白昼夢…
J・バウアー
大学二年生の夏休み。バイクにも慣れたこともあって、ツーリングがてら祖父の住む田舎を訪ねることにした。幼い頃、父母に連れられてよく遊びにきたものだ。夜、山に登って祖父と一緒にカブトムシを捕まえたことなど、いい思い出だ。
祖父の家には蔵がある。得体の知れない農機具らしきものとか、陶器のようなものとかがしまい込まれており、よく分からん巻物なんか、何かのテレビ番組に出すと、ひょっとしたら良い値がつくんじゃとか思ってしまう。
今日も探検気分で蔵を漁っていると、古地図らしきものが出てきた。どうも昔の近辺の地図のようだ。集落に山、川、池などが書き込まれている。祖父の家がある集落付近の道路は、こんな昔からあるんだなあと妙に感心していると、近くの山のふもとに卍の記号が書き込まれていた。
「こんなところに寺なんかあったかなあ」
虫を取りに行ったり、仲良くなった近所のお兄さんお姉さんたちに連れられて遊びに行ったりした、よく知っている山なのだが、寺なんか見た覚えがない。
することもなく暇だったので、この古地図を頼りに久しぶりに山の散策をすることにした。集落の外れに差し掛かる、まだ傾斜が緩やかなところにある材木置き場は、まだ現役のようだ。無駄な枝とか取り除かれた丸太が、整然と並べられている。そこから、少し傾斜がきつくなる。こんな山道でもアスファルトで舗装されている日本ってスゴい国だななんて思いながら登っていく。
山頂まで続いていそうなアスファルト舗装の道路を見て、バイクで来ればよかったとな後悔の念にとらわれていたところ、砂利道の脇道を見つけた。これまでの道程と古地図を見比べてみると、この砂利道の先に寺がありそうだ。何のためらいもなく、砂利道へと入る。
砂利道を進んで10分もしないうちに、草木が生い茂るうっそうとした森になってきた。いつの間にか砂利道が、けもの道に変わっていた。
そういえば昔、祖父か近所の人に連れられて来たことあるなあなんて、ちょっとしたノスタルジーに浸りながら先へと進む。どれだけ歩いただろうか。頭上を覆う樹木のせいで日差しが遮られているので、太陽がどの位置にいるかも分からない。すると、視界が開けてきて、建物が見えてきた。誰が見ても明らかな寺だ。古い建物ながらも手入れがされているようで、ささくれ立ちとかひび割れとか見当たらない。それにしてはひっそりとしており、人の気配が感じられない。何だか不気味に感じたので、引き返そうと後ろを振り返ると、一面壁がそびえ立っていて、門扉が固く閉ざされていた。門なんかくぐった覚えがない。これは何だか変だ。
「何してんだい、こんなところで」
振り返ると一人の老婆がいた。祖母だ。手には花束がある。そういえば祖母は一族を大切にする人で、こまめに墓参りに墓清掃をしていたのを思い出した。
「ちょっと、散歩をしていたんだよ」
「こんなところを散歩するのは、まだ早いよ。帰ってご飯食べて、風呂入って、歯を磨いて、ねんねしな」
祖母は何かを渡してきた。南京錠の鍵のようだ。鍵を渡した祖母は門を指差した。その先に南京錠がある。
「それじゃ、またね」
祖母に手を振ると南京錠に鍵を差し、門を開けて外に出た。すると直後に、背後に得体の知れないナニかを感じて鳥肌がたったが、背後を振り返らずに先へと進む。すると、視界が白く輝きだし……
「はっ!!」
目を覚ますと、祖父の家の蔵の中だった。
蔵の窓から夏の日差しが差し込んでいる。
白日夢ても見ていたのか。
手元を見たが、古地図なんてどこにもなかった。
すると、蔵の外から声が響いてきた。聞き慣れた祖父の声だ。
「こっちに来たんなら、こんなところに来るより先に、仏壇に手を合わせな。ばあさんが怒っとるぞ」
白昼夢… J・バウアー @hamza_woodin
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