異世界でも貧乏な私は、スキル『連帯保証人』で悪役令嬢を道連れにする。複利の恐ろしさを思い知るがよい!

Seabird(シエドリ)

異世界でも貧乏な私は、スキル『連帯保証人』で悪役令嬢を道連れにする。複利の恐ろしさを思い知るがよい!

「5000兆円欲しい……」


 いや、この世界では白金貨5億枚かな?

 とある屋敷のだだっ広い庭の隅で、どうでもいいことを考えながら私は雑草を引き抜く。

 屋外作業に不適なメイド服が鬱陶うっとうしい。

 照りつける日の光が私の額に汗をにじませた。

 結局異世界でも変わらない。そう、同じなんだ……


「あら、足が滑りましたわ」


 金髪縦ロールのいかにもお嬢様が、抜いた雑草を入れていた箱を倒す。

 今日も来たか、私のストレスめ。


「お嬢様、お怪我はありませんでしたか?」


 とりあえず心配そうな振りはしよう。


「こんな所に置いているのが悪いのですわ。靴が汚れてしまったじゃないの」

「申し訳ございません」


 私は頭を深々と下げ、お嬢様は愉悦ゆえつに浸っている。

 この屋敷の主、マイカ・ビブリアはぞくに言う悪役令嬢だ。使用人、特に私をいじめることが趣味で、いつも反応を見て楽しんでいる。

 親が偉い貴族とかなんとかで、すこしでも反発すればクビ、最悪投獄だってありえる。

 はあ、どうしてこうなったんだろう……


 私はひと月ほど前にこっちの世界にやってきた。いわゆる異世界転移というやつだ。

 最後の記憶は遠いコンビニへの道中。

 都会とも田舎とも言えない街で、夜中お腹がすいた私はカップ麺でも買いに行こうとしていた。

 いつもなら絶対にしない。高校生で一人暮らしをしていた私に、コンビニは高く感じていたからだ。

 あの日は本当になんとなくだ。道端にあった見たことのない祠に、なけなしの500円をお供えもした。

 今考えると全てが謎だ。

 その後視界が暗転し、目が覚めたら『剣と魔法の世界にようこそ』というわけだ。

 最初は嬉しかった。仕事と学校で忙しい日々から解放されたんだ。

 ただ、悲しいことに私は普通の人間。

 異世界で死にかけていたところ、使用人の求人を見つけた。

 幼少期からやらされていた雑草取りのスキルを買われ、無事雇われることになったのだが……

 屋敷の使用人という職が、なぜ街の掲示板に張られていたかが分かったのは、働き始めてすぐだった。

 

「ちょっと聞いているの?」

「申し訳ございません」


 何も考えずに頭を下げる。

 こっちは暑さとイライラで頭が働いてないんだ。


「気に食わないわね。そうだ。これ、給料から引いておくわね」


 指をさされた先は、土でほんの少し汚れた靴。

 そのクリーニング代か? 勘弁してくれ……


「それは……」

「なに? 歯向かうつもり?」

「いえ、申し訳ございませんでした……」


 ここをクビになったら最悪野垂れ死ぬ。普通の現代人が”力こそ正義”みたいな世界で生き残れるはず無い。

 屋敷にいる間は一応安全だ。モンスターや野盗に襲われることは無いし、屋根がある場所で寝れる。

 このお嬢様は私の事情を知っているのか、嫌がらせは日に日にエスカレートしていた。


 ある日は……

「汚らしいですわね。近づかないでくださる? そうだ、良いことを思いつきましたわ」

 私は頭から水をかけられる。

「これで綺麗になったわね」

「申し訳ございません」(庭仕事の途中で呼んだのはお前だろうが!)


 別の日は……

「あなたのお洋服、襤褸ぼろ切れと間違えて捨ててしまいましたわ。主人に掃除をさせるとは使用人失格よ」

「申し訳ございません」(綺麗に畳んでいたのだけど、お前の目は節穴か?)



 そして嫌がらせを受け付けて、またひと月が経った。

 私はいつもの仕事、庭園の掃除をしている。

 もはや虚無だ。

 何も考えずにレンガの間に生えた雑草を抜く。


「これ、あなたが枯らしたのでしょう? 私のお気に入りだったのよ」


 マイカが白い花を持って私に詰め寄る。

 その花弁の隅が、かすかに黒く変色していた。


「知らないんですか? その花は気温によって色が変わるんですよ」(申し訳ございません)

「あなた! 主人に向かって……」


 やってしまった。

 最近は流れ作業で嫌がらせに対処していたせいで、本音と建前が逆になってしまった。

 マイカが顔を真っ赤にして私の腕を掴む。


「ちょっと来なさい」


 これは、クビか……

 再就職先見つけないとな、などと諦めムードで私は引っ張られていった。


 マイカに連れられた先は、管理がされていないことが一目で分かる小屋。

 つたに覆われたそれは、入るものを拒絶しているようだった。


「私、クビじゃないんですか?」

「あら、私は優しいのよ」


 私はそう言われて背中を蹴られる。


「ぶへ、いたた……」

「そこで反省なさい。自身の矮小わいしょうさに気づけたら使用人に戻してあげるわ」


 外から鍵が掛けられ、足音が遠くなる。

 何も置いていない部屋の中で、私は一人。

 窓が無い不自然な作りが生み出す暗闇に、隙間から入り込む光が舞っているほこりを映し出す。

 床に座り、膝に頭を埋める。

 自然と涙がこぼれる。

 ああ、本当に、どうしてこうなったんだろう……


「貧乏、か……」


 ふと呟いた一言、それに反応したかのように私の目の前が光った。


『能力:貧乏』


 空間に文字が浮かんでいる。

 なに? 幻覚まで私に喧嘩売ってんの?

 上げていた目線を膝に戻し、また自分のくだらない人生について考える。


「はあ、こんなことなら借金でもして好きなことをすれば良かった……」


『スキル:借金』


「だから、さっきからなんだよ! って、え!? 幻覚じゃない?」


 はっきりと文字が見える。

 これって魔法なのか?

 浮かんだ文字に集中すると、さらなる情報が映しだされる。

 ……ああ、これは……私の”力”だ。

 腹を抱えて笑う。こんなに笑ったのはいつぶりだろうか。


 ──さて、復讐を始めるとしましょう。



「自分の愚かさには気づけたようね」

「はい。誠に申し訳ありませんでした」


 マイカが戻ってきたのは次の日になってからだ。

 足音を聞いた私は扉の前で土下座をして待機していた。

 ほこりで汚れみすぼらしいすがたの私に、彼女は満足したのだろう。満足気な顔を浮かべて私を開放する。

 部屋に戻って、桶に貯めた水で布を濡らし体を拭いた。

 気持ちは落ち着いている。異世界に来て初めて”未来”が見えた気がする。

 今日からは魔法の勉強をするんだ。

 魔力が無いものと思っていただけに喜びもひとしおだった。



 休日、少ない貯金で魔導書を買う。

 この世界で魔法を覚えるのに使える手段は2つ。才能か金だ。

 私の手持ちでは初級魔法でさえぎりぎりだった。

 複雑な魔法回路と魔法理論が、紙代を節約するために所狭ところせましと並べられている。

 それでもページをめくる手は、傑作小説を読んでいるかのように軽い。

 魔法陣を脳内で描き、手を突き出す。


「日用1段階、水」


 何も起こらない。

 それはそうだ。普通の地球人が魔力を持っている訳ない。


「魔力2、借ります。日用1段階、水」


『借用日:6-4-394

 利息:日歩ひぶ1%

 返済期限:7-4-394

 返済方法:所持魔力』


 手の先から水が出てくる。

 置いてあった桶から溢れ、床が水浸しになってしまった。

 ちょっと計算を間違えたかな……でも、成功だ。

 私が使ったのは初級日用魔法のさらに簡単なものだ。

 ただ手から少量の水を出すという基礎的な魔法だったが、込める魔力量が多かったかもしれない。

 この世界の一般人が使えるこの魔法の回数は、1日10回程度だと書いてあった。そして別の魔法の情報も加味して、私は魔力一人分を20と仮定したのだ。

 そう、私のスキル”借金”は魔力を借りることが出来る。

 ステータスなどが見れないことから、少ない数値で始めたつもりだったんだけど……


「これは魔力1でも大丈夫だな。ははは……」


 床を拭きながら、せっかくの休日に仕事を増やす自分に笑ってしまう。


 それからは魔力を借りては使い、使っては借りるを繰り返した。

 魔法を使えることが楽しくて後先考えずに行動する。

 夜になり気温が下がったころに、やっと冷静になる。


「……借入かりいれ履歴の表示」


『借用日:6-4-394 魔力2

 借用日:6-4-394 魔力1

 借用日:6-4-394 魔力3

 …………

 ……

 合計30 元利60 利息0』


 やってしまった。返済の目途などあるはずないのに……

 まあ、何とかなるでしょう。利息も1%だからね。

 


 1か月後。


「疲れた……」


 私は自室のベットに倒れこむ。

 お金のために休日を返上して働いていたことで、体が悲鳴を上げている。

 仰向あおむけになり、右手に持っている光る石を見つめる。

 それは魔法石と呼ばれる魔力が貯蔵されている特殊な鉱石だ。


「これで、返済は、大丈夫……なはず」


 今日は魔力の返済日。

 私は魔力を持てないから、スキル”代位弁済”だいいべんさいを使うことにした。これは第三者に、私の代わりに魔力を返済させる力だ。同意とかなんだとか、条件は結構厳しいけど……

 ただ今回の相手は無機物。しかも金銭のやり取りによって、私への所有権は確定している。


「借入魔力の返済をします。代理、魔法石」


 魔法石の輝きが消えていく。

 ああ、私の1か月。嫌がらせに耐え、仕事だけで生きた1か月。

 魔法石に貯められている魔力量は4人分の80。

 日歩は1日の利息だから……それが30日間1%づつで……78だ。という計算を行った結果割り出した必要量だ。

 ……異世界物の能力設定ってもっと、こう、分かりやすくなるべきでしょう……

 私はため息をついた。

 それにしても返済が完了しない。

 完了表示とかはされないのかな?


「借入履歴を表示」


『…………

 ……

 返済日:7-4-394 魔力80

 合計31 元利1 利息0』


 え、なんで残っているの?

 何度も閉じては開いてを繰り返すが結果は変わらない。


「まさか!?」


 私は机へと向かい、紙とペンを取り出す。

 魔力を借りた次の週は、日歩ひぶ1%で利息が付いていたことを確認している。

 それでも結果に差があるということは……


「終わった……」


 紙に書かれた計算式が導き出した答えは81。


 そう、利息の計算は”複利”だったのだ……



 部屋の窓からボケーっと外を見る。

 消えていく日の光は、私の寿命を表しているのかもしれない。

 私に隠された力が発揮されて、マイカの奴にぎゃふんと言わせられると思ったんだけどな……

 現実は甘くない。


「ははは。これからもお嬢様の奴隷でいますよー」


『返済期限:強制徴収』


 目の前に闇をまとった骸骨が現れる。ボロボロのマントを羽織りびた剣を右手に持つ姿は、正しく”貧乏”だった。

 肉が付いていないはずなのに、その髑髏どくろゆがみ笑っている。

 こいつが執行者か……

 さあ、焼くなり煮るなりなんとでもするがいい。

 両手を天に仰ぎ審判を待つ。

 私の胸に剣が刺された。


『債務不履行:ステータス”魔力”没収』


『賠償:魔力2(債務1)

 借用日:7-4-394

 利息:日歩1%

 返済期限:8-4-394

 返済方法:所持魔力』

 

『信用:1段階

 借入上限:100』


 文字連続して現れ、骸骨が消える。

 2つ目以降の表示はこの際どうでも良い。ペナルティとして、返済できなかった魔力の分を新たに借りる義務が発生したのだろう。

 問題は1つ目だ。

 これって……つまり……?


「魔力1、借ります。日用1段階、火」


『借用日:7-4-394

 利息:日歩1%

 返済期限:8-4-394

 返済方法:所持魔力』


 私の指先に火がともる。問題なく魔法が使えた。

 ああ、そうだ。

 ──私は元々”魔力”を持っていないのだ。

 乾いた笑いが出る。

 命が繋がったのは良いが、本質は変わっていない。

 私の返済手段は今のところ魔法石しかない。すなわち、魔力は金だ。

 返済を重ね信用を上げないと、借りられる魔力量の上限は上がらない。

 結局は今まで通り仕事をして、稼いだお金で借りた魔力を返し、それに加えて魔法の勉強も……

 

「いつになったら復讐できるんですかね?」


 能力を知った時は、あんなにもやる気に満ちていたのに……

 はい、調子に乗ってました。自分に特別な力があると勘違いしていました。


「どうせ、私は下々の者ですよー」


 ベットで大の字になり、悪態をつく。

 何もしたくない。

 もう落ちるところまで落ちてしまおう。


「……せっかくだから仲間に入れてあげよう」


 自分でも悪い考えだと分かっている。


「マイカお嬢様を、ね」


 脳内に浮かんでしまった計画。

 私はあの骸骨と同じ顔をしていたに違いない。



「あなた、最近魔法の勉強をしているそうね。才能が無いのにご苦労なことだわ」


 いつもの雑草取り。慣れた手つきで根元から引き抜き、かごに入れる。

 何か声が聞こえるけど気にしない。


「いつにもまして反抗的じゃないこと? また痛い目を見たいのかしら?」


 雑草ってすごいよね。

 抜いても抜いても生えてくる。まさしく不屈の闘志ってやつだ。


「この私を無視するの!?」


 マイカが魔法を放ち、私は生垣いけがきに飛ばされる。


「お嬢様、私と勝負しませんか?」

「は? 何を言っているのかしら?」

「借用日、皇歴394年7月5日……」

「あなた、頭がおかしくなったのね……」


 私は契約内容を告げながら立ち上がり、マイカの元へと歩く。


「借入魔力200、日歩10%、返済期限……」


 私は淡々とした口調で話す。


「……連帯保証人、マイカ・ビブリア。お嬢様、同意していただけますか?」

「魔力がどうのって、説明もなしに意味が分からないわ」

「1か月後、私と決闘をしましょう」

「それとさっきの説明に何の関係があるのよ」


 勢いで押し切ることはできないか……

 流石有力貴族の令嬢。私が言ったこともちゃんと聞いていたようだ。


「私にはお嬢様ほどの魔力がありません。ですので借りることにします」

「そういうことね。下民らしい姑息こそくな手だわ」

「どういうことでしょうか?」

「あなたの考えなんてお見通しよ。借りた魔力を私の保持魔力から払わせて、弱ったところを倒そうってわけね。精霊とでも契約を結んだのかしら?」


 精霊ね……どちらかというと死神なんだよな……


「この程度の魔力、お嬢様にとっては余裕なはずですよね?」

「なめないでくださる? 良いわ、受けてあげる。代わりにあなたが負けたら一生私の奴隷だから」

「問題ありません。では、同意の署名をいただきます」


 空間に契約書を映し出す。

 マイカは指先に魔力を集中させ、浮いている文字の上から重ねるように名前を書いた。

 契約によって借りた魔力は、魔法を使っていないため行き場を失い、私を素通りして大気へと消える。


「あなた自分の魔力上限さえ分かっていないの? それにさっきの契約内容、あなた精霊からも見下されているのね。かわいそうだわー」


 馬鹿にした表情を向けられる。

 内容を知ったうえで同意するとは、可哀かわいそうなのはそっちだ。

 私は笑いそうになりながら頭を下げ、葉っぱまみれのメイド服で自室に戻るのだった。



 それから1か月間、私は少ない給料で魔導書を買い、決闘の準備をしていた。

 あの時はスキル”連帯保証人”を使った。返済義務を私とマイカの2人に設定したことで、自分の持っているものとは別の契約となり、結果的に私はまだ魔力を借りられる。

 それでも内容の開示と同意、2つの条件を満たし成立した契約はそのためではない……



 そして決闘当日。屋敷の敷地内にある修練所。

 毎日『後悔してるかしら?』と煽ってきたマイカが、目の前でふんぞり返っている。

 時間は指定していた通り。

 条件は整った。


「始めさせていただきます」

「あなたの生意気な顔も、これで最後よ」


 マイカが魔法を放つ。

 巨大な火の玉が私に向かってくる。

 死ぬんですが、普通に。奴隷にするとかいうレベルじゃなくないですかね……

 出し惜しみはできない。


「魔力20借ります。戦闘用2段階、防御」


 展開した防御魔法は火球の本体こそは止められたが、衝撃までは吸収できず、私は吹き飛ばされてしまう。


「いてて……あ、やば」


 次の攻撃もその次の攻撃も、なんとか防ぐがどれもギリギリだ。

 土煙が晴れると、マイカはつまらなそうな顔をして立っていた。


「あなた……あんだけ大口叩いて、まさかこの程度なの?」

「いえいえ、ここからですよ」


 そうは言ってみても、正直もう帰りたい。

 私は戦闘向きではないんだよ……

 この決闘だって、魔力の借用と二人きりという状況を作り出すための口実だ。


「まあいいわ。謝るなら今の内よ。戦闘用8段階、火」


 魔法には段階がある。入門用の1段階から、伝説級の10段階まで。

 今私が受けようとしているのは、達人級と言われる8段階だ。

 私の防御は2段階まで。つまり、詰んだ。

 まさか本気で仕留めに来るとは……

 せめてもの抵抗で借入限度最大の魔力を防御魔法に込める。

 火球が目の前に迫る。

 やれるだけやったんだ。もういいかな……

 目を閉じて自分の運命を受け入れた時、いつもの声が聞こえた。


「まさしく家畜の反応ね。もっと生に執着しなさいよ」


 私は生きている。

 よろよろとマイカの方へ向かう。


「私は家畜です」

「あら? やっと自覚したのね」

「周りに流され、あらがわわず、欲張らない。いやしいいやしい家畜です」

「いいわ。私が飼ってあげる」


 マイカが首輪を持って近づいてくる。


「それでも、一つ願いが叶うとすれば、そうですね、お嬢様と一緒になりたい」

「貴族にでもなりたかったのかしら?」

「いえいえ、それよりも簡単な方法があるではないですか」


 そろそろ時間だ。

 最後の仕上げといこう。


「私の借金、返してくださいますよね……」

「借金? ああ、魔力のことね。結局そういうことだったじゃない。確か魔力200に利息で……800くらだったかしら? あまり覚えていないわ」

「余裕がおありなんですねー」

「私を誰だと思っているの? ビブリアは代々魔法に秀でた家系、その次期当主である私には愚民ども100人が束になっても勝てないわ」

「つまり?」

「理解が遅いわね。私の魔力量は3000よ。あなたの足りない脳みそでも、これで凄さが分かったかしら」


 ──私の勝ちだ。


「おじょうさまー。残念なお知らせがありますー」

「はあ、まだ反省していないの?」

「私、いえ、私たちが返す魔力は3490なんですよねー」

「え、どういう……利息は1日10%のはずでは……」

「知らないんですかー? その利息にも利息がつくんですよー」


 背後に気配を感じる。やっと来たのか、執行人。

 事実を理解したマイカが恐怖で顔を引きつらせ、体を震わせている。

 私は固まっている彼女の頭を抱きしめ、優しく撫でてあげる。

 思わず口角が上がってしまった。

 可愛い可愛いマイカちゃん、私はいつまでもあなたと同じ所にいますよ。


「さあ、一緒に落ちましょう」



------



 とある学園の中庭。

 今日も私は、花壇の雑草を抜く。


「マイカ、うまくなってきたね」

「あまり褒められたくはないのですが……」


 隣では元悪役令嬢マイカ・ビブリアもエプロンを着て雑草を抜いている。

 縦ロールだった髪はストレートになり、背中で一つにむすんでいる。


「うん! 今の方が可愛いよ!」


 マイカは顔を赤くしてそっぽを向いてしまった。


 私は決闘の後、屋敷をクビになった。当たり前か。

 マイカは執行人に”魔力”を奪われた結果、魔法が使えなくなり、家から勘当かんどうという形で追い出された。可哀そうに。

 そこからは昔マイカを世話していた執事の一人が、全寮制の学校への入学手続きをしてくれて、私もなんやかんやでそれに乗っかったという訳だ。

 今は学業を専念するかたわら、園芸部として庭の手入れをしている。仕事と趣味は別なのだ。


「最近楽しそうだよね」


 入学当初、マイカは他の生徒とは馴染めていなかった。

 それでもここの生徒は良い子ばかりで、私だけでなくマイカにも優しくしてくれた。

 皆と接するうちに態度が柔らかくなり、今では口調さえも変わってしまったほどだ。


「これで良かったのかもしれませんね……」

「そうそう。あの家にいても、嫌な奴と結婚させられて終わりだったでしょ?」

「何でそれを!?」

「屋敷で立ち聞きしました!」

「このダメイドめー」

「申し訳ございません~、お嬢様~」


 マイカと水をかけあってじゃれあう。今ではこういうこともできるようになった。

 この世界で”魔力”を持たないただ2人の存在。

 こうしていると、ここが異世界だということを忘れてしまう……

 

 しばらくして活動も終わり、寮に帰ろうと小道を歩いていると誰かに呼び止められた。


「おい。ちょっとつら貸せ」


 制服を派手に着崩し、校則で禁じられているアクセサリーをジャラジャラと付けている。いかにもヤンキーですといった女生徒が私の肩をつかんだ。


「あなた、何度も失礼ではないですか?」

「マイカ待って。大丈夫、そろそろだから」


 私はマイカにウインクをする。

 彼女は何かを察したようで、うなずいてくれた。


 校舎裏、誰もいない空間で私はいわゆるカツアゲをされている。


「だーかーらー、ちょっとでいいから貸してくれよ、な?」

「前もそう言って、まだ返してもらっていませんよ」

「今度まとめて返すって」


 うんうん。良い感じだ。

 私は能力の準備をする。以前借りた分と賠償の分は、マイカが勘当される前に魔石を大量に買い、完済してある。

 あの時、放心状態だったマイカをうまい具合に言いくるめて、返済出来て良かった。

 利息があのまま膨れ上がっていたら、そう考えると今でも身震みぶるいしてしまう。


「殴られてーのか? さっさと金寄こせって言ってんだよ!」

「でしたら、今回はちゃんと形に残してもらいま……」

「おうおう! 署名でも何でもしてやるよ!」


 こいつは契約書とかを真面目に読まないタイプだ。

 私は心の中でにやりと笑って、文面を映し出す。


「それでは、こちらにお願いします」


 一筆をもって人生が変わる。それが”どちらに”かは分からない。

 それでも私はしゅくしましょう。

 

 あなたが転落する、その先を──

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