ヤマシタ アキヒロ

第1話

  山



山を越え

山を二つ越え

山を三つ越え

次が最後かと思いきや

その先にまた山がある


最初の山のことは

すっかり忘れた

死に物狂いで

登ったはずの山のことを

人は忘れるもんだ


次の山も

また次の山も

岩のゴツゴツも凸凹道も

いまはなつかしい思い出


絶望や苦しみ

悲しみや痛みでさえも

流した汗と同じく

どういうわけか

いまでは清々しい


一生のうち

あとどのくらい

登れる山があるだろう

野に咲く花に出会い

森の木陰に休めるだろうか


残された

本のページを

一枚一枚大切に

めくるように


山を越え

山を二つ越え

いま

私の足は痛みに耐えつつ

私の胸は喜びに満ちている


           (了)

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