いつもの仕事
「おはようございます」
「よっ、リーねぇ」
「いつものあるかね」
朝から老若男女が訪れる店、サン・メトラノ・ハーヴィ。
リースはこぢんまりとしたこのお店で生計を立てていた。
「おはようございます、サリさん」
「おはようございます」
今朝から訪れてくれたのは、主婦のフラム・サリアーさん。月1でハーブティーを買ってくれる。
「リースちゃんはご飯しっかり食べてる?」
サリは買い物かごをぶら下げてリースの店に訪れた。
「もちろん、食べてますよ。いつも心配かけていただきありがとうございます」
少し会釈をした後、サリを目で追った。サリは店の中で新しい商品を手にして、棚に戻す。
「いつものハーブティー、ご用意してありますよ」
リースは箱を取り出す。
「ありがとう。実はね、娘にハーブを送りたくて、どれがいいのか迷っているの」
サリは別の新しい商品を手にしながら、目を細める。その様子を見て、リースは口を開いた。
「と、いうと?」
「娘が独り立ちして1ヶ月経つのだけれども、便りがないのよ。こっちから手紙を出しても、返ってこなくて心配で」
持っていた商品をまた棚に戻し、いつものハーブティーコーナーに移るサリ。横顔からは、どこか悲しみに揺れていた。
リースは最初に出てきた言葉を飲み込み、再び言葉を紡ぎなおす。
「きっともうすぐ、便りがあると思いますよ。1人で過ごして、寂しくなるだろうから」
本音を飲み込んだリースは、どこか弱々しい微笑みを返す。それから考えを変えて、手を動かす。
「娘さんに贈るなら、このお菓子はどうですか。甘すぎず、ハーブの香りも落ち着いています」
リースは手のひらサイズのお菓子箱を取り出し、サリのもとに持っていく。サリはおずおずとその箱を受け取り、箱をじっくりと見始めた。
「このお菓子には、カモミールが使われています。カモミールは安心感や落ち着きを与えてくれるハーブです。新しい環境で生活することに疲れるでしょうから、これをお送りしてみてはいかがでしょうか」
リースは倉庫から試食用の箱を持って、サリの前に差し出した。サリは手をお菓子に伸ばし、一口かじる。
サリの表情を見て、リースはすぐに分かった。きっと「伝わったんだ」と。
「それじゃあこちらをひと箱、いただいてもいいかしら。いつものハーブティーも含めてね」
「はい」
サリの瞳は、どこか安心感に満ちていた。
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