第24話 誘拐?
なんだかまた落書きがしたくなってきたな……。
あの、" 生きた人間を魔族の生贄としてダークヒールを行使することで、神話級の治療が可能になる " という論文を走り書きしたときのようなインスピレーションが湧きそうな気がしているのだ。
「ゾンビを生き返らせることは恐らく不可能だが、臓器単体をダークヒールでよみがえらせて移植用臓器に代用することはできるのでは……」
ゾンビ大量発生中の夜。
俺は他にやることもなく、魔王城の客室にて天井にいろいろなゾンビの可能性を思い描いては消していた。
「アラヤ様は、まったく、ずっとゾンビのことばかり考えて……夢に出てきてうなされますわよ?」
「夢でもゾンビの研究ができるなら私はそうしたいのだがね。費用もかからないし素晴らしいではないか。ところで、ミルフォビアくん? 君はいつまでこの部屋にいるつもりなんだい……?」
「はい?」
俺の問いに、ミルフォビアは不思議そうに首を傾げた。
夕飯も終えて、あとは寝るだけとなった時間だ。
「まさか君、本気で泊まり込みで私を見張る気なのかね……?」
「はい、当然ですが、なにか?」
ミルフォビアはいつの間にか、当然のように寝間着姿になっていた。
その手には薄いタオルケットまで持っている。
「ご安心を。わたくしはドアの前の床で寝ます。アラヤ様、くれぐれも窓から飛び降りて脱出しようとか思わないでくださいね? ここ三階ですから」
「いくらなんでもそこまではしないが……いや、床で寝る気かね。体に悪いぞ?」
「ご安心を。仕事に支障はきたしません」
「いや、私が単純に気にしてしまうだけなのだが……」
ここまで職務に忠実になられるというのも困り物だ。
まあ、俺が一度脱走してしまっているからこその行動であり、ゆえにその責任は俺のものなわけだが。
……俺がベッドを使っている横で床で寝られるのは、なんとも居心地が悪いんだがな。
「それなら、アラヤ様といっしょのベッドで休んでもよろしいのですか?」
ミルフォビアが思いついたように、いたずらな笑みを向けてくる。
いかにも俺が断るであろうと思っているであろう問い方だ。
「私はかまわないが」
「えっ」
ベッドの枕を横にずらし、俺自身は枕とは反対側へと寄って掛布団へともぐりこむ。
俺は枕は要らない派なので問題ない。
「うむ、充分に二人で横になれるな」
「……まさか、アラヤ様からベッドに誘われるとは」
「安心してほしい。寝相は良い方なんだ」
普段は医院のソファで寝たりしていたから、転げ落ちないように体を固定するクセがついているのだ。
「では、おやすみ」
「……やはりお手付きはないのですね。では、ありがたくお隣にお邪魔させていただきます。おやすみなさい」
ミルフォビアもまた静かに布団に入ってくると、横になった。
特に話しかけられることもなく、俺の意識はそのまま睡魔に誘われるがまま遠ざかっていった。
……。
…………。
………………ゴソゴソ。
……?
……なんだか、体を揺さぶられる感覚がする。
「うぅん……?」
寝ぼけつつ、状況を整理する。
もしかしてミルフォビアだろうか?
俺が寝ている間に、精力を吸い取ろうとしているのか……?
であれば、それは貴重なデータだ。
「紙と……ペンを、くれ……」
フワッと、浮遊感。
体が何かに持ち上げられるような……
というより、持ち上げられている?
……サキュバスは
しかし見かけによらず、かなり筋肉質な腕なのだな、ミルフォビア。
それとも、搾精の際にだけマッチョになる体質なのだろうか?
「……ふっ、おもしろい……」
俺がつぶやくと、隣から「え……あれっ?」という声が響いてくる。
ミルフォビアのものだった。
……ん?
ミルフォビアの声が隣から聞こえてくるということは、俺を持ち上げているこの腕の主はいったい誰なのだ?
目を開ける。
俺の眼前にあったのは筋骨隆々で、鉄製の兜と鎧で完全装備した、腐りかけの男のゾンビの顔だった。
……どちら様だろうか?
「きゃあああっ!?」
隣からミルフォビアの悲鳴が響く。
ミルフォビアもまた、盗賊系の姿をしたミイラ系の男のゾンビに縄で拘束され、横抱きにされて持ち上げられていた。
「も、もしやアラヤ様は寝込みを緊縛する特殊プレイをお求めかなのかと思ってジッとしていましたのに……なんでこの部屋にゾンビがっ!?」
「なんだ、ミルフォビアくんの知り合いでもないのか」
「ゾンビの知り合いなんているわけないじゃないですかっ!」
その二体の男のゾンビたちは俺たちを抱えたまま、いつの間にか音もなく開け放たれていた窓へと歩いていく。
その窓の正面には、これまた見慣れぬ女のゾンビが立っていた。
王国では見たことのない、露出の多い鎧を着ている。
上半身は胸元がセパレートになったアーマーだけ、下半身も太ももをほとんど出して、股間部にだけ申し訳程度に薄い鉄製の腰当てのようなものが垂れている。
頭にはさび付いてはいるものの、格式高そうなヘルムを被っていた。
もしかして、元は騎士なのか?
〔う……あ……〕
その女騎士のゾンビは多少の知性があるのか、窓を指し示して軽やかに外へと飛び出した。
「ちょ……ここ、三階──もがっ!?」
ミルフォビアが顔を青くして何かを口にしようとしたが、しかしミイラのゾンビに手でその口をふさがれてしまった。
死臭がキツそうだ。
……ここで叫んだりして助けを呼ぼうとするのは得策ではないらしいな。
そして、想像にたがわず、二体のゾンビも女騎士ゾンビを追って窓から外へと飛び出した。
俺たちを抱いたまま。
「おおっ……と」
着地時に衝撃を感じるかと思ったが羽のようにフワリと地面に降り立った。
このゾンビたち、かなり高性能だ。
自然発生したゾンビたちとはくらべものにならないほどに。
「もしや、この三体……本物の人体を利用したゾンビかっ?」
俺はさっそく、俺のことを抱える筋骨隆々のゾンビに触れて " 診察 " を始める。
……ふむ、おそらくそうだ。筋密度が比べものにならないくらい高い。元が戦士のゾンビに違いない。
そして脳も見る。詳しく見ていく。どうやら脳の一部に " 歪な魔力のかたまり " があるようだ。
……なんだこの魔力は? もしかして、この歪みがこのゾンビのおかしな行動の原因か……?
ゾンビたちの動きは止まることなく、俺たちを殺さないよう、どこかへ連れて行こうとしているようだ。
その行動には知性を感じる。
ただ力任せに振りほどけば何をされるかわからないし、今はできることをやってみるか。
「ン~~~! モガッ……オェッ……!」
ミルフォビアがずっとミイラゾンビの手に口をふさがれていて、その死臭のキツさにそろそろ吐きそうになっている。
できる限り急ぐとしよう。
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