乙女男子と七つの罪
こたみん
プロローグ 入学式
『新入生起立! 気を付け! 礼!』
教職員らしきアナウンスの声とともに僕たち新入生一同は深々と頭を下げた。
新入生代表の女子が教壇へと上がっていき、マイクの前に立つ。
「春の息吹が感じられる今日、私たちは
「私は伝統ある北山路学園の一生徒になれたということに、実感が持てずにいました。ですが、こうして先輩方と同じ制服を身にまとい、この学園の大地に足を踏み入れたことによって、北山路学園の生徒になれたのだと改めて実感しております。
こうして今日という特別な日を迎えれらたのは、そばで支えてくれた両親を初め、多くの方々のおかげです。まだまだ未熟な私たちですが、これから3年間大人へと成長するために、先輩方や先生方の背中を見ながら成長していきたい所存でございます」
新入生代表の女子がスピーチを行っている。
言葉の節々から今日という日のために頑張って文章を考えたんだろうということが伺える。
かくいう僕も今年からこの学園に入学する一人である。
僕の名前は、
もしや、僕には第二次成長期というものが存在しないのではないか。
そう思える程、中学一年から背が全く伸びていない。
「毎日牛乳は飲んでいるはずなんだけどなぁ」
小さい声で愚痴を呟きながら、僕は溜息を吐いた。
そもそも何故こんな悲しい話をしているのかというと、前の席に座っている女子のせいだ。
自身の背が低いこともあってか、この人の背中で前が全く見えないのである。
現在、視界の80%は彼女の背中が占有している。
別に周りの様子が気になるとか、対面側に座している先輩たちの姿を見たいというわけではない。
前の女子が静かに寝ているのが気になるのだ。
小刻みに横に少し揺れているため、真後ろの位置に座っている自分にとっては、とても煩わしい。
というか、なんで誰も起こさないんだよ。
普段の授業中とかなら、まだ百歩譲って分かるとしよう。
入学式みたいな一生で一度しかない大事なイベントで寝るって何なんだ。
まぁ、僕が起こしてあげればいい話なのだが、初対面の相手にそこまでしてあげるほど僕は優しい人間ではないのだ。
新入生代表の女子がスピーチを終えたのか、こちらを振り向き一礼をしている。
僕は、他の人に同調するように彼女に拍手を送った。
◇
あっという間に時は経ち、僕たちの入学式が終了した。
これからそれぞれの教室に別れ、担任の話を聞くことになっている。
教室に向かうと僕以外の生徒はみんな席に着席していた。
意識が高いな。
「空いている席が僕の席かな」
自分の席に着くと、前に見覚えのある後ろ姿があった。
先程の居眠り女子である。
「あっ、君はさっきの」
僕が声を掛けると彼女は後ろを振り向いた。
「どうかしました?」
「入学式の時居眠りしてたよね?」
「いっ、いや。気のせいじゃないかな。あはは...」
「真後ろに座ってたのに気のせいはありえないでしょ。よく怒られなかったね?」
「怒られはしたよ」
「怒られたんかい!!」
机を掌で強く叩く。
思わずツッコんでしまった。教室中の視線がこちらに集まる。
「...ゴホン」
咳払いをし、何事もなかったかのように装う。
思うところは多々あるが、つついてるような時間もない。
「そんなことより先生が来たみたいだよ」
ガラガラと教室の扉を開け、紺のスーツの上から草臥れた白衣を羽織った男性が入ってきた。
タイミングからしてこの人が担任の先生だろう。
無精髭に教室の後ろの席にいても判るほどの煙草の匂い。
頼りがいの無さそうな中年男性といったイメージだろうか。
「えー、まずは入学おめでとうというべきか。今日から君たちのクラスの担任を任された
白衣を纏っているのはそういうことか。
「よろしくな」
『よろしくお願いします!』
クラス中の声が一つとなる。
「いい返事だ。」
「俺は、勤務年数は8年目と結構なベテランだからな。何かわからないことがあれば全然聞いてくれていいぞ」
見た目によらず結構しっかりした先生っぽいな。
「まぁ、俺を捕まえることができたらの話だが」
―――前言撤回。話聞く気無いなこのおっさんは。
担任なんだから相談に乗るくらいの仕事は最低限してもらいたいものだ。
「じゃあ、俺の自己紹介もおわったし。これからお前ら一人一人自己紹介をしてもらおうか」
あぁ、来てしまった。新学生やクラス替えがあった後、真っ先に行われる地獄のような時間。それが自己紹介だ。
人前に立つという行為が苦手な自分にとっては苦でしかない。
「自分の名前、誕生日、趣味、あとは将来の夢とかなんか一言言ってもらおうか。」
―――一人一人自己紹介が進んでいく。
前の席に座っている彼女の番になった。
「
「趣味はかわいいものを集めることです」
趣味は寝ることじゃないんだな。
星崎?、どこかで聞いたような苗字。
「星崎ってあの?」
「数々の著名人を輩出したとされる家系だよね」
「テレビでよく名前見かける気がする...」
クラスの生徒たちがこそこそと話をしている。
そんな有名な家系なのか。
「将来の夢は、小説家です。人の心を動かせるような本を書き、尊敬する家族のように私も歴史に名を残せるような人になりたいと考えています。
皆さんとこの学園生活を通して数々の思い出を作り、私の発想力の資産としてきたいです」
「これにて自己紹介を終わります」
クラス一同から拍手が送られる。
星崎家....どこかで聞いたような覚えがあるけど、何も思い出せないや。
考え込んでいると熊野先生が僕の名前を呼んだ。
「次、舞園の番だぞ」
「あっ、はい!」
やばい、何も考えてなかった。
とりあえず無難なものにしよう。
「えっと、舞園 歩と言います。誕生日は5/5です」
「趣味は漫画とかラノベ....本を読むことです」
「将来の夢は、自分自身が誇れるようなかっこいい人になることです」
何を言っているんだ僕は。
恥ずかしい。
言うことが無さ過ぎてよくわからないことを言ってしまった....。
『かわいい!』
「へっ?」
急にとんでもない発言が聞こえたから変な声が出てしまった。
誰が言ったのかわからなったけど、ほかの生徒も同じような発言をしている。
『確かにかわいいな』
男女関係なくかわいいとの声が聞こえてくる。
正直やめてほしい。
「ちんまりとした体格。後ろで縛られた黒髪は肩まで長さがありそうだな。そして、中性的な顔立ち。すべてが一級品だ!」
急にメガネ男子が叫んだ。
なんなんだお前は。変態か?。
顔の端から端まで赤くなってしまっているのを隠すように俯ていると熊野先生が席に戻るよう促してくれた。
「歩ちゃん」
席に戻る途中、星崎さんが何かつぶやいていたように見えたが気にしないことにした。
こうして、よくわからないうちに僕の高校生活1日目が終了した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます