第32話 汚れがあるからこそ美しさが際立つ


「そんなことがあってさぁー……思ったよりめんどくさかったよ!」


 パークに戻り、姫様にごちる。


「しれっと人を殺めたことを言わないでくださいよ……」


 おっと、これは迂闊!

 口封じに姫様も……。


「しかし……泉の精霊の正体が、ドッペルゲンガーだったとは……出てくる人間は完全に別物なんですね!」

「それは最初からわかってたでしょうよ! 何だよ、綺麗な恋人って」


 村長も綺麗な村長になっていたけど!


「人の顔は内面を映し出しますから……人の醜さを共有できない、そして純粋無垢なドッペルゲンガーが元と比べて綺麗に見えるのも納得です」

「……だよね!」


 姫様が何を言ってるのかわからんがとりあえず同意しておく。


「それよりも、出してあげたら?」


 そばにいたノノがそう提案する。


 予定通り、ガーデンの中央。

 カラフルな花に囲まれる予定のそこに、見世物として彼女は過ごすのだ!


「出てこい、ドペ子」

「……」


 美しさに加え、憂いを帯びた女性が顕現する。

 そういえば、本人曰く精霊でも何でもないただの魔物らしいぞ。


 ちなみに、命名はもちろんノノだぞ……。


「あなたがドペ子さんね。私はクラリスです」

「……はい、よろしくお願いします」


 あらら、完全に覇気を失っていらっしゃる。


「……あなたはここで、観光客の相手をしてもらうことになります」

「……はい」

「きっと、その中には幼い子どもも、その家族もたくさん来るでしょう。魔物でありながら家族の情を理解するあなただからこそ、ぜひお願いしたい仕事なのです」

「……え?」


 次第に眼の光を取り戻すドペ子。


「私が……子どもを……?」

「はい! ちょびっとだけ刺激的なこのパークの中で、子どもや家族の憩いの場所として! 忙しくなると思いますが……お願いできませんか?」


 あ、今度は泣き出した。


「……はい……はい! 必ず……子どもや、ご主人様のお役に立てるよう頑張ります……!」

「……」


 ご主人様って俺だよね? 俺のことは別にいいんですけど……。

 まぁ……何となく、そういう仕事に向いてそうだなーとか思ってたけどさ。


 ……村の被害者には悪いかも知れないが、ドペ子も被害者だと思う。

 だったら、誰も知らない別の場所でやり直したっていいじゃないか。




「やはり。間抜けな名前にしておいてよかった」


 ノノさんがひどいことを言っているが……まさか嫉妬!? ドペ子もそういうことなの? 遂に俺にモテ期が!?


「ドペ子、1度レージをきれいにして。汚れ切っている」

「はい!」


 ……え?


「それにしても、ギルドの情報もあまり当てになりませんね。ドペ子さんのことは少し調査をすればわかりそうなものですけど」

「そうねー……」


 その通りではあるんだけど……。

 ……んん?


「ドペ子っていつからあそこに?」

「えっと……5年ほどでしょうか……正確には判りませんが……」


 ギルドが調査したのは30年前。

 その時からあそこは帰らずの森と呼ばれている。


 つまり……。


 今回探索したのは、村に近い森の浅い部分。

 もしも今回、もっとずっと奥に行っていたとしたら……。


 ドペ子と出会えたのは、いろんな意味で幸運だったのかもしれないな……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る