第3話 妹侍女のいる生活
まる一日は、白湯やお粥などが喉を通るのを診てから、別室に移されることになった。
やはり最初に寝かされていたのは、儀式や会議に使われるような特別な広間だったようだ。
移されたのは、同じ敷地内の屋敷の一室だった。
しかし物がないため、寝たきりの我が身には広すぎるくらいだ。
板間にかなりシッカリと作られた
ただ上掛けはシルク仕立てで、中には乾燥させた柔らかい香草が詰められていた。
この独特な香りには、鎮静効果や安眠効果があるようだった。
布団丸ごとの、アロマテラピーといった趣のある感じが良い。
前世で売り出したらブームになりそうな逸品だ。
もっとも見た目は簡素とはいえ、仮にも一国の王の屋敷。
俺のような浅学では思いもよらない程、手間暇が掛けられてるのかも知れない。
それにしてもいくら子供といっても、
本当に質素なのでは?などと思わずにはいられなかった。
そんな鬱々とした日常の唯一の癒しは……。
「お兄様、お目覚めになったのですか?」
因みに実際の会話はもっと回りくどい言い回しだったり、良くわからない言葉が飛び交っている。
しかし勝手に、俺の中では開き直って脳内変換している。
実際、この世界の言葉は脳内海馬の言語野に残されていたシナプスに感謝!ってくらいに、徐々に思い出してきているのだ。
だけど、どうしてもニュアンスが、上手く伝わってる気がしない。
つまり英語で会話してても一旦、日本語に翻訳して考えるっというような感覚に近いのかもしれない。
そんな言葉のことよりも何よりも、目の前の妹である。
(本当にあの父、ウシノデヲシヒコと血が繋がっているのか?)
そんな疑問が、禁じ得ないほどの“超美少女”だ。
芸能界で“
因みにこの娘には、
宮廷暮らしからか、肌は色白でピンク色の優しげな口元と非常に調和がとれている。
黒髪は柔らかそうなロングヘアーを両の房から編み込み束ねて、ハーフアップに整えている。
そして未だ
きっと天性のものだろう。
よくアイドルは瞳の力で選ばれると聞いたことが有るが、まさに王族たる眼ヂカラが宿っているのだ。
服装装束は、上質な絹で縫われた和服の着物を
インナーには麻のような素材のワンピースを
だから自然と会話は、こんな風に脳内変換されてしまうのだ。
「今日のお兄様は、なんだか楽しそうですわ。クスッ……今日はお粥にお肉や野菜も入ってますけど、食べられそうかしらぁ?」
寝たきりの俺に対しても、器用に上目遣いで訊ねてくる。
「あぁ、もちろん頂くよ。マリアのお陰で治りもはやい気がするからね」
「まぁ、お兄様ったら」
マリアは頬をほんのり赤く染めながら、俺の上体を起こしてくれる。
「ふぅーふー……お兄様、あ~んですわ」
粥の入った椀から木製の匙で、俺の口元まで運んでくれる。
俺は少しだけ上体を屈めて、お粥を啜るように食べる。
「うん、今日のお粥は一段と美味しいよ。ありがとう、マリア」
俺は動かなかった表情筋をこれでもか!ってくらいに力を入れて、ぎこちなく笑顔をつくる。
「マリアも、日々お兄様の体調が戻られて嬉しいですわ」
空になったお膳を片付けながら、飛びっきりの笑顔を浮かべてくれる。
そんな飛びっきり!の幸せをずーっと噛みしめ続けていたい。
そんな誘惑に駆られながらも、今後の展望にも想いを馳せねばならないのであった。
「お兄様、今日はどんなお話をいたしましょうか?」
マリアとの会話は、いまや食後の日課のようなものになっている。
そう、会話も立派なリハビリの一環だ。
この世界の言葉も、徐々に思い出せるようになってきたし、何より家族などの身近な人々の情報が分からないままでは、直ぐに支障をきたすことは目に見えている。
もっとも
今までの会話から、少しづつこの国のことや家族構成などが分かってきた。
先ず俺なんだが、真っ先に知りたい内容なのに、どうにもストレートには聞きづらい。
そこで周辺の情報から、回りくどい思いをしながら大体のことは聞くことが出来た。
先ず、これが一番大事。
俺の名前は、『ヲシリ』で間違いないらしい。
(声に出すときは、『う・ぉ・し・り』って感じなんだよなぁ)
俺はマリアに、なんで『ヲシリ』って名付けられたのか?訊いてみた。
マリアも軽く首を傾げて、何でなのか考え込んでしまった。
「お父様が名付けたんだから、直接お聞きになられては?」
ひとしきり考えた挙句に、そんな風に返されてしまった。
(それもそうだな、いずれ
そんな風に素直に納得してしまった。
「因みに、ウシ國の『うし』って、モーモーって啼く、大きな動物の『牛』で合ってる?」
それを聞いたマリアは、ツボったのかコロコロと笑い出してしまった。
(うーむ、結構真剣に訊いたんだけどなぁ)
マリアにはそのギャップが、逆に新鮮で面白かったのだ。
「じゃあ、俺の名前の『ウシノヲシリ』って、牛の尻尾って意味なのかな?」
とうとうマリアは、おなかを抱えて大声で笑い転げ出してしまった。
(そんなに俺の名前で、笑い転げなくたっていいだろう)
そんな俺の表情を見て取ってか、笑いを奥歯で嚙み殺すように抑えて答えてくれた。
「わたしたちは王家の一族なのですから、国の名前を冠するのは当然ですわ。わたしも正式には『ウシノマリア』ですのよ」
「じゃあ、
マリアは得意気に説明し始めた。
「
(なるほど、そういう感じで名乗ってるんだな)
俺もようやく合点がいったので、深く頷いて見せた。
「そう言えば
話が自然にデヲシヒコに逸れてしまったので、ついでとばかりに訊いてみた。
するとマリアは、チョッと心配そうな表情を浮かべながら教えてくれた。
「最近は急にご公務がお忙しい様子で、なんでもどこかの国からの使者と面会しては、難しそうな顔をなさってますわ」
俺は悪寒を覚えると共に、ヤマトの國の宗女サグメの冷ややかな目を思い出していた。
俺は話題を変えて、家族の年齢などの話を訊いてみた。
そこで初めて判明したのだが、俺は今年で13歳になるらしい。
(これまで自分自身をしっかり見た訳ではないけど、てっきり10歳くらいだと思ってた)
改めてみても、妹のほうがしっかりして見えてしまう。
ちなみにマリアは、今年で10歳になるとのこと。
(ただ、妙に10歳をアピってくるんだよなぁ……)
そして家族は自分の他には、母が三人、14歳の兄が一人、そして妹のマリア、更に年の離れた弟が二人いるらしい。
(……ん?母親が三人?)
実はこの部屋に移ってから、家族とは一通り挨拶を交わしたはずだった。
(たしかに普通に母親らしく振舞っていた、女性が三人いたなぁ……)
しかし俺が生きていることを、心から喜んでくれた人がいたようには見えなかった。
(嫌われてたのかなぁ……)
「ところで俺を産んでくれた母さんって、三人の内の誰だったのかなぁ?」
結構聞きづらい質問だったが、意を決して訊いてみた。
「お兄様の母上は、産後の肥立ちが悪くって……。お兄様をお産みになって直ぐに、お亡くなりになったと聞いておりますわ」
マリアは気まずそうに答えてくれた。
「それでも父上は、お兄様の母上のことを心から愛していたのだと思いますわ。王家としての世継ぎが少ないのに、つい数年前まで側室すらお迎えになられませんでしたもの」
(??????)
「あれ?マリアって俺の妹なんだよね?」
「もちろんですわ」
マリアはニッコリと微笑みながら、続けて言った。
「お兄様はお亡くなりになられた、正室がお産みになられた
「ち、ちょっ……ちょっと待って」
俺も頭の中が混乱してきて、話を遮って切り出した。
「ひょっとしてマリアって……」
マリアは飛びっきりの笑顔を見せて、こう言った。
「はいっ、お兄様の
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