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───「⋯⋯ば。青葉」
「⋯⋯っ!」
名前を呼ぶ声がして、はっと目が覚める。
ドアを開けてこっちを見るせんぱいの姿を目に入れて、瞬時に今のこの状況を思い出した。
「おはよ」
「お、はよ、ございます。えと、いま、なんじ⋯⋯?」
「7時過ぎ。よく寝れた?」
「あ、はい、もう、爆睡でした⋯⋯」
「ふ、よかった」
なんだかいい匂いがする。
もしかして朝ごはん⋯⋯?
のそのそと起き上がり、ソファベッドを軽く整える。
洗面所で顔を洗ってリビングに向かうと、きらきらした朝ごはんがテーブルに並んでいた。
「うわあああ、おいしそうすぎる⋯⋯」
「パンがよかったら焼くよ」
「わたし朝はご飯派なんです!うれしい、ありがとうございます」
「まじ?おれもご飯派」
「ほんとですか!」
些細な共通点がうれしい。
ほかほかの白米に卵焼き、お豆腐とわかめの味噌汁。
これぞ、日本人の理想の朝食!
「すみません、ありがとうございます、いただきます」
「ぜんぜん。おれの分のついでだし」
「んん〜!おいしい!ほっとします」
「よかった。⋯⋯きのうも思ったけど、青葉ってうまそうに食うよな」
「だってほんとにおいしいです!」
味噌汁は身体に染み渡り、甘めの卵焼きは濃すぎなくてちょうどいい。
なにより、ほかほかご飯が世界一だ。
「せんぱい、ほんとに料理上手ですね、すごい」
「そう?ありがと。まあ大学生のときからやってるから」
青葉の口に合ってよかったわ、と笑うせんぱいは、朝日よりまぶしい。
「毎日朝からこんな豪華なの食べてるんですか?」
「朝ごはんは1日でいちばん気合い入れるかも。朝の気分上げれば、その日はなんとかなる気がするから」
「なるほど⋯⋯」
一理あるかもしれない。
朝ごはんに美味しいものをしっかり食べて気合いを入れて、その日の仕事を全力で頑張る。
せんぱいのおかげで、きょうのわたしはいつもの何倍も頑張れそうだ。
「特に今日の夜は戦いが待ち受けてるから、いつもより気合い入ってる」
「わたしも、この朝ごはんのおかげですっごく頑張れそうです!」
「仕事は程よく、夜は一緒に頑張ろうな」
「はい!ありがとうございます」
朝ごはんをぺろりと平らげて、皿洗いは食洗機にお任せし、朝の支度にとりかかる。
いつも持ち歩いてるメイクポーチで簡単に化粧をし、髪はポニーテールにして、前髪はせんぱいのアイロンをお借りする。
きのう買ったシンプルなブラウスとスキニーに着替えて、準備完了。
「おお、会社の青葉だ」
「変身完了しました!」
そういうせんぱいも、髪をセットしてオンモードだ。
いちご味の歯磨き粉を使っているとは到底想像つかない。
「じゃ、行こ」
「はい!おじゃましました」
忘れ物がないか最終チェックをし、ぺこりと頭を下げてお家を出た。
「ストーカー、朝はいないの?」
「朝はあんまり気にならないです」
「たしかに、通勤の人も多いしな」
せんぱいの最寄り駅はどうやら、わたしの最寄り駅から1駅先。
実家から通勤していたときも降りたことはなかったので、どんな駅なのか少し楽しみだ。
「なんか、誰かと通勤するって、すごい新鮮です⋯⋯」
「おれは駅に向かってること自体が新鮮」
「たしかに!そうですよね」
せんぱいと話していることで、自然と目線がいつもより上がる。
ふと周りを見渡してみると、制服を着た学生やリクルートスーツ姿の就活生、同じように会社に向かうひとたち。
みんな頑張ってるなあ、と、なんだか励まされる。
「せんぱい、大学生の頃から車持ってましたよね?」
「ああ、よく覚えてんね」
「みなさんから足にされてたので⋯⋯」
「な、ひどかったよなあいつら」
笑いながら昔話をする。
前ちゃん、という愛称で慕われていたせんぱいは、すごく人気者で、よく車を出して遊びに行っていたイメージだ。
「あの車は親のお下がりで、3年目の夏に今のに買い換えた」
「そうなんですね!じゃあ通勤はずっと車ですか?」
「うん。今考えるとすっげー生意気だよな」
「ふふふ。かっこいいですよ」
たわいもない話をしながら改札をぬける。
「うわー、めっちゃひといるじゃん」
「結構満員電車なんです⋯⋯」
「出社前から毎朝これってきつくない?青葉、頑張ってんね」
「もう慣れましたけど、最初はやっぱりしんどかったです」
「体調崩すでしょ」
「う⋯⋯、はい、懲りずに貧血になってました⋯⋯」
なつかしい。
あんなにひーひー言ってたけど、3年も経てば慣れてくるし、今は距離が短くなったので尚更ましだ。
通勤ラッシュの時間だから、どんどん電車が来る。
タイミングよく来た電車に乗り込むと、せんぱいが壁際にスペースを空けてくれた。
「ここにいなよ。埋もれる」
「な、失礼です!⋯⋯でも、ありがとうございます」
たしかにチビだけど!満員電車は慣れてるんですからね!と、心の中で噛みつきながら、ありがたく壁際に収まった。
会社の最寄り駅までは3駅なので、すぐだ。
オフィス街ということもあり、たくさんのひとが降りていくのにいそいそと着いていく。
「あれ、前ちゃん?」
「うお、河野」
「青葉さんもいる!どういう組み合わせ!?」
改札を出て会社に向かっていたところで、声をかけられた。
「河野さん、おはようございます」
「おはよう。え、てか、前ちゃん電車!?」
「あー、うん」
「めずらし!初じゃない!?」
「おー」
そういえば、このふたり同期か。
仲良く会話するふたりを見て、思い出した。
「ふたり、知り合いなの?」
「あー、うん、⋯⋯彼女」
「同じ大学の⋯⋯ん!?」
「彼女!?」
え、えええ!?
いやたしかに、内緒にするなんて話はしてなかったけど、ストーカー撃退のための嘘だし、わざわざ言わなくてもいいのでは⋯⋯?
「え、え、えっ、いつから!?」
「最近」
「最近!?なによ、言ってよ!水臭いな〜!」
「今言った」
「そういうことじゃないんだよ」
わたしがフリーズしている間にどんどん進んでいく会話。
「青葉さんも、隠してるなんて〜、このやろ〜」
「う、え、あ、ご、めんなさい⋯⋯」
「あんまいじめんなよ」
「なんだよー、彼氏面しちゃって〜」
「⋯⋯うるせえ⋯⋯」
半分パニックになっていると、あっという間に会社に着いてしまった。
「じゃ、青葉、またな」
「あ、はい⋯⋯」
「またな、だって〜!」
せんぱいとは部署がちがうので、エントランスでお別れ。
河野さんとは、一緒にエレベーターに乗り込む。
「いやー、前ちゃん、新人のときから、もてるのに浮いた話ぜんぜん聞かなかったから不思議だったんだよねー」
「そうなんですか?」
「うん。基本自分のことあんましゃべんないからね」
「なるほど⋯⋯」
「社内で憧れてる子も多いだろうし、青葉さん気をつけなね」
「う、ど、どうしましょう⋯⋯」
いまのかんじだと、せんぱいはあまり隠す気がなさそうだ。
となると、しがない後輩のわたしが彼女だと知った女性社員たちから反感を買う恐れがある。
「なんかあったらすぐ前ちゃんに言いなよ。もし言いづらかったらわたしでもいいし」
「河野さん⋯⋯!ありがとうございます」
心強い味方だ。
よし、いったんせんぱいのことは置いといて、仕事に集中しよう。
総務部のフロアに着いたのでエレベーターを降り、自分の席へ向かった。
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「青葉さん、お昼いこ」
「ぜひ!」
キリがいいところでいったんパソコンを閉じると、河野さんが声をかけてくれる。
正直、ひとりだとフロアを出るのが怖かったからありがたい。
スマホと財布を持ち、食堂へ向かった。
「⋯⋯なんか、すっごい見られてるね」
「やっぱり、そうですよね、わたしの勘違いじゃなかった⋯⋯」
同じ会社のひとたちがいっぱいいるところで話をしたもんだから、誰かの耳には確実に入っていたのだろう。
やはり噂が広まっているようで、あらゆるところから視線を感じる。
「河野さんがいてくれてほんとに助かりました、ひとりじゃ耐えられなかったです⋯⋯」
「ある程度予想してたから声かけたんだけど、予想以上だわ。前ちゃん恐るべし」
変なところでせんぱいの人気っぷりを実感する。
「食堂やめて外行く?せっかくだし」
「いいんですか?すみません⋯⋯」
「外で食べることなかなかないし、いい機会よ」
「うう、やさしい⋯⋯ありがとうございます」
女神様だ。
エレベーターで1階まで降りて、エントランスを出る。
お昼時だからか、エントランスにはそこそこ人通りがあり、どんどん視線が突き刺さる。
「そもそも、わたしってこんなに社内で知られてるの⋯⋯」
「まあ、総務だし名前見たことあるひとは多いんじゃない?あとは朝、前ちゃんと一緒にいるところを見られてんだから顔は割れるでしょ」
「そうだ、そうですね⋯⋯」
すっかり失念していた。
会社を出てほど近くの定食屋さんに入る。
「久しぶりに来た。どれにしよ〜」
「おいしそうですね!わたし、生姜焼き定食にします」
「よし、日替わりにしよ」
食券を購入し、席に着く。
店内は昼休みの会社員で賑わっていた。
「てか、青葉さんと前ちゃんが知り合いなことすら知らなかったわ」
「あ、大学の先輩なんです」
「え、そうなの!?初めて聞いた」
「たしかに、誰にも言ったことないかも⋯⋯」
というか、言う機会がなかった。
「へ〜、大学生の前ちゃんもあんなかんじ?」
「はい、ずっときらきらしてて慕われてて、みんなの憧れでした」
「めっちゃ想像できるわー。大学生のときは何もなかったの?」
「あ、はい、まったく」
貧血事件から気にかけてはくださっていたけれど、特別なものは何もなかった。
「ふうん?じゃあ会社同じだったのもたまたま?」
「偶然です、すっごいびっくりしました」
「へー、すごいね、縁だね〜」
「ありがたいです」
「⋯⋯なんか、どこがすきなの?とか聞きたいけど、前ちゃんのそういう話聞いたことなさすぎてむずむずするわ」
「あはは、たしかに、同期のそういう話って聞きにくいですよね」
わたしも、変な先入観が入ってしまわないように、自分の同期のそういう話はあまり聞かないようにしている。
「ま、スペックは申し分ないし、面倒見いいし、いい彼氏にはなりそう」
「あはは」
⋯⋯嘘なんですけどね⋯⋯。
勝手に彼女面してる気分になり、複雑だ。
と、ついに定食が到着した。
「おいしそ〜!いただきます!」
「いただきます」
お肉たっぷりの生姜焼きにもりもりキャベツ、味噌汁にきらきらの白米。
極上のお昼ごはんだ。
「うわあ、鯖うま」
「ふふ、おいしいですね!」
きょうの日替わりは鯖の煮付け。
河野さんはお魚がすきだと前に言っていた。
「青葉さんは肉派だよね?」
「はい!お肉すきです!」
というか、食べること全般すきだ。
「あはは、おいしそうに食べるもんねー」
「ほんとですか?」
そういえば、せんぱいにも言われたなあ。
「うん、なんか、与えたくなる」
「⋯⋯?なるほど⋯⋯?」
あまりよくわからなかったが、褒めてもらえてるのだろうか。
生姜焼きと白米って、相性抜群だ。
幸せすぎてどんどんと食べ進めていると、もう残りわずか。
「いい食べっぷりよね〜、そんな細いのに、いったいどこに入ってるのやら」
「ぜんぜん細くないですよ!?おなかぷよぷよです」
「いやいや、何目指してるの?じゅうぶんよ」
「河野さんこそ、すっごくスタイルよくて憧れます⋯⋯」
「あらうれしい」
幸せな時間はあっという間。
最後の一口を食べ切り、ごちそうさまをする。
「やっぱり、おいしいごはんが元気の源よね」
「はい!これで午後も頑張れそうです!」
「周りの目に負けないよう頑張れ」
「う⋯⋯、はい」
会社に戻るのが少し億劫になりながらも、生姜焼き定食パワーで午後も乗り切ろう!と足を進めた。
───“定時で上がれる?”
“上がれそうです!”
───“了解。終わったら連絡するから、ちょっとだけデスクで待ってて”
“わかりました!”
エントランスだと好奇の目に晒されてしまうことをわかっているのだろう。
きょうの分の業務は終わらせたが、意味もなくメールを開いたりファイルを確認したりする。
さっきも確認した資料にもう一度目を通していると、せんぱいから連絡が来た。
───“終わった。エントランスにいる”
グッドマークだけつけ、すぐに帰る準備をする。
「お先に失礼します、おつかれさまでした」
残業中の方々の挨拶を聞きながら、小走りでエレベーターに向かった。
「お待たせしました⋯⋯!」
「おー、おつかれ」
「おつかれさまです」
エレベーターを降りてすぐの柱に寄りかかるようにして、せんぱいは待っていた。
その姿が様になっていて、一瞬見とれてしまう。
それはもちろんわたしだけではない。
せんぱいと合流した途端、周囲が少しざわざわしたような気がする。
「はよ帰ろ」
「は、はい⋯⋯」
せんぱいは、周りの反応を少しうざったそうにし、狼狽えるわたしを引っ張っていくように、足早にエントランスを出た。
「勝手に言ってごめんな」
「あ、それは、ぜんぜん⋯⋯。でも、ストーカー対策のためなのに、なぜ、社内で⋯⋯?」
「あー⋯⋯、可能性があるから」
「?なんのですか?」
「⋯⋯ストーカーが社内の人間の可能性があるから」
「えっ⋯⋯」
「まあ、今から確かめてみなきゃ確実なことはわからんけど」
今まで、恐ろしくて考えようともしなかったストーカーの正体。
たしかに、社内の人間なら、毎日のばらばらな退勤時間もわかるし、合わせることもできる。
でも、駅で待っていればいつか帰ってくる、ということを考えれば、社内ではない可能性もじゅうぶんあり得る。
しかし、せんぱいはどこか確信している。
「結構、目星ついてるかんじ、ですか⋯⋯?」
「んー、まあ。今朝、怪しいなーと思ったくらいだけど」
今朝。
そんな素振り一切なかったし、わたしはその怪しささえ気づいていない。
「ええ、ぜんぜん気づかなかったです⋯⋯」
「だろうなーと思ってた」
「あの、ほんと、ありがとうございます⋯⋯」
こうやってせんぱいが助けてくれていなかったら、確実に危ない目に遭っていただろう。
駅を目指して歩きながら、改めて感謝をした。
駅のホームで少し待ち、帰宅ラッシュの電車に乗り込む。
せんぱいは、ときどき、警戒するように周りを観察している。
すぐにわたしの最寄り駅に到着し、改札を抜けて家に向かって歩く。
その間も、せんぱいは、怪しまれない程度に周りの様子を伺っていた。
「⋯⋯足音聞こえる?」
「いや、聞こえない、です⋯⋯」
「よな」
「や、やっぱり勘違いだったんですかね⋯⋯?」
だとしたら本当に申し訳ない。
「いや、そんなことはない。きょうはおれがいるからだと思うよ」
並んで歩きながら小声で会話する。
「犯人、わかったんですか⋯⋯?」
「んー、80%くらい?」
「すごい⋯⋯」
「きょうは戦えないし、あしたからもしばらくは一緒に帰ろう。相手がどう出るか様子見る」
「わ、かり、ました⋯⋯」
「いつも朝の電車何時?」
「ええと、8時40分に会社の駅に着きます」
「了解。同じ電車乗るから、朝も一緒に行こ」
「いいんですか⋯⋯?すみません、ご迷惑ばかり⋯⋯」
「おれが心配なだけだから」
わたしはてっきり、きょうストーカーを撃退して、ニセ彼氏のせんぱいは1日限りだと思っていたけれど。
せんぱいはもしかして、長期戦になることも予想してたのだろうか。
だから、わたしと行動を共にしてても不思議じゃないように、会社でも言ったのかもしれない。
「しばらく下で待ってるから、家に変わったこと起きてないか見てきな」
「あ、ありがとうございます⋯⋯」
きょうは何事もなく家に到着でき、きのう家を空けた心配も汲んでくれたせんぱいは、そう声をかけてくれた。
「どうだったかライン入れて。もし部屋にいたくないようなことが起きてたら降りてきなね」
「わ、かりました」
「ん、じゃあ」
「はい、ありがとうございました!」
この状況でせんぱいが下で待ってくれているというのは、すごく心強い。
アパートの入口で別れ、オートロックを解除し部屋へと急いだ。
鍵穴に目立った傷はなかった。
玄関、リビング、洗面所、そして寝室。きのうの朝出たときと変わったところはなさそうだ。
スマホを取り出し、せんぱいに連絡する。
“お部屋、大丈夫そうです!本当にありがとうございました。気をつけて帰ってください︎︎︎︎︎☺︎”
───“よかった。下も怪しい人影とかなかったから、きょうは大丈夫だと思う。ゆっくり休んでな”
“はい!せんぱいこそです!おやすみなさい”
───“おやすみ”
お気に入りのソファに座り、ふぅと息を吐いた。
家の中がやけに静かな気がして、思わずテレビをつける。
毎週やってるバラエティをしばらくぼーっと観てから、ごはんをつくろうとようやく重い腰を上げた。
■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■
青葉から連絡をもらったあと、もう一度周囲を確認してから、駅に向かう。
駅の近くまでくると、駅前に見覚えのある姿がまだあった。
「(⋯⋯まだいる)」
すぐそばのコンビニの前でいったん足を止め、しばらく様子を伺う。
そいつは、片手にスマホを持ち、青葉の家がある方向を見つめながら一歩も動かない。
「(⋯⋯仕掛けるか)」
コンビニから離れ、わざとそいつの視界に入るように歩みを進めたあと、さも偶然かのように声をかけた。
「あれ、田中さん?おつかれさまです。こんなとこで何してるんすか?」
「うおっ、あ、ああ、前橋くん。ちょっと、待ち合わせを、しててね⋯⋯」
「え、ここでですか?会社の最寄りじゃなくて?」
「ああ、いや、ちょっと事情が⋯⋯。そういう前橋くんは、なぜここに?」
「僕すか?彼女と一緒に帰ってて、送ってきたところです」
「か、彼女⋯⋯」
「あ、すみません、興味ないですよね」
「いや⋯⋯」
「⋯⋯じゃ、お先に失礼しますね」
「あ、ああ、おつかれ」
「おつかれさまです」
───これは、黒だろ。
田中さん。人事部のドン。
青葉とのつながりはわからんが、人事部なのでどこかしらで接点はあるだろう。
今朝、会社の最寄り駅で立ち止まり、誰かを探すような素振りを見せる田中さんを見つけ、ん?と思っていると、青葉の姿を捉えた途端歩き出したので、怪しいなと目をつけていた。
人事部は部署からエントランスが見える位置にあるので、それで青葉の帰宅を確認しているのだろう。
きょうも、エントランスを出るときは姿が見えなかったが、駅のホームで電車を待っているときには列に並んでいた。
「(さて、どうしようか⋯⋯)」
電車に乗りながら考える。
あのかんじだと、直接何かをするというよりも、影で陰湿な嫌がらせをしそうなタイプな気がする。
「(はやめにガツンと制裁したほうがいいよな)」
綿密な作戦を練ってすぐ実行しないと、なんて考えながら帰路をたどった。
■+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+-+■
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