第4話 北山路学園体育祭 準備編①
先日行われた中間テストも無事終え、僕たち1年C組一同は6月21日にある体育祭に向けて種目の1つである大縄跳びの練習をしていた。
「お前ら。2・3年には勝てなくとも同学年であるA組やB組にはぜぇったいに勝てよ?。絶対だからな」
いつも
普段と違いガチ目のオーラを纏っている。意外とこういう特別な行事は大事にするタイプなんだろうか。
「俺は許せねぇんだ」
左手に握っているメガホンをゴリゴリという音が出るほど、強く握りながら語る。
「先日の土曜A組の担任やってる近藤と2人で飲んでたんだが、あいつ遂に彼女を作ったらしい。俺と二人で一生独身宣言を掲げたはずなのに。あいつ俺を裏切りやがったんだ」
ただの嫉妬だった。
クラスの女子たちが冷ややかな目で熊野先生を見る。
そりゃそうだ。他クラスの担任の個人情報を聞かされても反応に困るだけだし。
「悔しいよ俺は。大学時代からの長い付き合いの俺に隠れて彼女を作ってたなんて」
そんな長い付き合いになるんだ。
「隠してた理由を聞いたら、こう言ったんだぜ?『熊野は、すぐ周りに言いふらすから言わないようにしてた』って。一体全体、俺を何だと思ってるんだよ!!」
意外と口が軽いタイプなのか、熊野先生。
「これは僻みとか、嫉妬とかじゃない。単純に気に食わないからあいつを潰す。体育祭を使って。ぎゃふんと言わせてやる」
担任らしい仕事はまったくしない、クラスの生徒を憂さ晴らしに利用する。この人最低だな。
「もし勝てたら、補習組の夏休みの課題を減らしてやらんでもない」
一部のC組から歓声が上がる。顔ぶれを見ると中間テストで赤点を取った奴らだった。
「うおおおおお。勝つぞお前らぁ!!」
眼鏡委員長こと須藤が叫ぶ。お前も補習組かよ。
学級委員長というと勉強ができるやつがするイメージが何となくあるが、こいつに至ってはその限りではない。ちゃんとしっかり頭が悪いのだ。
須藤を含めた補習組の男子女子が肩を組んで、円陣を組んでるのを後目に、星崎さんが熊野先生に質問をしていた。
「もし、勝てなかった場合何かあるんですか?」
「ぉん?、そうだな」
熊野先生が顎に手を当て深く悩んでいる。
「よし。万が一、負けたら補習組は夏休み中ずっと補習だ」
補習組が鳩が豆鉄砲を食ったよな表情をしている。
魅惑の餌をチラつかせられたと思ったら急に突き放されたのだ。そりゃそんな顔にもなる。
「補習関係ない俺らは何のメリットもないじゃん!!」
「そうだそうだ!!」
ブーイングや文句の嵐が飛び交う。
「まぁまぁ。落ち着けお前ら。仲間を助ける為に一肌脱ぐことも時には大切だぞ。それに、勝てばいいだけの話だろうが、勝てば」
そのだけが難しいのでは?。
「なぁに。本番まであと2週間もあるんだ。なんとかなるさ」
自分は出ないからって他人事だなこの人。
「練習再開するぞ。お前ら。ほら、立て立て」
熊野先生の号令を皮切りに、僕らは渋々重い腰を上げることにした。
◇
僕たちは、体育祭の練習という名の保健体育の授業も終わり、4限目の数学の授業を受けている真っ最中である。
教室内は制汗剤と運動直後の生温かい熱気により、独特の甘ったるい匂いが充満している。―――正直、いい気分ではない。
「はい、みなさん。まだ半日授業は残ってます。数学の授業中ですよ。シャキッとしてください」
B組担任兼数学の担当教師である幸村先生が教科書を丸く筒状にし、ポンポンと手を叩く。数学の授業は今日から、二次関数の内容に差し掛かっることになっている。
本来教科書の順的には、中間テストで出た三角比よりこの二次関数を先に身に着けることになっているが、二次関数は難しく授業に付いてこれなくなる生徒が多く出る関門のため、順番を入れ替えて期末テストに向けてゆっくりと授業を進めていくことにしているらしい。実際、中間と期末の期間を見比べたとき、期末は中間に比べ少し始まる期間が遅い。期末の範囲が二次関数のみとなっているのは、幸村先生の粋な計らいだろう。
ちなみに僕は、二次関数の内容は予習済みである。
7歳の時に舞園家に引き取られた僕は、少しでも母さんの負担を減らすために努力してきた。主に家事や勉強の部分を。
っと、まぁ。こんな感じで、僕はこの
「えー、ここの問題を...。星崎。答えてみろ」
前の席からガタガタと音がした。机の中に何かをしまっているみたいだ。
「うぐぐっ。はい、今行きます」
隠れて何かしてたなこの人。まぁ、十中八九早弁だろうけど。
あと1時間で昼休憩なのに待てなかったか。
星崎さんが黒板に書かれている問題を、方程式を用いて解いていく。
「先生。できました」
「あぁ。正解だ。戻っていいぞ」
早弁してて話聞いてなさそうに見えて、ちゃっかり問題は解いちゃう当たりさすがというかなんというか....。
「星崎が解いてくれたように、このような数式の場合、この方程式を当てはめて解いていくんだ」
黒板に書かれた回答に解説を加筆しながら丁寧に説明をしてくれている。
幸村先生の授業は丁寧で分かりやすいと評判がいい。そして、容姿端麗だ。ファンクラブが秘かにできてしまうくらいには。
身長170㎝と成人女性的には高身長の部類であり、腰まで伸びた黒髪と眼鏡が合わさり女性有能秘書官みたいな雰囲気を醸し出している。
聞いた話によると過去に、読モをしていた経験があるらしいとか。胸はDぐらいあるからグラビア経験もありますって言われても、納得してしまう気がする。
ちなみに、読モ時代の雑誌は学生間でひそかに高値でやり取りされている。らしい。
そんな現場、見たことないけど。
普段不真面目な男子生徒も幸村先生の授業の時は、まじめに受けている。授業目的というよりは先生目的だ。
実際、告白してくる生徒が後を絶たないらしく、困っているとも言っていた。
幸村先生自身は好きな人がいるとのことで、一切告白を受ける気はないとのこと。しかも、この学園にいるんだとか。男子生徒諸君、どんまいだ。
チャイムの音がする。いつの間にか結構な時間が経っていたようだ。
「本日の授業はここまで。しっかり復習して、課題は忘れるなよー?」
そう言い残し、幸村先生は教室を後にした。
他の生徒も続くように、教室から出ていく。
「星崎さん、今日も屋上に行く?」
前の席に座る彼女の背中を軽く指でつつき、尋ねる。
「さっき全部お弁当食べちゃったから、購買で買わないと」
やっぱ早弁してたのね。っていうかあの数分で、全部食べきったのも気になるけど、まだ食べるのか。どんだけ大食いなんだ、この人。
「ついて行こうか?」
「いや、先に行っててよ。後から向かうから」
「じゃあ。先行ってるね」
僕らは、別れてそれぞれの目的地へと向かった。
◇
本校舎の屋上扉前についた僕は、扉のガラス越しに屋上に人がいることに気付いた。
誰だろう。
音をたてないようにゆっくりと扉を開ける。
「敦先輩!!、好きです!!」
この声は、
二人は、僕が所属している料理研究部の先輩だ。
とんでもないタイミングで来てしまったのでは?。
換気筒の裏に隠れて様子を伺うことにしよう。
「ほたる。急にどうした?」
「先輩にどうしても伝えなきゃいけないことがあって」
覗き込むとそこには、先輩二人の姿....ではなく、1人2役で妄想に浸っている鏡ヶ咲先輩の姿がそこにはあった。
ほんとに何してんだろう。見なかったことにして帰るべきか。
ゆっくりと扉のほうに向かって
「どうしたの?」
「ふえっ!?」
後ろから急に声をかけられて飛び上がってしまった。後ろを振り返る。
声の正体は星崎さんだった。急いで彼女の頭を抱き寄せ、口元を手で押さえる。
身長的に換気筒から頭見えてたら困るし。
「しーっ。星崎さんちょっと黙ってて」
「ん”ーっ。ん”ーっ」
ジタバタ動く彼女を抑えつつ、再び様子を伺う。
・・・。いない。
「何してるのかなぁ。君たち」
頭上から聞きなれた声が聞こえる。
二人して恐る恐る換気筒の上を見上げると、満面の笑みで
「見た?」
「見てないです」
「ホントに?」
「ホントです」
「そう....」
「それはそうと、女優志望だったりします?」
「みてるじゃない!!」
「ひぃっ。ごめんなさい!!、わざとじゃないんですぅ!!」
振りかざそうとする右手を両手で掴み、精一杯の謝罪の声を上げる。
「まぁまぁ。落ち着いてください先輩」
星崎さんが今にも襲い掛かってきそうな鏡ヶ咲先輩を宥めてくれている。
「離して!!。どうにかしてこいつの記憶を消さないと」
怖い。前回、見学に行ったときはこんな荒っぽくなかったのに。部長の前だから猫被ってたってことなのかな。
「まって!まって!。誰にも言いませんから。どうか、落ち着いてください。ほら、深呼吸。息吸ってー。吐いてー。」
深呼吸を促す。
「すぅ~、ふぅ~...。落ち着いたわ」
「先輩、部長のこと好きだったんですね」
「誰にもばれないようにしてたのになぁ。まぁ、あんたら人畜無害そうだし?。ばれても問題ないか」
鏡ヶ咲先輩が、手すりに腕を掛け愚痴をぼやくが如く、勝手に話し始めた。
「あれは2年前の出来事だったかな。私がこの学園に入学する前、中学生だったころの話だけど―――」
◆
身長が低いこともあって昔からよく男子にからかわれていた。
チビだとか雑誌についてくる付録だとか不名誉なあだ名をたくさんつけられた。
腹が立った私は、気に障ることを言った奴らを男女子供大人構わずボコボコに気が済むまで暴力をふるっていた。殴ったり蹴ったり、そこらに落ちている物や服に忍ばせていた道具とかで、相手を傷つけて傷つけて何人も病院送りにしてやった。
気が付いた時には、地元では名の知れたスケバンとして悪名が広がってしまっていた。もちろんそんな野蛮なことばっかしてる私に友達なんてできるはずもなく、友達として付き合ってた子達もみんな次第に私のことを避けて、気が付くと私は一人ぼっちになっていた。
まぁ、過程を改めて見たらそうなるのも当然の結果だし、元はといえばからかってくることをやめさせたかったのが主な行動原理だったから、別に一人になろうがどうでもよかった。
そう言いつつも、一人で過ごすのはまぁ寂しいというか暇な訳で次第に私は、学校内の奴らじゃなくて街の不良共と連むようになっていた。
学校にはほぼほぼ行かず、夜中も街中で屯したり、酒やたばこ、そしてスリといった悪いこともたくさんした。
そんな日々を過ごしていた時、とある事件が起きた。
いつものように知らないおっさんを引っかけて、金を巻き上げようとしていた時、後ろからバットで襲われた。一瞬の出来事だった。
そのまま私は、男性集団に暗い裏路地に連れていかれて服を脱がされた。
最初は暴れたけど、どうしようもなかった。いくら私が喧嘩が強くても、複数人の大人相手に勝てるわけがないのは至極当然のことだった。
たまたま私は、裏路地に月明かりが差し込んだことでその男たちの顔を見ることができた。―――そいつらは、今まで私が騙してお金を取ったりしてきた男たちだった。
因果応報とはまさにこのことで、悪いことをしてきたツケが回って来たんだなって私は諦めることにした。
そんな時、遠くから男性の叫ぶ声がした。
「警察の方!!、こっちです!!。女性が連れ去られた方は!!」
「やべえ!!警察だ、逃げるぞ」
男たちは、私を置いてその場から逃げ去った。
一人の男子がこちらに近づいてきた。警察に通報してくれた人だろう。
「君!!、大丈夫かい?」
「・・・。はい」
その男子は、裸にされ服をズタボロにされた私に自身が羽織っていた上着を着させ、そのまま抱きしめてきた。急な出来事すぎてその通りに行動するしかなかった。
「怖かっただろう。もう大丈夫だから...」
そう言い、彼は私の頭を何度も優しく撫でる。
「このご時世どんな人が町中にいるかわからないんだぞ。君みたいなかわいい子を襲おうとする人がいてもおかしくはない。だから、こんな夜中を一人で出歩くのはやめような」
かわいいだなんて、中学生になってから初めて言われたかもしれない。馬鹿にしてくる奴らしかいなかったから。
何故か私は、こんな状況下にも拘らず、嬉しいという気持ちが勝っていた。
「ありがとうございます。助けてくれて。なんで初対面の私にここまでしてくれるんですか?」
「当然のことをしているまでだよ。困ってそうな人を見かけて、そのまま見過ごすわけには行かないからな」
「そうです...か」
私には理解ができない話だった。赤の他人にここまで無心で手を差し伸べられるなんて。
「家は近いのか?。送って行ってあげるから」
「でも...。あなたは大丈夫なんですか?こんな夜中に」
「大丈夫大丈夫。俺、今修学旅行でこの町に来てるんだよね。で、今絶賛ホテル抜け出してコンビニに寄ってたとこ」
「見つかったらやばいんじゃあ」
「俺の心配はいいから。俺からしたら、君のほうがよっぽど大丈夫そうにはみえないよ。だから家まで送ってあげる」
「ありがとうございます。ここから10分ぐらいで家につきます」
「じゃあ、行こうか」
彼は私に手を差し出す。
私は、その男子と手をつないで家まで向かうことになった。
「どうしてあんなとこに1人で居たんだい?」
「それは...」
「嫌なら無理にいわなくてもいいよ」
「...。男性をだましてお金を盗ろうとしてたんです」
「...。そうか」
沈黙が流れる。
「それは、誰かに言われてやってること?」
「いえ。行為自体は自分からです」
「どうして?」
「連るんでる友達と遊ぶためのお金が欲しくて」
「なるほどね」
「今日の体験を通してどう思った?」
「怖かったです」
今までは、たまたま運がよかっただけ。本来は今日みたいに襲われる可能性があった。今日は、たまたま助けてくれたから未遂に終わったけど、もし誰も来なかったら....。
恐怖で、肩が震える。
「ごめんね。いやなこと思い浮かべさせちゃったか」
「いえ。私の責任ですから」
「今日限りでこんなことはやめるべきだ。その友達とやらと関係を持つのも」
私は、無言で地面を見つめる。
彼が、そっと頭に手を乗せて撫でてきた。
「君をそこまでさせた何かがあるんだね。無理に聞くことはしないけど」
「皆が私を馬鹿にするんです。チビだとか何とか言って。だから、むかついた奴らをずっとボコボコにして。見返してやろうって」
彼は何も言わずに頭をなで続けている。
無性に今までの自分が空しくて、悲しくて、涙があふれてくる。
「気が付いたら、周りに誰もいなくなってました。学校に行っても常に一人で。誰も話しかけてくれないし」
「だから、街の悪い人らと連るむようになったと」
私は彼の胸に顔を押し付けながら頷いた。
今日が初対面の筈なのに、なぜかすべてをさらけ出して甘えたくなる。そんな雰囲気が彼にはあった。
「よし。じゃあ、今日から俺が君の友達になってあげよう」
「へっ?」
唐突な提案に困惑する。
「友達がいないから、悪い奴らと連るんじゃうんだろ?。じゃあ、俺が友達になったらそんなことはしなくなるってことじゃないか?」
何を言っているんだろうか。
「でも、明日か明後日になったら帰っちゃうんですよね?」
「確かに、それはそうだ」
この人は馬鹿なのかもしれない。
「まぁ、ほらあれだ。ネットの友達的なあれだよ。近くにいなくとも共通の話題とかネタがあったらそれで盛り上がれる的な」
「ふふっ。なんですかそれ」
彼のやさしさに思わず笑ってしまう。
「何はともあれ。連絡先交換しようよ」
「はい。よろしくお願いします」
スマホを開き、LineのアプリからQRコードを選ぶ。
スマホをかざし登録を終えた彼が、こちらに画面を見せてくる。
「これで友達だな」
「はい。そうですね」
私の数少ない友達の欄に彼の顔写真が写る。
「田中敦さんって言うんですね」
「そういえば、名乗ってなかったね」
「そうですよ。私は、鏡ヶ咲ほたるって言います」
「よろしくな。そうだ、これ使いな」
彼はジャージのポケットからハンカチを取り出す。
「涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃになってるぞ」
「デリカシーないんですね。もうちょっと別の言い方考えてください」
「えぇ....」
「まぁ。今回は許してあげます。それじゃあ、行きましょうか」
先程の会話から、数分も経たないうちに私の家の前までたどり着いた。
「ここが私の家です。ありがとうございました。送ってくれて」
「気にするなって。一度乗り掛かった舟だからな。最後まで見届けないと」
「優しいんですね」
「まぁ。人に嫌われるような人間よりも、好かれるような人間のほうが人生何かと生きやすいからな。優しくするさ」
「変な人」
「じゃあな」
彼が私に背を向け帰ろうとしている。
「あの!。また、会えますか?」
「んー、そうだなぁ。それは何とも言えないな。俺京都在住だから結構離れてるし」
「そんなぁ」
「まぁ、気を落とすなって。もしお前がよかったらほかにも手段はあるぞ」
「なんですか?」
「俺3年だから今年受験なんだけど、お前もそこを受けて二人とも無事合格すれば毎日会うことができるようになるぞ」
「私2年です」
「じゃあ来年だな」
「私もそこ受けます!!。成績よくないけど、あと1年頑張って勉強して絶対受かって見せます!!。だから...受験失敗しないように頑張ってください!!」
彼は、私の宣言を聞くと、嬉しそうに一瞬だけ笑い、手をひらひらと振りながら帰っていった。
「あっ。ハンカチ返し忘れたな」
私は、遠くなる彼の背中を眺めながら、ハンカチを握る手の力を強くした。
◆
「こんなことが昔あったのよ」
回想の中の田中部長イケメンすぎる。
そんなことされたら、大抵の女性が惚れ込む気がする。
「お二人は、この学園に来る前から知り合いだったんですね」
「そうなるわね」
彼女の容姿については気になることが前々からあったけど、今回の話を聞いてすべてに合点が生じた。彼女の耳についている大量のピアスや口元のピアス痕。昔は結構やんちゃしてたんだろうとは思ってたけど、まさかこんな過去があったとは。
「その時から先輩は、部長さんに惚れていたってわけですね」
「改めて口に出さないで、恥ずかしいから」
「それで、いつ告白するんですか?」
こいつ、直球すぎる質問しかしないな。隣でズカズカと聞きまくる星崎さんを見る。
「体育祭の後にある後夜祭の時に告白しようかなって思ってる。このハンカチを渡すのと一緒に」
鏡ヶ咲先輩は、ポケットからハンカチを1つ取り出した。さっき話題に出てた部長のハンカチだろう。
「いいですね」
「私たちも応援してます。何か手伝えることがあったら言ってください」
「ありがとう。2人とも」
2人?。僕もそこに換算されているのか。
ふとした疑問は、口に出さずに一度自分だけで咀嚼することが大事であると本で読んだことがある。だから、僕は何も言わないことにした。
「私は教室に戻るから。それじゃあね」
「はい、また」
先輩が屋上から出ていく。
「あんま時間ないけど。昼食にしようか」
「そうだね」
◇
僕たちは、昼食を食べながら体育祭の話をしている。
ちなみに星崎さんは早弁したお弁当とは別に、クリームパンを3つ食べようとしている。
「クラス対抗戦があるのは、大縄跳び・リレー・綱引き・障害物競走の4つだね」
「意外と多いな」
「ほかにも、応援合戦とか玉入れとか借り物競争とかもあるけど、これは任意参加みたいだから省かれてるみたい」
「なるほどね」
「熊野先生は、この4種目のうち2つ以上勝てば問題ないって言ってたから。今日やった大縄跳びと、もう一つ何かしらの競技を多く練習したほうがいい気がするね」
あまり、個人差が出にくい競技が良いな。この中だと障害物競走か綱引きに当たるんだろうか。
「他のクラスメイトはなんて?」
「障害物競走が一番多いね、意見としては」
「僕も障害物競走に賛成かも」
「委員長に言っておくね」
「頼んだ」
「それはそうと、前うちに勉強しに来たときにさ。日和と何かあった?」
「えっ!?。いや何も?」
「ホントに?。怪しいなぁ」
「ホントだよ」
「まぁ、いいけどさ」
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