第2話 四駄の地

四駄郡は、この国の象徴でもある霊峰嵩開山たかかいざんの麓にある。

嵩開山は国土の中心に聳え立ち4213メートルの高さがある。

嵩開山からは薩皆川さっかいがわが流れその周りには櫂秦かいたい山脈が連なる。10年前、旧石器時代の遺跡や遺物が多く発見された事でかなりの人口がこの地にあったことに注目された。

それまで燃料革命による林業の衰退、高齢が50%の限界集落となりさんちゃん農業つまり高齢夫婦とお母ちゃんがこの地を支えざるを得ない状況であったが、遺跡の発掘を取り上げた。

放送界が石器時代の住人達をそのまま現代にタイムスリップさせた生活風景をCGで復元し、都市部の人達の田舎暮らしへの不安であった土砂災害、山林崩壊、経済の問題、交通インフラそのすべてを解決させる要素を詰め込んだ番組によって山間地への移住を安心なものとした。

 戦後行われた大規模な植林の管理不備を露わにし枝打ち間伐を適切に行って鬱閉を防いでいけばクラストが無くなり山林が崩れる事のない安全な土地になる事、都会の子供に対する異常な事件に関しても自然に囲まれると大人子どもを問わず闇の無い純粋な心を持つ事ができ、特に子供たちは体調を崩しにくく精神的なストレスを感じなくなるという精神医学のデータ、この地の事件にも触れ都会で起こるような異常な事件が0であった事、戦争を否定する人たちが多く僻地に良くあるような差別、偏見を持たない、ノーマライゼーションでやさしい高齢者しかいない事などを紹介した。


するとまず通勤圏内だという人たちから移住者が集まった。

四駄郡の行政も動き始め移住者には土地と家を格安で与え新学校の申請を行い遂には大学まで出来あがった。

火の着いた人流は留まる事を知らず陶芸家や旅館経営者、アクティビティー施設開設、飲食店などにより雇用を生んだ。

何よりも移住者に長く親しまれているのは人口増加にも関わらず舗装道路を造らなかった事で、


「自然と共生出来る処がキャッチーだ」


とSNSなどでも拡散され、この10年の間に都市部からの移住者が半数を占める人口3000人の大きな群落になった。

 北町と西町の二つに分かれており地元住人の多くは家族経営の農家で産物は殆んどが原木椎茸。樹林地帯に適した農業を行っている。

 移住者が経営する飲食店では地元原木椎茸をメーンにメニューを作り多くのメディアで取り上げられている。

高齢化で廃れるばかりの原木だがこの町に移住してくる人の年齢層は20から40代が中心で自らが進んでチャレンジしているおかげで重労働の原木栽培ではあるが益々盛んになっている。




「蛭田の爺ちゃん!」


四駄の地元の家は原木屋敷と呼ばれ一軒一軒が武家屋敷の如くに伝統のある家屋と広い庭を保持している。

高齢者が殆んどでまともに玄関で呼び出しても相手にされないのは移住者が一番初めに覚えることである。

少佐郎の家は庭に面した縁側から声掛けしないと大音量のテレビ音にかき消される。

大声で呼んでいる若い青年はこの地で原木栽培にチャレンジしている豪達 ごうたつ健斗けんと22歳。

少佐郎は引退してもこうして若い人達に原木のノウハウを教え込んでいるのだ。

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