第9話 従魔の進化


「よしっ! 『人魔一身』! 来いスララ!」


 叫ぶと同時、スララと融合を開始する!


「ガゥッ!?」

「グルルルルッ……」


 突然光を放ちながら変形していく俺に驚いたのか、ワータイガーの動きが止まる。


「――スライムモード!」


 その姿は……右腕だけスライム状となっただけの、俺。


「む~、やはりよわよわスララだとこんなもんか……」

「ぴぃ……」


 頭の中にスララの悲しそうな声が聞こえてくる。

 おっとすまない、意識も繋がってるんだった。わっはっはっ!




「……グルルルッ!」

「お?」


「ガオォォンッ!」

「ふむ?」


「ゴガァァァッ!」

「……ま?」


 どうやらワータイガー君たちはそれぞれタイマン勝負を挑んてくる模様。

 虎って確か群れないもんね。ここまで一緒に来たくせに。


「舐めんなよっ!」

「――ッ!?」


 正面から突っ込んでくるワータイガー、その勢いのまま、爪の振り下ろし攻撃を右腕で受ける。


「うわぁっ!」


 憐れ、俺の右腕は千切れ飛んでしまった!


「ガァァァッ!」


 早速勝ち誇ったように吠えるワータイガー。

 しかし残念でしたな!


「甘いわっ! 『高速再生』!」

「ガッ――!?」


 腕を魔力を大量に注ぎ込み、無理矢理高速で回復する。

 不完全ではあるが、その腕でワータイガーの顔を掴んでやる。


「――っ! ――っ!」


 勝利を確信してからの、不意に溺れさせられたワータイガーは必死に藻掻き苦しんでいる。

 そりゃあ急に息できなくなったら混乱するよね。


 さて、暴れられても困るのでとどめを刺そう。


「『高速吸収』!」

「――っ、……」


 右手で掴んでいる顔が徐々に溶けだし、数十秒かけて顔全体を吸収する。

 うん、非常にグロい。


 され、俺の方はこれで終わったが――。


「さすがだね!」


 声の方を見ると、ユートさんが涼し気な顔をしてこちらを見ていた。

 まぁ、瞬殺でしょうね。


「ノノは……」

「……」


 見ると、顔を伏せながら蹲って結界を展開しているノノさん。

 更に向こうには、全力で逃げるワータイガー。


「……あのレベルは無理」

「……すまねぇ」


 涙を流しながらこちらを恨めしそうに睨むノノさん。

 聖女である彼女、いくら強いと言っても攻撃能力はここが限界の様だ。




「ついでだから、こっちも吸収しておくか」


 残っていたワータイガーの体と、ユートが倒した方を『高速吸収』取り込む。


 この『高速吸収』も、先程の『高速再生』も、元はスララの能力だ。

 当然、スララはよわよわなので同じことはできない。規模も強度も速度も足りない。


 しかし! 俺の能力、『人魔一身』は元の魔物の特性などを強化して扱うことができるのだ!


 代わりに魔力消費がえげつないので、あまり多用はできないのが難点。

 どのくらいヤバいかというと、後数分で枯渇する。多分この数分でスララ20体分。




「ふぅ、スライムモード解除! スララもお疲れ様!」

「ぴぃー!」


 擦り寄って来たので撫でてみる。

 ちょっとひどいこと言ったかもなので、少し優しく。


「ぴっぴっ!」


 嬉しそうに跳ねてる。

 撫でてるのに跳ねるからちょいちょい食い込む。


「お疲れ様! 相変わらずスライムモードはえげつないねぇ」

「そうね。まぁ、スライムの上位種ともなってくるとこの程度普通だろうしな」


 スライムの上位種、特に最上位のグラトニースライムとやらは一夜で大国を滅ぼしたとか伝承が残っている。

 そうでなくとも、今俺がやった程度は普通にできるような上位種とも戦って来た訳で。


「スララはなぁ……ま、お前は癒し枠ってことで」


 主にお姫様の。

 いつか用が済んだら消化してもいいぞ。


「……ぴっ……ぴっ……」

「ん?」


 スララがぷるぷる震えながら、どこか苦しそうにしている。

 うんこか?


「ぴっ! ぴーっ!?」


 突然スララが光り出す。

 眩しすぎて目を開けてられないっ!


「うわっ」

「きゃあ」

「なんだっ!?」




 光が晴れると、そこには……。


「ぴぃっ!」


 何となく少しだけ逞しくなったスララがいた。


「何だ何だ?」

「ぴぃっ!」


 何となく少しだけ強い力で擦り寄ってくるスララ。


「……まさか」


 『封魔石』にスララを戻し、確認する。

 『封魔石』にはちょっとした情報を確認する機能もあるぞ!


「どう? 何かわかった?」


 ノノが不思議そうに下から見上げてくる。


「……『パワースライム』。スララが進化したみたいだ」


 これまでに見たことがない、初めての現象。

 俺の能力か? それとも魔物特有の現象か?


「へぇ! それは凄い!」

「おもしろいね」


 ユートもノノも楽しそうしている。

 俺としても、何だかワクワクする感じを覚える。


 しかし、今はそれどころじゃなかった。

 スララが進化して『封魔石』の維持魔力が上がったことで――。


「……ま、魔力が、ががが……足りなっ……」




 この後、みんなで慌てた。

 魔石があって良かったぁ……。

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