主婦タイマー秋月

釣ール

第1話:本当はもっと輝きたかった。でも

 子供たちも無事に巣立っていった。

 かといってもう寄り添った旦那はこの世からいなくなってしまった。




 最初は熟年離婚してやると言い合っていたのに子供とは喧嘩別れで旦那に謝ろうとした矢先に。




 大事な人は失って気がつくなんて。

 つくづく人間に産まれて良かったことなんて今までもこれからもないんだと痛感していた。




 それでもなんでだろうか。

 秋月はこんな暗い自分でも残りの人生と向き合えないか考える時間が増えた。




 だからこそまた働いてみようと独りで決心した。









 以外にも若い子のバイトは多く、少子高齢化しょうしこうれいかと言えどこうして自分の子供以外の子達と仕事をするのはきり子にとって悪くなかった。





 それに思っていたよりも同年代で男女のパートもいて人間関係や会話もそれぞれに合わせられるので久しぶりの仕事なのにはかどっている。





 近年じゃ正社員だけでは収入が足りず、パートの仕事を増やしたり正社員をやめてパートにする人もいたり。





 息子や娘もこの国の労働形態ろうどうけいたいを馬鹿にしていたし、きり子も旦那だんなくす前によくいっしょの時間をとるために労働を否定して気をひいていたこともあった。






 そんなきり子も孤独こどくが嫌だから働いている。





 子供とも疎遠そえんで旦那を亡くした一人暮らしの四十路よそじの女性にこの世全てにたいして優しくしてくれとは言えなかった。





 好きな物もとくになく、ただせまってくる寿命への恐怖と不安を仕事でごまかしている。





 社会貢献しゃかいこうけんのつもりなんてない。





 ボランティアを昔やっていた時にトラブルがあっていらい人間は偽善者ぎぜんしゃだと旦那に愚痴ぐちをこぼしていたくらいだ。





 たいした恋愛をしたわけでもなかったのに現代社会ではめずらしく仲睦なかむつまじかった夫婦だったかもしれない。






 認知症にんちしょう介護問題かいごもんだいと子供たちをたよれない以上、ひとりで生きていくしかない。






 きり子は今日も仏壇ぶつだんの前で手を合わせる。






『片方がいなくなった時に仏壇ぶつだんじゃなくてもっと新しい何かにしたい』とわがままを言っていたのになにも選べなくて仕方なく仏壇ぶつだんにした。





「今日も生きて帰るから」









 休憩時間きゅうけいじかん

 それぞれが好きな休憩の取り方をしているのでだいたいメンバーはかたまってくる。





 若い子といっしょに休憩きゅうけいすることは少なくて気があった同年代で同性と会話をし、昼ごはんを食べるだけだ。






秋月あきづきさんもう慣れた?」






 会話が苦手だった若いころとは別でこの職場では自然とパート仲間と話すことができている。

 そうはいっても同性かつ同年代で話題なんて限られているけど。





「このまえ鋒崎きっさきまで旅行行ってきて。 よかったらどうぞ」






 ここの方々はいつも土産みやげを持っていくほど毎月どこかへ出かけている。




 今回は鋼海銅こうかいどうまで?

 みんなどうやってスケジュールを管理しているのだろう。





 かつてのきり子は後回しが苦手で何でも速く決めて家族旅行を何度もしていた。





 でも恵まれた人はちがうのかなとパート仲間との距離をいつでも感じられるからかいつも空いた時間はまともな人がいて空気も良さそうな他のパートを探すきっかけにしている。





 会話らしい会話といえば身の上話くらいで子供との仲も良くなく、旦那もいないきり子にとって元気な仲間の話を聞くと悪い意味で比較をするだけだった。





 それでも居場所としても機能しているこの職場はありがたい。

 ただ他のパートもやろうとはしている。






 そのことを前に話したら「ひとりぐらしも大変そう」と言われたり、「まだ金ほしいの?」とからかわれることもあった。






 やっぱり人間関係はストレスがたまる。

 きり子はひとりで生きる主婦として今日も仕事を続けるのであった。






 本当はもっと女として輝きたかった。

 それでも子供のことを思い、働かないで過ごせるなら旦那だんなとの時間も欲しかった。






 これが働くということか。

 なくして分かる大切さとはこうも残酷な現実とは。





 だからみな未熟なのかもしれない。

 きり子はそう経験した今を隠れてメモ帳につけていた。

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