第25話 決め手は素敵な笑顔

 続いて連れてこられたのは、パークの中央に位置するガーデンエリア。


 いわゆるドーム一つ分の敷地に色とりどりの花畑が咲き乱れ、その上を美しい昆虫が舞う。

 その中央には華やかな噴水があり、その水がガーデンの周りを流れる。


 華やかさと爽やかさをテーマに憩いの場として設置される……予定だそうだ。


 現在は噴水もないし、花畑も畳6畳ほど。

 その上をパラパピこと麻痺蝶がほんの数匹舞っているだけ。


 元々荒廃した土地のため、憩いの場というよりは……非常に異質な、周囲から浮きまくった不気味な空間となっている。




「スウェーナさん、調子はどうですか?」

「クラリス姫様! 見ての通り順調ですよ!」

「まるで滅び去った世界に1か所だけ残った聖域」

「……そうね」


 ノノさんが的確に表現する。


「ふふっ。何事も、最初の1歩は小さく見えるものですよ」

「……そうだな」


 何やら陰のある感じで姫様が微笑む。

 俺もなんとなくわかった風に頷く。


「最初の課題だったスウィートフラワーの移植は問題なさそうですね」

「えぇ! 元々この辺りの土は魔力方と言えるほど満ちていたため、森から持ってきた土と混ぜてみたのですが、うまくいったようです!」


 スウィートフラワーの表情を見てみると、まるで温泉に浸かったおっさん――スライムに取り込まれたクラリス姫のような表情をしている。

 これなら彼らの生活環境としては問題なさそうだ。多分。


「あとは彼らが増える時間と……水です」

「……」


 少し離れたところにある、噴水が設置される予定の場所。

 そこにはただの窪みがあるだけ。


「水道は引いてありますのでそれでもいいのですが……折角ならここも魅力ある魔物スポットにしたいのです!」

「じゃあ、次はその辺をどうにかできそうな魔物を探してくるか」

「えぇ、お願いします!」


 ◇


「レイジ! 調子はどうだい?」

「お、ユート! こっちはかつてないほど力が漲ってるぜ! そっちはどうだ?」


 続いて連れてこられたのは、一応このテーマパークの目玉であるコロシアム。


「ノノさんの結界魔法用の陣や、司会用の音響などは問題ないよ!」

「魔物の待機場所や通路、その他も問題ありません!」


 ユートと、彼と一緒にいた魔物の世話を統括するピピンさんが答えてくれる。

 建物としては、とくに拘る場所も少ないからか側としてはほぼ完成した様子。


「まぁ……1つだけ問題があるんだけどね……」

「そうなのか? 一体なんだ?」

「……見てもらった方が早いかな」

「では準備してきます!」


 そう言って駆け出すピピンさん。

 しばらく待っていると――。


「さぁ! 出てくるよ! 僕が捕まえた――レッドドラゴン!」

「おぉ! 最初にランクAの魔物のレッドドラゴンとは!」

「そして――龍の相手と言えば! 同じくランクA! 密林の覇者、グレートタイガー!」

「おぉ! グレート――」

「龍対虎! 古来よりライバル視される2匹! 普段は交わることのない2匹の戦う姿が遂に見られるのかッ!? これは……これはいいッッ!」


 ……びっくりした。

 急に流暢にしゃべりだすノノさん。こういうの好きなの……?


「……ノ、ノノさん……?」

「はっ!? こ、こほん。それで、問題とは?」

「……え? あ、あぁ……まぁ、見てればわかるよ……」


 気を取り直し、戦場を見る。


 そこには、お互いの挙動を逃さんと鋭い眼光を飛ばし合う龍と虎。

 ドラゴンの口からは火炎が覗き、タイガーは鋭い牙を見せながら威嚇し合う。


 そして――。


「……ほら」

「なっ!? どうしてっ!?」


 2匹はその場で体を休め始めてしまった。

 お互いを視界の中に入れ警戒している様子ではあるが……。


「戦ってくれないんだよ。他の魔物も……強い魔物ほどね」

「……まじかよ」


 1つだけ……そして1番重要な問題じゃないか……。


「……強い魔物ほど知能も高いと言われていますし、無駄な争いを好まないのかも知れませんね」

「……難しいね」


 苦笑いを浮かべるユート。

 せっかく強い魔物を連れてきた彼の苦労も水の泡になりかねない。


「腹を空かせたり、縄張り意識の強い同種の雄を戦わせたり……まだまだこれからですよ!」

「まぁ、まだ時間はあるからね! いろいろ試行錯誤してみようじゃないか!」


 戻ってきたピピンさんと、ユートが爽やかに笑いながら、全く気落ちした様子を見せない。

 コロシアムのことは彼らに任せていいだろう。




「……どんな困難にも諦めず、希望の笑顔を絶やさない勇者様……素敵……」


 クラリス姫、堕つ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る