第1話 迷子と花の記憶

ある晴れた午後、ユカリは学校の終わった後、近くの森に足を運んでいた。木々の間に差し込む柔らかな光が、彼女の足元を優しく照らしていた。森の奥深くには、子どもの頃からのお気に入りの場所がある。そこには美しい花が咲き乱れ、自然の静けさが広がっていた。


その日もユカリは、その花たちと一緒に過ごしたいという気持ちに駆られて、少しだけ森の中に入ることにした。最初はその心地よい風と香りに包まれて、どこまでも歩き続けることができると思っていた。しかし、やがて森の中は予想以上に深く、道に迷い始めた。


「どうしよう…」とユカリは小さくつぶやいた。周囲の木々が次第に密集してきて、日の光が薄れ、森の中は不安な影に包まれていた。


しばらく迷った末に、ユカリは見知らぬ場所にたどり着いた。そこには、小さな泉が静かに流れていた。泉の水は清らかで、ほんのり青白く輝いていた。ユカリはその美しさに見とれてしまい、自然と足を踏み入れた。


突然、足を滑らせて泉の中に落ちてしまった。水は冷たく、彼女は一瞬で深い場所に沈んでしまった。息ができず、意識が遠のく中で、ユカリは奇妙な感覚に包まれた。目を閉じると、目の前にふわりとした光の輪が見えた。


「ここで終わりなのかな…」とユカリは心の中でつぶやいた。その瞬間、彼女の意識は霧が晴れるようにクリアになり、周囲の音や感覚が蘇ってきた。気づくと、彼女は再び地上に戻っていた。泉のほとりに立ち、無事に戻っている自分に驚きながらも、何か特別な体験をしたような気がした。


家に帰る途中、ユカリはこの出来事について考え続けた。彼女が子どもの頃に感じたこと、花と話していた記憶が徐々に思い出されてきた。あの泉での出来事が、何か特別な意味を持っていたのかもしれないという思いが心に残っていた。


その夜、ユカリは夢の中で再びあの花畑に戻っていた。花たちがやさしく話しかけてくるような感覚があり、彼女の心は静かに癒された。目が覚めたとき、ユカリは自分の中に眠っていた能力が再び目覚めたことを感じた。

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