第2章

第24話 かわいさの前には目も頭も曇る

 少しだけ昔のことを思い出し、懐かしい気持ちになる。

 ノノに一度告白してフラれて屋上で抱き合って愛を叫んで……。


 ……結局いろいろとうやむやになってるんだなー、コレが!

 万が一次にフラれでもしたら2度と俺は立ち上がれないっていうか!

 っていうか次はノノの番じゃね? 的な!



 

 ◇



 

「はよ」

「おはよ」


 ノノといつも通り短い朝の挨拶を交わす。そして俺の斜め左後ろを付いてくる。


「今日はどうするの?」


 昨日の不機嫌さもどこへ行ったのやら、今日は一緒に行動するらしい。


「ん、今日は……」


 魔力量の上限が上がり、できることも増えたが――。

 

 今進めろと言われたものは、ふれあい喫茶のスノーラビット、宿泊施設用のスライム、フラワーガーデンのスウィートフラワー。

 概ね順調といえるが、足りないところといえば……。


「スウィートフラワーは大丈夫なのかね? 少し前から増やし始めたってことなんだろうけど……」

「増やすのは問題ないみたいだよ」


 先日とはまた異なる靴を履いているノノさんがそう答える。


「適度に濃い魔力で成長が早まるんだって」


 あー、彼らがノノの靴に入りたがっていたのは、靴に残っている魔力が丁度よかったってことか?

 適度に濃い魔力とほんの少しの刺激的な香りで成長を促しているのか。


「臭くないもん」

「何も言っていませんよ?」

「ほんとだもん」

「何も言ってないって!」


 ほんとだもん!


「嗅いでみて」

「……」


 そ、それは……果たしてどうなのだろうか……?


「嗅いでみて!」

「い、いや……それは……」


 靴と靴下を脱ぎ、足を差し出してくるノノ。


 靴じゃなくて足の方ですか……?


「ほら!」

「……」


 右足をこちらに向け、指を閉じたり開いたりして見せる。

 その足は傷どころか汚れ1つなく、透き通るような白色。

 触れればどこまでも滑らかに撫でられるであろう美しさ。


 そして――甘いのか何なのか、ほのかに香ってくるナニカ。

 ……あかん、目覚めてしまいそう。


「コホン」

「はっ!?」

「ちっ」


 思わず見入ってしまっていた俺を現実に引き戻したのは、クラリス姫だった。


「朝から仲睦まじいとは思いますが、少々特殊すぎでは?」


 ぐぅの音もでなかった。


 ◇


 暇な様子の俺たちを見て、せっかくだからとクラリスが各ブースを案内してくれることになった。


 そして最初に連れられてきたのは、ふれあい喫茶。

 今の段階で喫茶のキャストに選ばれているのが、スノーラビットのピョン子とピョン太。

 そしてついでにテイムされてたワンワこと、シルバーウルフ。


 元々住んでいた地域が雪山ということもあり、室内は猛烈に寒く調整されている。

 どのくらい寒いかというと――。


「へっくち」

「ノノ、鼻水が凍ってるぞ」


 出した鼻水が凍るくらいだ。

 そして鼻水の主であるノノは何枚も服を重ねて着ている。


「これじゃあ、触れ合うも何もないな……」


 分厚い服に邪魔されて手触りを楽しむどころではない。

 何なら真ん丸なスノーラビットよりもノノの方が丸い。


「そ、そそそうなんですけどどどっ! どうすればばばいいかかかっ!」


 答えてくれたのは、俺たちと同い年くらいに見える若い女性。


「は、ははは初めまして! わ、わわわ私はっ! ミミ、ミルキキーとっ! 申しまっす!」


 寒さに震えながら自己紹介してくれたミミミルキーさん。

 多分何個かミが多い気がするが……彼女はミミミルキーさんだ。


「彼女はこのふれあい喫茶の責任者です。昨晩からずっと部屋の環境調整をしてくれています」


 ノノと同じく、厚着をして丸くなった姫様が教えてくれる。

 昨晩からずっとこの寒さの中にいるのか……。


 ドンマイ!


「よよようやく! スノラビちゃんたちが落ち着ける環境になったようででで!」

「まぁ! さすがです!」


 おそらくコロシアムの結界同様、氷結系の魔道具かなんかを使って調整しているのだろう。

 ミミミルキーさんに抱えられてピョン太も居心地がよさそうだ。


「これなら。ピョン子も出して大丈夫そうだな!」


 妊娠中のピョン子は俺の魔封石の中に収めていたのだが、やはり旦那さんと一緒にいたいだろう。

 そう思い、ピョン子を出す。


「ぷぅ? ぷっぷー!」

「ぷーっ! ぷーっ!」


 すると途端にすりすりと体を摺り合ったり、お互いを舐めたりと仲睦まじい様子を見せてくれるスノラビ達。


「きゃーっ! かわいいーっ! やっぱりスノーラビットちゃんを選んで正解でしたねっ!」

「……かわよ」


 クラリス姫とノノも2匹の様子にうっとりとしている。


「……我が生涯に一片の悔い無し」


 仕事をやり切ったミミミルキーさんがガッツポーズをしたまま気絶した。


「素晴らしいです! これでふれあい喫茶は問題ないですねっ!」

「……」



 その後、喫茶というからにはお茶や軽食を出す予定で、これはグランヘイムでも有名な店から取り寄せるとか何とかの説明をクラリス姫がしてくれた。


 しかし、1番重要なところについては結局触れず仕舞いだった。


「いや、触れ合えてなくね?」

「……今後の課題ということで」


 まぁ、確かにかわいい様子は見れたけども……。

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