第26話 正直者は報われる


 コロシアムを後にした俺たち。

 残りはスライムによる宿泊施設だが、それはまた今度ということにしてガーデンに水を運ぶ役割を担ってくれる魔物を探すことに。


「さて……心当たりは?」

「海の魔物は?」


 さすがに塩水はまずいだろう。

 甘いスウィートフラワーが甘じょっぱくなってしまいそうだ。


「できれば、美しいガーデンの中央を飾るにふさわしい魔物がいいのですが……」

「う、うん……」


 ちょいちょい注文が重いよね、このお姫様。

 まぁ、それだけ妥協せずに考えてくれてると思おう。


「で、心当たりは?」

「そうですね……私が幼い頃侍女に読んで貰った絵本の中に、森の泉に宿る非常に美しい精霊の話が――」


 物語で語られる……魔物ってか精霊来ちゃったよ!

 妥協なし、最適のみ! 自分はクイバタで行きます!

 

 てか、どの世界にも似たようなお話はあるのね。


「――その精霊が旅人に問いかけるのです。『あなたが落としたのは、綺麗な恋人ですか? それとも、こちらの醜い恋人ですか?』と」


 ネコ型ロボットが活躍する話の方だった! そして状況がよくわからない!


「『もちろん私の恋人は綺麗な方です、と旅人は自分の心に正直に答えました。やがて旅人はその美しい女性と末永く幸せに暮らしましたとさ』と言う、正直者であることが良いとされるよくあるお話です」


 ……えぇぇ……いいんですかそんな本を子どもに読み聞かせて……。

 男目線過ぎませんかねぇ……。


「正しくあることと自分の心に正直であることって違うと思うんですけど……」

「? しかし美しくあろうとする人が、そうでない人より勝っていることがありますか?」


 そういう話じゃないだろう!

 ……いや、この話はもうやめよう……。


「とにかく! その精霊が実在するとでも!?」

「……」


 え、何で無言なの? 当てがあるから言ったんじゃないの?


「……魔王を倒す勇者。それもかつては物語の中でしか聞いたことがありません。しかし実現しました」

「はぁ!? ……はぁっ!?」


 頭沸いてんのかこいつ!


「ていうか実在するとして! そんな危ない魔物をパークに置いておいていいのかよ!」


 落ちたら最後、別の人間と取り換えられるとか怖すぎ!


「? 危なく無い魔物はいない、けれどレイジさんの能力でそれらと関われるのがこのパークのテーマでは?」


 そうでした。


「い、いやしかし……手がかりは……」

「あとはお若い2人にお任せます!」


 そう言って逃げ去っていく姫様。


「任されちったね」

「……鬼振りが過ぎる」


 半ば呆れながらも姫様の後姿を見送る。

 そんな俺の手を、ノノが繋ぎながら――。


「いいじゃない。ゆっくりいこ?」

「……」


 焦る必要はない、この道中を楽しもう。

 そんな気持ちが伝わってきた。


 ……。


 ◇


「あーはいはい。その話なら私も聞いたことがあるよ!」


 ということで、最寄りの町の冒険者ギルドに情報収集に来たぞ!


 冒険者ギルド、様々な人間や組織からの幅広い依頼を受け、それを冒険者という職業?の方々に仲介する組織だぞ!

 中にはまだ見ぬ財宝や冒険を求めて身を置く人間もいるが、基本的には定職に就けないような人間の最後の砦らしいぞ!


 まぁ、あまり下に見るもんではないな。


 高いとは言えない賃金、命の危険。

 しかし、結果的に困った人間の助けとなっていることもまた事実。


 どんな仕事に就いていても、そこに誇りがあれば――。


「ぎゃっはっはっ! おいおい、まだそんな夢みてぇな話を信じてる奴がいるってよぉっ!」

「ぷっぷぷ! お子ちゃまは家に帰ってママのおっぱいでもちゅっちゅしてなよぉっ!」


 昼間から飲んだくれ、働こうともしない奴ら。

 せめて夢……“冒険”の部分は自分たちで否定しないでほしい。


「ん、殺す?」


 短気! 我らが聖女様は短気!


「ほっときなさい。で、さっきの話の続きだけど――」


 気を取り直し、ギルドの受付嬢さん(推定40歳)との会話に戻る。

 ……嬢、とは。


「心当たりがないでもないよ。『帰らずの森』と呼ばれる場所があってね――」


 グランヘイムの遥か西方、そこに広がる森の一部。

 その森は『帰らずの森』と呼ばれており、足を踏み入れた人間を見た者は誰もいないんだとか。


「もちろん、30年ほど前に冒険者ギルドとしても森の実態調査を依頼されたことがあるんだけどね……結果は何もわからず、何人もの冒険者を失ってしまったのさ」

「こわっ」


 そんなとこ誰が行くってんだい!


「その森の奥に、不思議な魔力を湛える泉があるそうな。まぁ、あるのがわかってるだけでそこに何がいるのか、物語の泉と同じものかもわからん。けど――」

「……けど?」


 一呼吸置き、受付嬢がにやりと笑って挑発するように囁く。


「そそるだろう? 未知の領域、不思議な魔力、そして……誰も成し遂げられていない挑戦ってやつにさ!」


 いや、こちらは安定志向ですと言おうとしたのだが……。


「……いいね」


 !? ノ、ノノさん……?

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