「ゾ」と「ン」と「ビ」

 「ゾンビ」とは結構響きが面白いと思う。


 この小説(?)のタイトルを考えている時、何かいいものがないか考えていたところゾンビの案がでてきた。結局は亡霊になったのだが、考えていくうちにゾンビも面白いと思ったのでここに記しておく。


 まず、「ゾ」。最初っから雰囲気を出しているあたりなかなかの曲者である。濁音を入れることによって他のひらがなとの違いを生み、ゾンビの異質感を醸し出している。音を聞いても、濁音特有のやや攻撃的な感じやオ段音による威圧感もあり、最初のつかみとして申し分ない選字だ。


 次に、「ン」。これもなかなかのやり手であり、音の連携が素晴らしい。似たような音の「ヌ」や「ム」で補おうとしても、前の子音の「n」、「m」が悪さをしていまいち滑らかさに欠ける。それならいっそ子音をなくそう、などと言って「ウ」にしてしまうと、発音の際に「o」と「u」が連なって長音「ー」と同じになり、なんだか間抜けな雰囲気になってしまう。だからこそ母音を持たず、適度な滑らかさと間をもたらす「ン」が輝くのだ。


 最後は「ビ」。やはり文字選びの感性が独特である。「ゾ」でも言ったように濁音がついているが、さらに「ビ」はそれ自体が普段からたくさん使われるわけではない文字なので、より奇妙な感じを演出している。そして、イ段音による絶妙な明るさをもつ終わり方も相まって最後までゾンビの異端な様子を忠実に再現している。


 これほど単語の持つ意味とその音がマッチしている言葉はないのではないかと思うほどゾンビの完成度はすごい。一体どのようにしてこの言葉が生まれたのか、誰か話をしてほしいものである。

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