第28話 最も汚れているモノ②



「……丁寧で優しそうな姉ちゃんだな。どこが変なんだ?」


 姉が去ったのを見計らい、声をかける。


「姉ちゃんは……あんなしゃべり方はしなかった」

「……」

「姉ちゃんは……すぐ殴ってくるし! 口も乱暴で! ……優しくって……」

「落ち着いて。ちゃんと聞くよ」


 ノノが聖女のように、優しくチールの頭を撫でながら落ち着かせる。


 ……まずい、まずいぞ……!

 明らかに厄介ごとの雰囲気!




「……俺たちの父ちゃんと母ちゃんは……3年くらい前に魔物に襲われて死んじゃったんだけど……」


 少し落ち着いた少年が再び口を開く。

 のっけから重い。


「そっから姉ちゃんが俺を育ててくれたんだ……全部盗んだものだったけど……」

「……」


 まぁ……さすがに人生経験の浅い俺らでもわかる。

 年端もいかない姉弟が真っ当に生きるには……この世界は厳しすぎる。小さい村なら猶更だ。


 逆に3年も見逃されていたのは、ある種の黙認だろうか?


「けど……姉ちゃんが村長の家に盗みに入ったとき、遂に村長を怒らしちゃって……1週間くらい戻ってこなかったんだ」

「……」


 なかなか口にするのも憚られることになっていそうだな……。


「それで……姉ちゃんが戻ってきたらあんな感じになってたんだよ! おかしいでしょ!?」


 以前のピュールさんを知らないから、そこは何とも言えないけど。

 チールの必死さは伝わってくる。


「本当に変なんだよ……俺が悪いことするたびに泉に連れて行こうとするし!」

「泉っていうのは?」


 遂に出た! 当初の目的である不思議な泉!

 この話を待っていたぞ!


「森の奥にあるって言う泉だよ。見たことはないけど、悪いことをしたら連れて行くぞって、昔から父ちゃんたちに言われてて……」

「昔から言われてるんなら……そんなに変なことでもないんじゃ?」


 あれだろ? 悪いことしたらお化けに連れ去られるぞ的な!

 俺の町にも怪人Aはよく出てきたぞ!


「怖いんだ! その話をする姉ちゃんの目が……あれは本気で……」


 そりゃ、怖がらせるなら本気でやらんと意味ないからな!


「大丈夫」

「……」

「このお兄ちゃんは、魔王も倒せるお兄ちゃん。きっと何とかしてくれるよ」

「……お願い、お願いだよぉ……姉ちゃんを……元に戻して……」


 うずくまって泣き出す少年、チール。

 その背を優しく撫でるノノ。


 ……いや、知らんがな!

 さっさと泉の精霊を捕まえて帰りたいんですけど!


 ◇


「やれやれ、かぁーっ! やれやれ!」


 ノノに促され、渋々村長の家に向かう俺。

 まぁ、予想はついているためノノ本人は少年の家に残している。


 教えられた道を通り、村長の家に向かおうとするが――。


「あら、あなたがチール君を助けてくれた旅人さん? ありがとうねぇ」

「あぁ、これはご丁寧に、どうも」


 そう言って食料をくれようとする人や――。


「ふふ、お礼に……今晩どうですか?」

「ぜひっ!」


 お返しは体で、と綺麗なお姉さんに声をかけられる。

 まぁ、お礼ならしょうがないよね? いいよね!?




「ここか」


 野菜を両手いっぱいに抱えた俺、ようやく目的の村長の家にたどり着く。

 そこで聞こえてきたものは――。


「ほらっ! もっと激しくせんかい!」

「はぁんっ! もう、らめですぅ……村長、さまぁ……っっ!」


 ……予想通りの展開でしたな。

 醜い豚のような村長らしき男の上、ピュールさんが艶めかしく腰を振っている。

 非常にエロい。


「……こりゃ、どうにもならんばい」


 別に無理やりされている訳でもないだろう。

 なぜなら……ピュールさんも非常に幸せそうなお顔で喘いでいる。


 ここで邪魔に入ったとて誰も得をしない。


「……」


 ……いや、しばらく様子を伺うか。


「……」


 えっろ!


『ぴっ! ぴっ!』


 人が楽し――じゃなかった、何か良からぬことが起きていないか見張っていると、封魔石にいるはずのピヨヨが脳内に語りかけてくる。


 そんな機能知らないんだけど!

 俺から意思を繋げることはできても、その逆は今までで初めてだ!


「な、何だよピヨヨ……今いいところ――」

『ぴよっ! ぴよーっ! ぴよよよーっ!』


 出せ出せうるさいので仕方なく召喚する。


「ぴよっ!」

「ぐえっ!?」


 そのまま担がれて少年の家まで連れていかれたのだった。

 解せぬ。

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