐が叫び、同時に警察軍の将兵が発砲。デュフォール少佐はハチの巣にされて血の海に沈んだ。


「ようこそ、魔王国へ、人類勇者タカナシ・メグミ。お前を歓迎しよう。お互い、知りたいこともあるだろう。だが、ここからは場所を移さなければならないな」


「ど、どうも」


 ソロモンは感情を窺わせずそう言い、タカナシ・メグミは恐る恐る頷いた。


「このものは魔王ソロモンの名において保護し、賓客として丁重に扱う。徹底せよ」


「はい、陛下」


 警察軍の将校たちがタカナシ・メグミの警護に就き、彼女はその後このフルールヴァロンの安全な建物でソロモンと会談の場を設けた。


 ソロモンはやはり地球の歴史や知識についてかなりの知識があり、彼曰く元は地球にいた人間のひとりだったそうだ。それがいわゆる転生をし、今の地位にあるのだとタカナシ・メグミに明かした。


「私はこの魔王国に優れた地球の知識を導入しようとした。だが、完全ではない。私の有する知識は限定的で、もたらせる恩恵も制限されていた」


 ソロモンがそう語る。


「私はより多くの地球の知識をこの世界にもたらしたい。協力してくれるか?」


「ええ。そういうことでしたら、ぜひ」


「助かる。約束通り、丁重に扱おう」


 かくして汎人類帝国の企んだ魔王ソロモンの暗殺は失敗し、ソロモンは新たな知識の源を得たのであった。


 もはや汎人類帝国にできるのは帝都ローランドを必死に守ることだけだ。


……………………

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る