第2話:若くても現実は厳しいのか。それでも

 今日も仏壇ぶつだんに手を合わせる。

 彼が生きていたら・・・この世界ではタイミングを逃してしまうと後戻あともどりはできない。




 だから子供をたよれなくなってしまった。




 きり子は自分が母親としてだめなのでは?といつも考えている。





 仕事で切りかえるためになにも信じていないのに手をあわせる。






 嫌いだった仕事も誰にも応援されなくても続ける。





 それが仕事じゃなかったとしてもきっと似たことを考えていたかもしれない。





 綺麗事きれいごとでは生きていけないしむくわれるために努力をしているわけじゃない。




 生きていくために。

 生かされているから。





 こんな姿を人前では見せられない。

 じゃあ言ってくるね。



 応援していてと無言で頭の中でとなえながら出勤しゅっきんする。









 今回は別の仕事をしていた。

 近年は労働に対する見方がきり子の頃とは違っていて、仕事にたいするマウントや肩書きのうるささを主張しゅちょうされることはなくなった。






 なぜ旦那だんなの時には見直しをしてくれなかったのか考えるとはらわたがにえくり返るだがいつの時代も理不尽りふじんなことが多すぎて生きるのが嫌になる。






 そうはいっても新参しんざん古参こさんの関係はさけられないのでもうきり子は割り切っていた。






 副業先ふくぎょうさきは若手が多く、海外の子達もいて大学に通いながらバイトをしていた。






 恥ずかしながら仕事を教えてもらうのも若い子達からだったのに上から目線の人は誰もいなかった。







 話をしてくれることもあって家庭のちょっとした内容から今を生かされている若い子達の苦労話を聞いてきり子は共感するのが精一杯せいいっぱい






「この子達ががんばってるから私もがんばらないと!」






 昔ならそう思っていたかもしれない。

 今のきり子は





「大学の講義に間に合うよう、私も協力するね」







 とスケジュールが空きすぎているきり子が若い子たちに気をつかいお礼を言われる。






 ここで「そんなに仕事が好き?」だとか「金がほしい?」と言われないありがたさは副業先にこの仕事を選んでよかったときり子は安心する。





 もう少し日本や世界の労働は良くならないのだろうか。

 はなれていった子供たちのことを考えながらこの世界の残酷ざんこくさと未来への不安は仕事をしていてもおそってくる。






 ほぼブランクだらけで専業主婦せんぎょうしゅふに近いきり子は友人にうらやましがられていたが今の時代でどんな状態でも自立じりつは必要。





 子供たちにもし介護されればインターネットで被害者ひがいしゃポジションとして発信されるだけ。





 それなのに仕事先の若い子たちを見ていると母親であったころを思い出す。





 だからボケるわけにも甘えるわけにもいかなかった。





 格差かくさはつきまとうものの、こうして仕事として経験をつませてもらえる以上は続けるつもりだ。






 そしてたまに仕事をしていると『そりゃ働きたくない人が多くなる』と子供たちが不満をもらした時にきれいごとや説教をしないで、自分の苦労ではなく子供たちの言葉に変えて話をしていれば彼らが去る時に気持ちよく自分の人生を送れたかもしれない。






 後悔こうかい永遠えいえん

 そして今を生きるしかない。






 きり子は嫌なことも好きなこともそうでない人生を送るパート・仕事仲間の誰かによりそえるよう今日も給料日を待つ。





 誰も助けてくれない相手にうらやましがられる生活を望まないために。

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