第32.5話 幕間 中学生の頃の話~お兄ちゃんは友達が少ない②~
「キャー! 勇人君かっこいいー!」
数学の授業中、窓から隣のクラスの体育を眺める。
ちょうど今勇人が200m走をぶっちぎりでゴールしているところだった。
何あいつ早すぎ……ほかの奴らまだ50m以上残ってるんだけど……。
「はぁん……かっこいいよねぇ、勇人君……」
隣の席の館山未来がうっとりしながら覗き込む。
足速いとモテるのは中学生でも同じらしい。
「……女子は単純だな!」
「はぁ……一緒に遊び行きたいなぁ~……何が好きなんだろう……」
聞いちゃいねぇ。
そいえば……妹のお見舞い以外何してんだろ?
この前女子にカラオケとか誘われてたけど断ってたなぁ。
「はぁ~……一緒に青春の1ページを歩んでいきたい……」
「……」
2ページ目はないらしい。
ま、こいつもこの前色々調べてくれたみたいだし、一肌脱いでやろう!
「あー、この後一緒に飯食わないか?」
「はぁ? 何であんたなんかと一緒に食べなきゃいけない訳?」
こいつ……っ!
しかし大人な俺は我慢してやる……くそぉ。
「いや……俺たちと勇人、最近屋上で一緒に飯食ってるから……」
「――っ! 行くっ!!!」
大声を出しながら立ち上がった館山。
当然先生に注意され、俺も巻き添えを食らって怒られた……。
くそくそぉ……。
◇
「ゆゆ、勇人君! 今日は大変お日柄もよく! ご一緒できること我が人生最大の喜びであります!」
「? こんにちは館山さん! 僕もご一緒できて嬉しいよ!」
昼休み、ここ最近のいつも通り弁当を持って屋上に集まる。
今日は館山も来た訳だが……誰がどう見ても緊張してやんの! ウケる。
「ゆゆ、勇人君! さっきの200m走見てました! かっこよかったです!」
「あ……うん、ありがと」
……?
愛想笑い……の中に、何となく影が見えるような……?
「そっ! それで……もしよろしければ! 放課後私に走り方を教えて頂きたいのですが!」
なるほど、そうやって意中の相手を誘えばいいのか!
……ノノの得意なことってなんだ?
「……ごめんね! 放課後は忙しくって……」
「そ、そうなんですか……何かしてるんですか?」
妹のお見舞い――。
「実は……家でたくさん勉強しなきゃなんだよ! 僕頭良くないからさ!」
んー……これはあれだな。
さては誤魔化してるな!
「そうなんですか! でしたら私が教えましょうか! こう見えて私――」
「あ、勇人悪い! さっき先生がお前のこと探してたんだった! 今から行ってくんない?」
すまないな館山。俺はうざい隣人より友人を選ぶぜ!
「それは大変、すぐに行ってくるよ! ありがとね!」
申し訳なさそうな笑顔で走っていく勇人。
「あ……」
「悪いな館山も。せっかく来てくれたのに」
先ほど自分で言いかけていたように、館山は頭がいい。
きっと、何となく拒絶されたことも理解していそうだ。
「ううん……あはは、ちょっと距離詰めすぎちゃったかな! あっはっは……」
「そうだね」
ノノさんが容赦なくぶった切った!
「……ふんだ! こうなったら……あんたのその美味しそうな唐揚げ寄越しなさい!」
「あっ! ふざけんなよっ!」
止める間もなく俺の唐揚げを……!
まぁ、今回は俺も悪いので……大目に見てやろう……。
唐揚げぇ……。
くそくそくそぉ……。
◇
「昼は何て言うか……すまなかったね」
「あはは……僕こそごめんね!」
勇人の妹ちゃん、優愛ちゃんのところに行く道中で先ほどのことを謝る。
けど、少しだけ気になることが……。
「嘘ついてまで嫌だったんか?」
「あー……そのさ、あんまり好きじゃないんだよね。足が速いとかでキャーキャー言われるの……」
よし、全非モテ男子を代表して俺がぶん殴ろう。
「何て言うか、表面だけっていうか……」
「歯を食いしばれ!」
「優愛のこと、笑われそうでさ……」
「……」
おう……ふざけてる場合じゃなかったわ。
優愛ちゃんのこと……薬の副作用の影響とかだろうか。
館山は何となくだけどそんな奴じゃない気はする。
ただ……それを決めるのは勇人だものね。
「だからさ、今は……君たちだけがいてくれればそれでいいんだ」
「まぁ……俺たちは構わないけどね。優愛ちゃんと話してるのも楽しいし」
「そう言ってくれると嬉しいよ! 最近の優愛は君たちのことを話してばかりでね――!」
笑顔の戻ったユートを先頭に、今日も病院へと足を運ぶ俺たち。
その日も面会終了時間まで楽しく過ごしたのだが……。
なぜかノノが節々で歯を食いしばるのが気になった。
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