前が見えないよ 星崎さん

こたつ蜜柑

第一章 1年生編

第1話 入学式

『新入生起立! 気を付け! 礼!』


教職員のアナウンスの声を合図に僕たち新入生一同は深々と頭を下げた。


新入生代表の女子が教壇へと上がっていき、マイクの前に立った。


「春の息吹が感じられる今日、私たちは北山路学園に入学いたします。本日は私たちのために、このような盛大な式を挙行していただき誠にありがとうございます。新入生を代表してお礼申し上げます。」


「私は伝統ある北山路学園の一生徒になれたということに、実感が持てずにいました。ですが、こうして先輩方と同じ制服を身にまとい、この学園の大地に足を踏み入れたことによって、北山路学園の生徒になれたのだと改めて実感しております。こうして今日という特別な日を迎えれらたのは、そばで支えてくれた両親を初め、多くの方々のおかげです。まだまだ未熟な私たちですが、これから3年間大人へと成長するために、先輩方や先生方の背中を見ながら成長していきたい所存でございます。」


新入生代表の女子がスピーチを行っている。

言葉の節々から今日という日のために頑張って文章を考えたんだろうということが

伺える。



かくいう僕も今年からこの学園に入学する一人である。


僕の名前は、舞園 歩(まいぞの あゆむ)。身長は142㎝といわゆる低身長男子である。小学高学年、中学1年の時までは、ほかの生徒と比べ背がまだ高いほうではあったはずなのだが、気が付いた時にはほとんどの生徒に抜かされていた。


もしかしたら僕には第二次成長期というものが存在しないのではないかと思えるくらい、中学一年から背が全く伸びていない。


「毎日牛乳は飲んでいるはずなんだけどなぁ。」

小さい声で愚痴を呟きながら、僕は溜息を吐いた。


そもそも何故こんな悲しい話をしているのかというと、前の席に座っている女子のせいだ。


自身の身長が低いこともあってか、女子の背中で前が全く見えないのである。

現在、視界の80%は彼女の背中が占有している。


別に周りの様子が気になるとか、先輩の姿を見たいというわけではない。

前の女子が静かに寝ているのが気になるのだ。

小刻みに横に少し揺れているため、真後ろの位置に座っている自分にとっては、とても煩わしい。


というか、なんで誰も起こさないんだよ。

普段の授業中とかなら、まだ百歩譲ってわかるとしよう。

入学式みたいな一生で一度しかない大事なイベントで寝るって何なんだ。


まぁ、僕が起こしてあげればすべて解決する話ではあるんだが、口下手な僕には話しかける勇気はこれっぽっちも持ち合わせていないため、ふつふつと湧き上がる怒りを収めながら何事もなかったかのように新入生代表の女子の話を聞くことにした。


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時は立ち、入学式という一大イベントは終了した。

これから僕たちは自分たちの教室に行き、担任の話を聞くことになっている。


教室に行くと僕以外の生徒はみんな席についていた。


「空いている席が僕の席かな。」


自分の席に着くと、前に見覚えのある後ろ姿があった。

先程の居眠り女子である。


「あっ!!、君はさっきの」


僕が声を掛けると彼女は後ろを振り向いた。


「あら?、どうかしましたか?」

「入学式の時寝てたよね?」

「いっ、いえ。気のせいですよ。」


彼女は少し焦ったかのようにはぐらかした。


「まぁ、いいけどね。先生が来たみたいだよ。」


彼女が、寝てようが今となってはどうだっていいことだ。

そんなことより、担任の話を聞くことがまず優先だろう。



担任と思われる男性が黒板の前に立ち、話し始めた。


「えー、まずは入学おめでとうというべきかな。今日から君たちのクラスの担任を任された熊野 英明(くまの ひであき)という。よろしくな。」


『よろしくお願いします。』


クラス中の声が一つとなる。


「いい返事だ。じゃあこれから一人一人自己紹介をしてもらおうか。」



あぁ、来てしまった。新学生やクラス替えがあった後、真っ先に行われる地獄のような時間。それが自己紹介だ。

人前に立つという行為が苦手な自分にとっては苦でしかない。



―――一人一人自己紹介が進んでいく。


前の席に座っている彼女の番になった。


「星崎 由芽(ほしざき ゆめ)と申します。誕生日は12/14です。」

「趣味はかわいいものを集めることです。」


趣味は寝ることじゃないんだな。

星崎?、どこかで聞いたような苗字。


「星崎家の次期当主として、恥ずかしくない振る舞いを心掛けていますが、それだと皆さんが堅苦しく感じてしまうかもしれませんので、なるべくフレンドリーになれるよう心掛けていきます。」

「これにて自己紹介を終わります。」


クラス一同から拍手が送られる。


星崎家....どこかで聞いたような覚えがあるけど、何も思い出せないや。


考え込んでいると熊野先生から僕の名前を呼んだ。


「次、舞園の番だぞ。」

「あっ、はい!」


やばい、何も考えてなかった。

とりあえず無難なものにしよう。


「えっと、舞園 歩と言います。誕生日は5/5です。」

「趣味は....漫画とかラノベを読むことです。」


「将来の夢は、自分自身が誇れるようなかっこいい人になることです。」


何を言っているんだ僕は。

恥ずかしい。

言うことが無さ過ぎてよくわからないことを言ってしまった....。


『かわいい!』


「へっ?」


急にとんでもない発言が聞こえたから変な声が出てしまった。


誰が言ったのかわからなったけど、ほかの生徒も同じような発言をしている。


『確かにかわいいな』


男女関係なくかわいいとの声が聞こえてくる。

正直やめてほしい。


『ちんまりとした体格。後ろで縛られた黒髪は肩まで長さがありそうだな。そして、中性的な顔立ち。すべてが一級品だ!』


急にメガネ男子が叫んだ。

なんなんだお前は。変態か?。


顔の端から端まで赤くなってしまっているのを隠すように俯ていると熊野先生が

席に戻るよう促してくれた。


「歩ちゃん」


席に戻る途中、星崎さんが何かつぶやいていたように見えたが気にしないことにした。



こうして、よくわからないうちに僕の高校生活1日目が終了した。







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