第一章 1年生編
第1話 星崎由芽という女について
友達の定義とは、いったい何を指すのだろうか。
何度か会話をしたら?、信頼関係を築けたら?、それとも目と目があった瞬間だろうか。
最後に関しては、バトル系漫画とかにありそうだ。
入学式を終え、1週間がたった。
「おはよーぅ!」
「1限目英語かぁ」
「やっば、教科書忘れちゃったよ。見せてくれない?」
「いいよー」
クラスメイト達がそれぞれグループを作って楽しそうに会話をしている中、僕
先日の自己紹介以来、若干・・・というかだいぶクラスの中でも浮いた存在となってしまった。
これもすべてあのメガネが悪い。
あの時、あいつがあんな恥ずかしいことを大声で言わなければ、僕のクラスでの立ち位置はコミュ障な陰キャ男子というところに収まっていただろう。
「元気なさそうだな。舞園」
顔を上げるとそこには例のメガネがいた。
こいつの名前は、
「おはよう。委員長」
あの後、学級委員長と副委員長を決める時間があったが、こいつ以外だれも立候補しなかった為そのまま決定となってしまった。ほんとにいいのかお前ら。
「持ってきたラノベを読むべきか否か迷ってたんだよね」
「お前なぁ。こういう時間にクラスの子に話しかけないと友達なんてまず作れないぞ」
うるさい。こんな状況を作った張本人がアドバイスなんてしてくるんじゃない。何様のつもりなんだお前は。
「話しかける勇気があればすでにしてるから」
「将来の夢は、自分自身が誇れるようなかっこいい人になることです」
須藤は、謎の決めポーズを取り自己紹介の場で僕が言った一言をもう一度再現した。
もしかしてこいつは喧嘩を吹っかけて来ているつもりなのだろうか。
上等だ。受けて立ってやろう。
「やめろよ。馬鹿が」
僕は、須藤の左耳を思いっきり引っ張ってやった。
「痛”だだだだだだ。悪かったって」
両手を顔の前に合わせ軽く頭を下げる須藤。
ほんとに反省しているのだろうか。普段の行いから全くそう思えないのだが。
「実際問題、お前と話してみたいと思ってるやつはいっぱいいるぞ」
「――――ほんとうか?」
「あぁ。クラスのやつらに軽く聞きまわったが、みんなお前のことが気になってはいるみたいだしな」
「そっ、そうなのか」
俺の知らぬ間に何をしているんだお前は。
「まぁ。精々頑張れよ」
一言残し、須藤は自分の席に戻っていった。
実際の所として僕の立ち位置は、このクラスのマスコット的なものになっている。
話しかけてくれる存在こそ少ないが、皆目線があったとき小さく微笑んでくれたり、手を振ってくれたりしている。
クラスメイトからの態度的に嫌われていないことだけは確かなので、その部分だけはあいつに感謝したいと思う。
読むかどうか迷い、最終的に開くことをやめたラノベをカバンの中にしまい、僕は今後について考えていた。
「はぁ。あいつの言った通りこんな状態でかっこいい人をめざすとか遠い夢だよなぁ」
「急にどうしたの?。舞園くん」
後ろから急に話しかけられた。
「うぇっ!?・・・あぁ、星崎さんか。おはよう」
「おはようございます。本日もかわいいね」
僕に挨拶をすませた彼女は、そのまま僕の席の前にある彼女の席についた。
彼女の名前は
いわゆるお嬢様というやつである。
「事あるごとにかわいいっていうのやめてほしいんですけど」
「そうですか?。事実を言っているまでだよ」
「こう見えて僕も男の子なんだからね?」
「重々承知しております」
「やっぱ男たるものかわいいって言われるより、かっこいいって言われたいもんなんだよ」
この人は会話を交わす度にかわいいかわいいといってくるので、対応にいつも困る。
「それを言うなら私も女の子です。かわいいものは愛でたいものなのです」
「それに・・・」
彼女は身を乗り出して僕の耳元に顔を近づけた。
「かっこいい人になりたいのであれば、態度で示してくださいね」
「ちっ、近いって!!」
僕は顔が赤くなりながら、身を乗り出してくる彼女を自身の席に押し戻した。
「なんなのさ。もう...」
「そういうところがかわいいと言っているんだよ?」
「わかったから。そろそろチャイムが鳴るよ?」
「そうだね」
――――今日も長い一日が始まりそうだ。
4限目の授業が終わり、昼食をとるために次々と生徒が教室から出ていく。
「よし。僕も行くか」
他の生徒同様に、僕も教室から出ていくために席から立つ。すると、星崎さんが声をかけてきた。
「お昼ご一緒させてほしいな」
「今日弁当だからどこか外で食べようかなって考えてたんだけど、それでもいいならいいよ」
「私も今日はお弁当だから」
「じゃあ、いこうか」
◇
場所は変わって、本校舎屋上。
本日は快晴。外で食べるには
桜の木が桃色から緑色へと変わり始め、夏がこれから始まることを知らせているのに対して、僕らを包み込む風はまだ冷たく、過ぎ去ったはずの冬の季節を想起させる。
――――僕らは今年から高校生になった。
だけど、辿る季節はこれまでもこれからも変わらない。春が来て夏が来て秋が来てそして冬が来る。
これは決して覆ることのない事実であり、当然の出来事だ。
当然の日常の中に15歳からしかできない何かという新しい選択肢がすこし生まれただけ。
ただそれだけなのだ。
物思いにふける僕を無視して時間は勝手に進んでいく。
「それじゃあ昼食の準備をしようか」
僕たちは、それぞれカバンからお弁当を取り出し食事の準備をした。
「舞園君のお弁当おいしそう」
「そう?。ありがと」
「これはどなたが作られているんですか?」
「僕が作ってるよ」
僕の家族は皆、料理が壊滅的だ。
すぐ食材は焦がすし、味付けはいつも未来的なものになる。
食事は人間の娯楽の1つといっても過言ではない。
だからこそ、ちゃんとしたものを食べたいし食べてもらいたい。
いつしか僕は、舞園家の料理をすべて担当するようになっていた。
「お料理なされるんですね」
「まぁね。料理できるの僕ぐらいなので」
「あと、うち母子家庭だし」
「そうなんですか?」
「そう。母と姉、妹の3姉弟」
「仲が良いんですか?」
「多分いいと思う」
そんな他愛無い会話をしていると、屋上階段からドタドタと激しい音を立てて女子生徒が駆け上がってきた。
「お兄ちゃん、やっと見つけた!!」
どうやらその正体は僕の妹だったらしい。
彼女の名前は、
1年A組に在籍し、僕より身長が18㎝も高い160㎝である。
戸籍上家族だが血はつながっていないらしい。
あまり詳しいことは覚えていないが。僕は養子なんだそうだ。
だから身長差が激しくても問題はない。...ぐすん。
ちなみに僕らのクラスは1年C組になる。
「日和さんとご兄妹だったのですね」
「隠すつもりはなかったんだけどね」
「それで日和?。どうしたの」
「一緒にお弁当食べようって約束してたじゃん。教室行ったらいなかったからずっと探してたんだよ」
日和は乱れた息を整えながら、答えた。
それはなんか悪いことをしたな。
「ごめんごめん。忘れてたよ」
「仕方ないので今回は許してあげます。特別だよ?」
「ありがとね」
「それはそうと、お隣で食事されている方は、星崎さんですよね?」
「はい」
「私もここでご一緒させていただいてもいいですか?」
「「大丈夫だよ(ですよ)」」
僕ら3人は話をしながら、お弁当を食べ進めていった。
◇
午後からの授業も終え、残すはHRのみとなった。
担任の熊野先生が気怠そうに話を始めた。
「えー。今日一日ご苦労さん」
「明日、新入生歓迎会として2年3年の先輩たちが部活紹介を行ってくれる」
「もし気になる部活があったら俺・・・いや学級委員長の須藤にいってくれ」
―――この人めんどくさくて投げたな。
「須藤が生徒会に部活体験の申請を挙げてくれるから、日程調整して実際に体験したいやつはしてこいよ」
『はーい』
「それじゃあHRは以上だ。解散」
部活かぁ。
何か面白そうなのがあったら体験行ってみようかな。
◇
帰宅途中、クレープ屋さんの前で佇む金髪の女性を見かけた。
星崎さんだ。
話しかけるべきか・・・。
いや、やめておこう。早く帰りたいし。
何も見なかった風に横を通り過ぎようとすると、後ろから急に
制服を引っ張られた。
「見て見ぬ振りしないでください」
「いや、見て見ぬ振りはしてないよ。見たうえでスルーしようとしただけ」
「一緒じゃないですか」
「それはそうとクレープ屋の前で何してたの?」
「ちょっと小腹がすいてしまったので、何か食べようかなと思ってたのですが、お恥ずかしながらクレープというものを食べたことがなくて」
「何を頼めばいいかわからないと」
急に出てきたな、お嬢様設定。
「無難にチョコとかバナナでいいんじゃない?」
「うーん。他にもおいしそうな種類があって迷っちゃうんですよね」
「じゃあ、僕も買うからシェアする?」
「いいですね!!」
彼女の顔がぱぁっと明るくなったような気がする。
意外と単純な性格してるな。
僕たちは、チョコバナナとフローズンマンゴーの2種類を頼んだ。
「うん。おいしいね」
「はい。おいしいです」
今、近くの公園のベンチで僕たちはクレープを食べている。
もしかしてこれはデートなのでは?。
いいとこのお嬢様と公園でクレープを食べる。
ラブコメ漫画とかでありそうなシチュだ。
「そういえばシェアするって話だったよね。これ食べていいよ」
僕は食べていたフローズンマンゴーのクレープを彼女に差し出した。
彼女は一瞬戸惑ったような、恥ずかしそうな反応を見せたが、何事もなかったかのように差し出したクレープにかぶりついた。
もしかして、これって間接キスなのでは。
若干顔が赤くなるのを隠しつつ、彼女の顔を見ると得意げな表情をしてこちらを見ていた。
「おいしかったですよ。舞園君のクレープ」
「それはどうも」
余裕ぶってる彼女顔を見ると、口元にクリームがついてるのが見えた。
これは、いたずらできるのでは?。
「星崎さん。口元にクリームついてるよ」
僕はクリームを指ですくい上げ、彼女の口元に差し出した。
「ほら、食べてよ」
鳩が豆鉄砲を食らったような反応をしている彼女だが、こちらの
思惑を理解したのか不敵な笑みを浮かべ僕の指を咥えた。
まさか本当に咥えるとは。
ほかの人に見られてたら、普通に誤解されるぞ。
「では、私のクレープも一口差し上げますね」
「えっ?。僕はいいよ」
「シェアしようといったのは、舞園君ではないですか」
してやられた。
俗にいう攻守逆転された状態じゃないか?、これは。
「ほら。あーんしてください」
星崎さんが急かしてくる。
これはもう・・・受け入れるしかない。
恐る恐る僕は、彼女のクレープにかぶりついた。
口の中にチョコの風味が広がる。
「あまい・・・。」
「チョコですからね」
甘く感じるのはチョコのせいだけではない気がするが、あまり考えないようにしよう。
星崎さんにいたずらするつもりが、逆に弄ばれてしまった。
先に食べ終わった彼女が、ベンチから立ち上がり僕の前に来た。
くるりと回り僕に背中を向けて、星崎さんは言う。
「まだまだ甘いですよ。舞園君」
沈みかけの太陽に照らされる彼女の背中は、どこか儚く悲しそうな雰囲気を漂わせていた。
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