魔王暗殺
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──魔王暗殺
魔王ソロモンは王都バビロンから前線に向かっていた。
今回の大君主作戦ではあまりにも多くの犠牲者が出たが故にだ。
「軍は動揺している」
ソロモンは列車の中でカーミラにそう言う。
「これまでは楽に勝ちすぎてきた。作戦はおおむね全て成功し、敵は撃破されてきた。だが、今回はそんな勝利で伸びた鼻を叩き折られたようなものだ。軍は戸惑い、恐怖し、ひたすらに動揺している」
「落ち着かせなければいけませんね。このままでは再び敗北してしまいます」
「その通りだ。戦争というものがどういうものだったかを思い出させなければ、な」
戦争に絶対はない。
将軍たちが、前線の将兵たちが、絶対に近づけるために努力をしようとも100%の勝利とは存在しないのだ。
何故ならば戦争とは生物の営みの最たるものであるが故に。
肉で時計は作れず、肉に絶対は達成できない。肉には常に不確実性が付き纏う。
ソロモンたちを乗せた列車はブラウ上級大将が司令部を設置している街に到着し、そこでソロモンたちは北方軍集団の将兵による歓迎を受けた。
「ご苦労、諸君」
ソロモンは短くそう言い、ソロモンを出迎えたブラウ上級大将の向く。
「いかなる処罰儲ける覚悟です、陛下」
ブラウ上級大将はそう述べた。
「処罰するつもりはない。お前が無事にガムラン線を突破した。付随目標が達成できなかったのは残念だが、それぐらいのことを指揮官を処罰していては、軍の士気に影響が及ぶだろう」
ソロモンはそんなブラウ上級大将にそう告げた。
「これからも北方軍集団はお前に任せるとシュヴァルツ上級大将も同意した。変わらず励むがいい、ブラウ上級大将。次は期待している」
「は、はい、陛下!」
ブラウ上級大将はソロモンにそう言われ、緊張した様子で頷く。
「それでは現在の戦況を報告してもらおう」
「はっ!」
汎人類帝国はガムラン線から撤退し、新しい防衛線を構築。
魔王軍は先の大君主作戦での損害を補充するために足踏みしており、今は行動することはできそうにないとのことであった。
「南方軍集団は未だ戦力を残しているとも聞きますが、南方軍集団から引き抜いた主力が軒並み大打撃を受けました。今は大規模な攻勢は行えません。小規模な砲爆撃で敵を牽制するのみです」
「よろしい。次の攻勢に十分な準備をしてほしい」
「敗因は分かっております。対策は既に」
「述べよ」
ソロモンがブラウ上級大将に向けて命じる。
「まず我々は突破口をより拡大することとします。数キロの小さな突破口では、今回のように敵に対応の余地を与えます。敵の弱点を突いて、そこだけを突破するというのはもは考えておりません」
魔王軍はそのドクトリンを改めた。
これまでは敵の抵抗の強い部分を迂回突破することで敵の後方に回り込み、敵戦力を包囲殲滅するものだったものを一変させた。
魔王軍は徹底した火力で敵の前線戦力を粉砕し、後方の予備戦力も拘束。それによって数十キロに及ぶ大規模な突破口を作り、強引に後方に向けて突破するのだ。
この方法ならば汎人類帝国が講じた戦術も粉砕できる。
「よろしい。そのようにせよ。次の攻勢は既に計画しているのか?」
「現時点では計画は未だ存在しておりませんが、戦力の補充が完了するまでには」
「次はローランドを取りたいものだ」
「はっ!」
ソロモンの次の狙いは首都ローランドの制圧だ。
ソロモンは前線の視察のために3日間、魔王軍占領地域にいることになっており、彼は視察を継続した。
しかし、このソロモンの前線視察の情報は、汎人類帝国の残地工作員によって汎人類帝国の汎人類帝国陸軍参謀本部情報総局局長ミシェル・ゼレール陸軍中将報告された。
「我々は現在、魔王ソロモンが前線付近にいるという確証性の強い情報を手に入れていることを報告する」
ゼレール中将は魔王暗殺を試みる陸軍参謀本部のガムラン元帥にそう報告。
「本当に実行なさるのですか? かなりのリスクが伴いますが……」
「首相と国防大臣が望んでいるのだ、陸軍としては拒否できない」
参謀のひとりが尋ねるのにガムラン元帥がそう答える。
「実行を。ソロモンを暗殺できれば魔王軍は分裂するという分析は、恐らくは正しい。これが勝利を得るための唯一の手段だ」
「……了解」
こうして汎人類帝国は魔王ソロモン暗殺作戦であるギロチン作戦を発動。
作戦はこうだ。
まず潜伏している残地工作員が魔王軍の魔力探知機に対するサボタージュを実施。同時に空軍の複数の部隊があちこちで魔王軍への爆撃を試みる。
だが、これらは陽動だ。本当の狙いは空軍によって人類勇者タカナシ・メグミを含めた暗殺部隊をソロモンの下に降下させるのが狙いである。
彼らは暗殺を強行し、その後が自力で脱出することになる。
そして、作戦は開始された。
『ギロチン作戦開始、ギロチン作戦開始!』
事前に潜入した特殊作戦部隊と残地工作員が魔王軍の野戦用の魔力探知機を襲撃。それを無力化して、魔王軍による航空戦力の探知を困難にする。
それと同時に空軍が陽動作戦としての爆撃を行い、魔王軍の防空戦力はそちらの方へと誘引されていった。
ここまでの準備が整い、ついにタカナシ・メグミを主力とする暗殺部隊が、魔王ソロモンがいるとされる都市へと降下を始めた。
「よろしく頼む、人類勇者」
そういうのは動員された暗殺部隊に所属するデュフォール少佐だ。彼と彼の外人部隊は精鋭としてこの作戦に参加している。
「え、ええ。よろしくお願いします」
タカナシ・メグミは作戦に参加することには同意したものの、この作戦が上手くいく可能性はほとんどないということも理解していた。
彼女は開戦と同時に敵首脳部を排除すれば、その行動をマヒさせられることは知っていたが、」開戦から長らく経ち、指揮系統の埋め合わせがいくらでも可能になった段階で、魔王を暗殺しても意味があるとは思っていない。
確かに古代ならば王が死ぬということは重大な事件だ。
だが、今は古代というには発達しすぎている。
「行くぞ!」
空軍基地を一斉にグリフォンが飛び立ち、真っすぐソロモンがいる都市を目指す。
夜間飛行で暗殺部隊を乗せたグリフォンたちは飛行し、魔王軍に察知されることなく飛行を続けた。地上は真っ暗で、静かで、魔王軍が反応した様子は全くない。
「到着予定時刻は
夜中の2時に暗殺部隊は都市に殴り込むことになっている。
「……見えてきた!」
グリフォンたちの視線の先に、うっすらと目標の都市が見えてきた。
暗殺部隊はここで魔王を倒して死ぬか、魔王に敗れて死ぬかだ。
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