第29話 最も汚れているモノ③


「おかえり、どうだった?」

「こんっ!」


 チールの家に無理やり戻された俺を、ノノとコンが迎えてくれる。

 コンは暇つぶし道具だ! 今度からピヨヨも置いて行こう!


「兄ちゃん……姉ちゃんは……?」


 姉の身を案じる少年に、俺は伝えなければいけないことがある。


「ピュールさんは……」

「……」

「ピュールさんは、村長の家であくせく働かせられていたぞ!」

「……え?」


 言えるかっ! 『お前の姉ちゃん、村長の上でダンスっちまってるぞ』なんて言えるか!

 性癖歪んじまうわ!


「まぁ、盗みをしたんだ。代わりに働かされるのもしょうがないだろう」

「そ、そんなぁ……姉ちゃんは……姉ちゃんは!」

「殺されなかっただけありがたく思ったら?」


 小さな村だ、食料は貴重だろうし……。

 働きもしないで食うもんだけ盗む。


 幼さ故に仕方がなかったとはいえ……村にとっても大きな負担だったろう。


「嘘だっ!」

「……」

「嘘だ嘘だ嘘だっ! お前は噓つきだっ! この家から出て行けっ! うわぁぁぁ~ん!」

「ちょっ! お前が出ていくんかい!」


 家を出て行ったチール少年。

 向かう先は……。


「村の外か……? まさか、泉に向かったんじゃ」

「ん、私たちも行こう」

「おや、今回はヒドイとか言わないのか?」

「言い方には問題がある」


 むしろ怒りを他に向けて少年の性癖を守ったという点では成功したとも言えるな!


 ◇


「何であんたらもついてくんだよ!」


 少年の後をこっそりついて行こうとしたのだが……当然のように魔物に襲われるチール少年。

 仕方がなく合流し、そのまま泉を目指すことに。


「まぁまぁ。俺たちも泉に用事があるんだよ、実は」


 少年の姉だとか、村人だとか、村長だとか……正直どうでもいいんだ。

 目的は泉の精霊をテイムすること!


「……俺は……お前のことなんか――っ!」

「お、危ないぞ」


 木の魔物、トレントが少年に枝を振り下ろそうとしたところを体を引き寄せて庇う。


「……っ!」

「奇襲するならもっとうまく魔力を隠した方がいいぞ! いけっ、ピヨヨ!」

「ぴよーっ!」


 先ほど俺の楽しみを奪ったピヨヨにはしっかり働いてもらうことにした。

 案外ピヨヨも楽しそうだ。


「……っ、……っ」

「ぴぃーよよよよっ!」


 トレントの周りをちょこまかと飛びながら、隙を見てトレントの枝をもいでいくピヨヨ。


「いいぞ! よし、『封魔石』!」

「……――」


 弱ったところを無事にテイム完了!

 戦力的にはいらんかもだが、環境整備には使えそうだぞ! なんかこう、生い茂ってるし!


「……すげぇ、魔物が吸い込まれた……!」


 チール少年の怒りもどこへやら、目を輝かせながら俺の手元の『封魔石』を見つめる。

 ふふん、すごいだろう!


「この力の本当に凄いところは、動かなくてもお腹がいっぱいになるところにある」

「……本当!?」


 まだ言ってるの、それ……。


「人間には無理だよ」

「ちぇっ!」


 ショタを飼う趣味はございません……。


 ◇


 そんなこんな、森の奥をどんどんと進んでいく。


「本当にこっちの方に泉があるのか?」

「うん……父ちゃんたちが生きていた頃、教えてくれたんだ。『こっちには近づくな』って」


 子どもの足でもたどり着けるほどの距離なのだろうか。

 そんな近場に本当に……?


 そんな疑問もすぐに解消された。


「泉……かなりの魔力を感じる」

「本当に……あったんだ……」


 そこには、魔力を湛えた泉が。


「おーい、精霊やーい! はよ出てきてくれぇい!」

「ちょっ! 兄ちゃん! お、俺……こえぇよぉ……」


 あん? めんどくさっ! こっちは早く用事を終わらせて帰りたいのっ!


「大丈夫だから、俺のそばを離れんなよ」

「……兄ちゃん」


 しっかりとその小さな体を抱き寄せ、引き続き精霊に呼びかけようとすると――。


「旅のお方……いかがいたしましたか……?」

「で、出たぁ……」


 チールが驚きのあまり、腰を抜かす。

 どこか神秘的な光を放つその姿が、精霊だと言うことに説得力を持たせる。


 見た目も美しく女性、加えてむちむちで非常にえろい。白い布のようなもので体を覆ってるが、逆にえろい。

 栗色のふわふわした髪が濡れていないのは不思議だ!


「この泉に浸かれば、新しい自分に出会えると聞いたんですけど!」

「え? ま、まぁ……確かに新たな自分に出会えるとは思いますが……」


 そんな怪しげなキャッチフレーズのような言葉を囁く精霊。

 テイムするだけならば軽く小突いて終わりなのだが……まぁ、しょうがない。


「はい、ぜひお願いします!」

「……え? ちょっと兄ちゃん!? その泉は――!」

「ガキんちょは黙ってなさい! さぁ精霊様! ぜひとも『綺麗な俺』を頼むよ!」


 俺の言葉が終わると同時に、暖かな光が俺を包み込む。


「……どうぞ、こちらへ……」


 泉の中へと足を踏み出し、進んでいく。


「兄ちゃん! 兄ちゃん! やめろって! 戻って来いよぉっ!」




 そして……俺は泉の中に吸い込まれるように落ちていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る