就活中のニートが、遊びでAIに頼んでみたら、本当に異世界転生してしまった件

夜空紅

第1話『就活中のニートが、AIに異世界転生させてくださいと頼んでみた』

「誠に申し訳ありませんが、今回の面接は不採用とさせていただきます」

「はい、わかりました……」


 あまりにも酷な現実を分からせられて、スマホの通話を終了させて部屋のベッドに寝転んだ。


「はぁ……」


 俺、落田九朗は就活中のニートだ。遡ること三年前に、職場の上司からパワハラを受けて、仕事を辞めてしまった。それ以来、実家に帰って引きこもり、ネトゲ三昧の毎日。しかし、歳も三十になったため、そろそろ働かないとやばい。そう思って就職活動をする日々を送っていたが、一社も受からずに、自尊心もメンタルもボロボロになっていた。今回も駄目とか、本当に嫌になる。


「気分展開に動画でも見よう……」


 誰が聞いているわけでもないのに独り言を呟いて、スマホの動画投稿アプリを開いた。何か面白い動画はないかと、今日の急上昇の欄をちらちらと眺めていると、最新AIにぶっ飛んだこと頼んでみたという動画を見つけた。意味が分からないが、なんとなく面白そうだったので、画面をポチっとタップする。


 その動画では、黒髪メガネのオタクっぽいインフルエンサーが、見た目にそぐわない軽い口調で語り始めた。


「やっほー。どうも! なんでもやってみた系オタクインフルエンサーの鈴木です。今回なんですが、なななな、なんと! 最新AIアプリ《ゴッドハンド》を使って、ぶっ飛んだ質問をしていきたいと思いまーす!」


 なんかこの人自身もぶっ飛んだ投稿者さんだった。その人がやっていたのは、AIに異世界に転生できるか聞いてみたという内容だった。当然だが、そのAIアプリには、現実的に考えて異世界に転生することは不可能です。しかし、アニメや小説で異世界の物語を楽しむことはできますと、夢も希望もないオチで終わった。


「めちゃくちゃしょーもねぇ……」


 いくら注目を集めるためとは言え、こんなバカみたいなことをしているこの投稿者は、何をやっているのだろうか。しかも、こんなクッソくだらない内容なのに、急上昇一位を獲得するくらいバズっている。それだけAIの需要が世の中に浸透しているということだろうか。それともこの人がチャンネル登録者数十万人の人気インフルエンサーだからだろうか。おそらく両方だろう。


 でも、これだけAIが流行っているのならば、就活中のニートの俺でも、もしかしたらAIで稼げるようになれるかもしれない。だって副業とか世間でめちゃくちゃ話題になっているし、会社を辞めてインフルエンサーになる人もいる世の中だ。未来のことなんて誰にもわからない。それに見ていて、なんとなく面白そうだなと思った。いきなり稼ぐとかは難しいとしても、遊び半分でやってみるのはアリな気がする。


 そう思い立ち、俺はすぐにあのアプリを検索した。すると、検索上位で簡単に見つかった。どうやらあの動画の影響でやり始めている人も多いようだ。


 俺は《ゴッドハンド》という名のアプリの画面を開き、インストールボタンをタップした。


 そして、三十秒もかからないうちにインストールは完了して、早速アプリを起動した。


 最初に表示された注意事項は軽く読み飛ばして、アプリの規約に同意するにチェックを入れてタップする。次に、氏名入力の項目があったので、適当にクロウと入力した。そこまで終わらせると、さっそくAIから最初の質問を求められた。


「何を聞いてみようかな……」


 始めたのはいいのものの、何を質問していいのかまったく分からない。どうするのか少し迷っていたが、最初の質問なんて遊びでやるのが一番いいと思う。本格的な質問なんて、後から考えたらいいのだ。僕はとりあえず遊び半分であの動画の真似をして適当に入力して馬鹿みたいなことを頼んでみた。


『俺を異世界に転生させてください』


 入力が終わったあと、自分でも痛々しいほどに、あの動画の影響を受けていることに気が付いた。もしかしたら、あの動画投稿者って、案外人を乗せるのが上手い凄い人物なのかもしれない。いや、俺が馬鹿なだけかもな。


 なんとなく適当過ぎたかなと反省しつつも、直すのも面倒なので、このまま入力を決定した。


 画面には質問に回答中という画面が発生している。すると、三十秒くらいで回答が出てきた。俺はその文章を読んで、背中に戦慄が走った。


『あなたの要望を受け入れます。ようこそ異世界へ!』


 AIの故障だろうか。まあ、サービス開始されて間もなしだし、こんな馬鹿な回答くらいするだろう。そう冗談半分に考えていたら、急に胸に違和感を覚えた。


「う……!?」


 それは一瞬の出来事だった。俺は息をすることができなくなり、目の前がぼんやりと薄れる感覚を覚える。


 まさか死ぬのか。でもなんでだろう。別に変な物を食べたわけでもないし、引きニート時代も、自宅で筋トレしたりして、体調には気を付けていたつもりだ。なのに、なぜ俺は急に息をすることができなくなったのだろうか。


就活で失敗したストレス。その言葉が脳裏に過った。でも、こんな突然心臓麻痺みたいに息ができなくなるものだろうか。


 俺は理由が分からず混乱していた。とにかく救急車を呼ばないと死ぬ。そう思ってスマホを手に取ると、あの画面の文章が目に入った。


『あなたの要望を受け入れます。ようこそ異世界へ!』


 もしかして、これのせいか。遊びでAIに頼んだくらいで、俺は本当に命を落として、異世界に転生するというのだろうか。


 わけがわからない。でも不思議とそんなに苦しくない。死の間際に、こんなに冷静で、しかも楽だなんて普通はありえない。死んだことないからわからないが、もっと苦しむものだと思う。それが特段苦しくもなく、冷静な思考を保てている時点で、かなり特殊なケースだろう。


 これはもしかすると、もしかするのかもしれない。


 ありえない。遊びでやったくらいで本当に異世界に転生するのかよ。まあいいや。どうせ生きてても内定なんて貰えるわけないし、このまま異世界に転生するのもありなのかもしれない。


 でも、できることなら、次に生まれ変わったら、チート能力や才能に恵まれて、好きなことして生きていきたい。


 現実的に考えてチートなんてありえない。いい歳しながら、ちょっと痛いな。


 俺は自分の浅はかな願いを自覚しつつ、意識を失い死亡した。

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2024年9月21日 18:15
2024年9月22日 18:15

就活中のニートが、遊びでAIに頼んでみたら、本当に異世界転生してしまった件 夜空紅 @yorusorakurenai7777

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