第4話 はじめての邂逅

「……ん」

ゆっくりと、目を覚ます。

けれど、部屋の電気も何もついてはないない。

暗がりの自室を見回す。

時間は18時半。

家に帰ったのは確か、16時半。

風呂に入ったのは17時。

少し寝ぼけた頭を回して、一つの可能性を弾き出す。

「……あぁ、寝てたのか。」

なるほど。

それなら確かに時間が数時間進んでいても、電気が消えていても納得する。

「……宿題を、しないと」

電気をつけて布団から身体を起こし、綺麗に畳む。

ザックから教科書と宿題用のノートを取り出して……

「ん」

取り出して……

取り出し……

取りだ……

「教科書が、無い。」

なんてことだ。恐らく電気が消え、暗くなった学校の教室の机の中にひっそりと佇んでいるのだろう。

……少し親近感が――いや、今はそんな場合ではない。取り敢えず教科書を取りに行かなければ。

「とりあえず、スマホで――」

スマホを取り出そうと、ポケットに手を入れる。

だが、帰ってきたのは空気。虚無。何もない。

まさか、スマホまで忘れてきてしまったのか。

それはとてもまずいな。

「……仕方ない。固定電話で話をつけよう」

このあと、電話は繋がったが在籍表まで調べ上げられた。

―――――――――――――――――――――――

約30分後。

「……ちょっと暗いな。やっぱり」

学校の校門にたどり着いた。

時刻は既に19時を回っている。

あたり一帯静かで、少し気分がよかった。

「おー!夜遅くに教科書とは、熱心だな黎人!」

「……葛城かつらぎ先生」

葛城先生。自分のクラスの担任で、またの名を元祖熱血教師。とにかく声が大きいのでこの名前がついたらしいが、以外に生徒に目を向けているらしい。

「すいません。こんな夕方に」

「いやいや!俺も少し動きたかったんだ!」

ハッハッハ!と葛城先生が口を大きく開けて笑う。

やっぱりただの熱血なのかもしれない。

「それじゃ!早速行こうか!」

「はい」

そうして、このアツい担任と共に教室へと歩み始めた。



――

――――

――――――。

更に数分。

やはり葛城先生は大声で最近の話題を話し続けている。ちょっとうるさい。

「それでな、うちの犬が――」

「あ、先生。教室着きますよ」

「ん?あぁ!そう言えば教室に忘れ物を取りに来たんだったな!ハッハッハ!忘れていたよ!」

やっぱりうるさいだけかもしれない。

……あれ。 

なにか、聞こえる。

確か、この学校の下校時刻は18時のはず。

「先生。僕以外に他に誰か忘れ物を取りに来た生徒がいたんですか」

「ん?そんなはずはないぞ?」

「でも、教室から変な音が」

「確かに聞こえるな!ちょっと怖いが生徒のためだ先生が見てこよう!」

そう言って、葛城先生が教室へ行く足を早めた。

瞬間。

ピンポンパンポーン。

学校に呼び出し用のアラームが鳴る。

『葛城先生。葛城先生。至急、職員室へお越しください。葛城先生。葛城先生。至急、職員室へお越しください。』

呼び出されたのは葛城先生だった。

「む!?呼び出しか!ならば行かねば!すまない黎人!忘れ物を取ったら早く帰るんだぞっ!」

すごいスピードで葛城先生は走り去っていった。

……なんか、嵐みたいだったな。

改めて、教室へ足を向ける。

チンッ

「……ん、」

カキャァン、ギリ、ギリ……

「この音は……?」

何故だろう。何かいけない気がする。

とても、危ない音だ。

それだけは、本能的に分かった。

――けど、

「スマホも教科書も、あそこなんだよなぁ」

ここまで来ておいて明日提出出来ないと言うのはとても恥ずかしいことなのは知っている。怖いけど、行くしかない。

「限界まで、近づいてみるか……」

一歩、一歩。ゆっくり歩みを進めていく。

そして、教室の扉に手をかけたその時。

し、ん――――。

音が、止んだ……のか。

さっきまでの鈍い音も聞こえない。

「大丈夫、だよね」

ゆっくりと、扉を開ける。そして手が止まる。

正確に言うなら手だけじゃない。身体全体が止まった。まるで金縛りみたいに。

真っ先に見えたのは、赤。

次に見えたのは、身体。

そして次に見えたのは、琥珀。

なにが起きてるのか分からない。

でも一つだけ、この状態を今出せる言葉で表すなら、

しかもその同級生というのは、この学校で不審者という他人の自分から聞いてもとても不名誉あだ名を付けられた出席番号22番の彼岸さんが包丁を持っている。更によりにもよってその包丁は血に濡れている。

「ひ、彼岸……さん?」

あまりの衝撃に、言葉が漏れる。

あ、これは駄目なやつだ。

だって彼岸さんこっちに気付いて――

「……片峯黎人。」

冷たい、それでいて淡々とした声が聞こえた。

何気に彼岸さんと話すのはこれが初めて……なんてことを考えているんだ今はそんな場面ではないのは見てわかるはずなのに。

なのに。

なのに、彼岸さんの瞳から目が離せない。

なにか、吸い込まれるような、それでいて、求めているような……

「……なんの用?」

はっ、と我に帰る。

そうだ、今は一刻も早くここを離れよう。

でもスマホと教科書だけは絶対に忘れたくない。

自分の頭の中で天使と悪魔がレスバを始めた。

そして、一分ほどの脳内レスバの後、重々しく言葉を絞り出した。

「……スマホと、教科書を取りに、きたんだけど」

「……そう。」

彼岸さんの返事にびくっ、と身体が小さく震える。

すると、彼岸さんは歩き出した。

そこは、僕自分の机だった。

もしかして、包丁で机滅多刺しにしていじめる気なんじゃ……いやでもこんなに存在薄いのにいじめなんか

「はい」

更にびくぅっ、と身体が大きく跳ねる。

「……どうしたの?」

「あ、いやなんでも」

「はい、スマホと教科書」

「え」

確かにいつの間にか目の前にいた彼岸さんの手には教科書とスマホがあった。

でもいきなりこれをされると状況が理解できなくなるわけで。受け取るるべきか、とてもためらった。

「……これじゃないの?」

彼岸さんが小さく首をかしげる。

「あ、うん。合ってるよ。ありがとう」

カクカクな身体をなんとか動かして、スマホと教科書を受け取って、少し早歩きで帰った。

―――――――――――――――――――――――

次回予告!

約2週間ぶりに書いた完全新作(旧)こと「名前がきめようがないなにか」こと「名いか」!(ネーミングセンス皆無)の次回を少しだけ紹介――しようと思ったけど気合いと尺がねぇ!

次回!

第5話「時差にしては無理がある」

乞うご期待!

「……一日過ぎたよね?」

「時差だから、問題はない」

なにこれネタバレか!?

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