第32.5話 幕間 中学生の頃の話~お兄ちゃんは友達が少ない①~


「妹のお見舞いに付き添ってくれないかい?」


 ユートと関わるようになってからしばらくたったある日、唐突にそんな言葉を言われた。

 確か勇人の妹さんは入院中なんだっけ。



「実は妹に『お兄ちゃん友達がいないんでしょ? 毎日毎日私に会いに来るんだから』だなんてて言われちゃってね!」

「ふぅん?」

「まっ! 妹の言う通り、友達が少ないのは事実だけどね!」


 確かにこいつが誰かと一緒にいるのを見たことがないな。


 かくいう俺も、女子がキャーキャー言ってるのを見かけるたびにこいつをぶん殴りたくなるけどな!

 あ、そういうことか!


「……行こっか」


 俺の後ろに隠れていたノノが頷く。断る理由もないし別にいいけどね。


「……ありがとう」


 誘ってきたはずの勇人だが……何だか暗い感じがするのは気のせいだろうか。


 ◇


 勇人に連れられて来たのは、近所にある県内でも1番でかいとされる病院だった。


 妹さんは2歳下、つまり小学5年生らしいぞ!

 こいつの妹なら……さぞやかわいいんだろう……!


 楽しみだなぁ!




「……また来たの、お兄――っ!? だ、誰!?」

「やぁ、優愛! 今日は僕の友達を連れてきたよ!」


 病室へと案内された俺が見た子は……。


「い、嫌よ! どうしてっ!? 何で連れてきたの……!」

「……」

「帰って! 早く帰って!」


 そう言って頭を隠すように布団を被る優愛ちゃん。

 何だか小動物みたいで……とても可愛いぞ!


「やっぱりお前の妹だな! 優愛ちゃん、めちゃくちゃ可愛いじゃないか……!」

「そうでしょう? 僕の自慢の妹でね! この前なんか――」


 勇人がぺらぺらと妹自慢を始める。

 こちらが口を挟む間もないほどペラペラと……どうして俺らを呼んだ!?


「――ちょっと! 早く帰ってよ! 意味わかんないっ!」


 布団の中から大声で叫ぶ優愛ちゃん。


「どうしてって……優愛が、僕には友達がいないなんて言うから安心して欲しくて……」

「だからって連れてこないでよ……信じられない……こんな姿を……ひどいよ……」


 布団の中で泣いているのがわかる。

 そりゃそうだ、勇人は確実にサイコでパスな奴だ。


「優愛ちゃんの言うこともわかる。こいつはひどいやつだよ! 実は俺、こいつに殺されかけたことがあるんだ!」

「……え? ど、どういうこと……?」

「まっ、待って……! それは言わないでって言っただろう!?」


 言われていない。


「俺が橋の上で優雅に黄昏てたらさ、何を思ったかこいつが俺を突き飛ばしたんだ!」

「お兄ちゃん!?」


 勇人と仲良くなるきっかけとなったとある出来事。

 その言葉に、思わずといった様子で布団から顔を出す優愛ちゃん。


「あ、あれは……その……」

「説明してよお兄ちゃん……! って、あなた誰!?」


 終始ボーっとしていたノノにようやく気付いた優愛ちゃん。


「……こんにちは」

「ひぃっ!? しゃ、喋ったぁ……?」


 色白、無言、病院……完全に幽霊。

 俺でもビビるだろう。現にビビってる。


「はっはっは、彼女は零士君の幼馴染で――」

「に……人間なの……?」

「ん、生きてる」


 勇人を無視し、失礼なことを聞く優愛ちゃんにフンスと答えるノノさん。

 そう、彼女も生きている! 少々省エネ気味に!


「色、白い……」

「ん。アルビノだから」

「あ……」


 どこか気まずい顔になる優愛ちゃん。


「お日様に当たると赤くなる。私は『赤の能力者』!」


 そう言って赤くなった右腕を見せるノノ。

 この前は『1人紅白歌合戦』とか言っていたが、今回は何かの能力を宿しているらしい。


「何を言って……」

「『こういう時、どんな顔をすればいいかわからない?』」

「……あ」


 なかなか外に出られないと、動画とか見るしかないもんなぁ。

 ノノも、それに付き合ってた俺もアニメは大概見尽くしたもの。


 もちろん、枕元にある某人型汎用決戦兵器の人形のアニメもね!


「「『指さして大笑いしてあげたらいいと思うよ!』」」


 ◇


「そろそろ帰らなきゃ」

「あ……」


 結構長い時間話し込んでしまい、外は夕焼け空だ。

 おかんに怒られる……!


「また来ていい?」

「……うん! また来てね! ノノさんに……レイジさん……」


 最初は拒絶されていたけど、帰るころにはすっかり打ち解けられたぞ!

 やっぱりアニメって偉大だなぁ!




 病院を出て、3人で並んで歩く。


「妹は小学3年生の時に発病して、それから治ったと思ったらまた再発して……今の病院に移ったんだよ」

「あぁ……引っ越してきたのか」


 だから友達少ないんだな。

 それを嘆くでもない、もちろん妹のせいにするわけでもない。


 こいつ……。


「だから、妹を見舞いに来てくれる子もいなくって……それで……」

「……」


 あー……そういう……?

 本当は勇人本人の友達を紹介するというよりは……。


「ノノとはいい友達になれそうだったな! 俺の場合は……恋人になっちゃうかぶふぉっ!?」


 突然わき腹に激しい衝撃がっ! 息がっ!?


「ゆっちんとはもう友達」

「ふふっ! やっぱり君たちに来て貰ってよかったよ! 優愛があんなに笑ってるところ……久しぶりだったし……」


 ……こいつも、いろいろと苦労しているんだろうなぁ……。


「まっ! 友達の妹もまた友達だ! いつでも誘ってくれよ!」

「……うん!」


 やはり兄妹だなぁと、その笑顔を見ながら思うのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る