リースとロン

 心地よいドアベルの音が耳に入り、ハーブ分けをしていた手を止める。

 リースが正面を向くと、今日のお客さんがやってくる。

「リーねぇ、おはよっ!」

 元気な声が、リースの心を朗らかにさせた。

 サリが訪れた次の日、リースのもとにある少年がやってきた。9歳の男の子、ロンハーネ・ファルム。病弱なお母さんと二人暮らしで、この店の常連客の一人だ。リースはロン、ロンはリーねぇと呼び合っている。

「おはよう、ロン。今日はどうした?」

 お店のカウンターから身を乗り出し、ロンの頭に手を伸ばすリース。ロンもまんざらでもないように顔をほころばせている。

 リースは頭をなで終わると、うるうるさせた瞳を向けられた。

「リーねぇ、そろそろ薬が無くなりそうだから、買いに来たよ」

「そっか。ちょっと待っててね」

 ロンがここに訪れるのは、かまってほしい時や、薬を買いに来る時だ。

 ちょこんと席に座っている姿が可愛く、思わずクスリと笑みがこぼれる。

 リースは倉庫に入り、薬の入った紙袋を取り出した。

 売り場に戻ると、いつの間にかリクシスト・ファリシムがいた。彼は端っこにある椅子に座って、腕を組んでこちらを見る。リースは彼を横目で見ながら、ロンに薬を渡した。

「はいこれ、いつもの薬」

 時々ハーブが薬代わりになることもあり、ロンの母親の病気には効果があるものもある。

 小さい手で紙袋を受け取ったロンは、キラキラと目を輝かせる。

「ありがと!いくら払えばいい?」

「今回もなしでいいよ。お母さん、早く元気になるといいね」

「うん!」

 太陽のような笑顔でこっちを見つめられて、リースは眩しく目を細めた。

 役目を果たしたロンは、元気に手を振って「ありがと!」と言う。

 リースがハッとあることを思い出し、「待って…」と言葉をこぼした。小さな顔がこちらをのぞかせる。

「何かあったら、私を頼るんだよ」

 その言葉を聞いたロンは、胸を張ってこういった。

「大丈夫だよ!だって、僕は将来、りーねぇのお婿さんになるんだもん!」

 茶化した言葉で微笑みを生み出すロン。

 店の端っこでむせた音がしたが、気のせいか。

 冗談を言った小さな背中は、チリンチリンという音と共に見えなくなった。

 扉がガチャンとしまった途端、リースの性格が切り替わる。先ほどまで緩やかなカーブを描いていた眉はガッチリとし、立ち姿も声色も毅然とする。

「さて、今日は何しに来ましたか、リクシスト・ファリシム様?」

 リースはため息交じりで言葉を放つ。それを気にも留めず、彼は組んでいた腕をほどき、椅子から腰を上げる。

「俺と話すとそんな態度になるのはなぜでしょうかね、リース・タネストリー様?」

 二人の間には、ピリついた空気が流れた。

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