第8話 20代から終活するんだってよ
購入したとある終活本に、今の時代は早ければ20代から終活をすると書いてあった。驚愕の一文である。人生で一番楽しい時期に、もう死ぬ準備をする人達がいるというのだ。
思えば自分の20代は、ろくでもないを極めた時期だった。バイトを大量に掛け持ちし、金が貯まったら日本中を1人で旅して回っていた。別に自分探しとかそういう目的では無い。単に他にする事が無かったのだ。
見た目は金髪のギャルだが、中身は凄まじい陰キャだった。たまにロマンス的なイベントも発生したが、コミュ障で潔癖症なのでダッシュで逃げていた。
とある小雨の降る日に、日本の端っこに行った事がある。其処は明確な目的があり、美しい建造物を見る為に数百キロも離れた地からわざわざ行った。
私は雨の中その荘厳な建造物を見て、もう此処で死のうかなと一瞬思った。人生で最も楽しいがピークの筈なのに、私の人生はどうしようもなく灰色だった。
タオルで全身を拭いてから中に入ると、入り口に「ご自由にお持ち帰り下さい」と書かれた箱が置いてあった。
何かと思って見てみると、とても綺麗なしおりが沢山入っていた。その箱の傍には、此処の訪問者の為に手作りで作りましたと書いてあった。
そのしおりを手に取った時、不覚にも私はその場で泣いてしまった。そのしおりの裏側には、来てくれてありがとうと手書きで書いてあったのだ。
20代で終活をしている人には、個人的にあの場所に一度行ってみて欲しいと思っている。もうあの箱は無いかもしれないが、あの建物には何か不思議な力が宿っていると私は思う。
今でも死にたいなと思った時に、ふとあの場所の事を思い出す事がある。もう生きる事に疲れたよと言ったら、優しく受け止めてくれそうな気がするからだ。
20代で旅した時の品は全て捨ててしまったが、あのしおりだけは大切に箱に入れてとってある。あれを作ってくれた人には、今でもありがとうと伝えたい。
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