第3話 大国の後ろ盾が欲しいです!
「まずは魔王討伐の達成、本当にありがとう。全国民……いや、この世界の人間に代わって礼を言う」
魔王を倒してから数日後、俺たちは王と謁見の間……ではなく、王の私室で密談を交わす。
ここには王と宰相しかいないため、今なら簡単に脅……ではなく、しっかり話し合いができるのだ!
「長い、そして苦しい旅でした。何度死にかけたことか……」
我らが勇者も、これまでの旅を思い厳しい顔をしている。
「う、うむ。本当に感謝に絶えない。これに報いるため――」
宰相が口を開くが、俺たちとしては彼らが用意しているであろう金銭や地位はどうでもいい。
なぜなら、俺たちの目的は――。
「それよりも、私たちが元の世界に戻る方法です。魔王を倒すという目的を達成しましたが、いつまでも戻る気配もなく……」
そう、元の世界への帰還である。
俺自身が戻ることは正直迷っている。
こっちの世界では魔物どころか人を殺したことも少なくない。
元の世界に戻ったとして……まともな生活を送れる気がしない、というのが建前。
本当は――。
まぁ、両親に会いたいという気持ちはなくもないが……。
一方、ユートはそうではない。
彼だけは変わらずに元の世界に戻ることを切実に願っていた。
ユートには妹がいる。
とある病気を患っており、俺も始めた会った時も入院していた。
ユートは毎日彼女を見舞ったり、看病したり……。
両親は治療費を稼ぐために忙しく、ユートが代わりに面倒を見てやっていた。本当に大切にしていたんだ。
それなのに突然こんな世界に連れて来られて既に4年。
最初はこの世界を恨み、憎んだりもしたが……それでもこの世界のために立ち上がった勇者ユート。
彼女のことを片時も忘れずに、ただひたすらに帰還を願って戦い続けてきた。
だからユートだけは何としても元の世界に返したいと思っている。
俺たちの目的は当初から徹頭徹尾変わっていない。
「……すまない、帰還の方法はわかっていない」
「……」
それに対する答えが、これ。
『目標を達成すれば帰れるはず』『こちらでもできる限り探しておく』。
その言葉を妄信していた訳じゃないけど……。
「……召喚した時と同様の手はとれないのですか?」
「召喚魔法は……あちらの世界で行われないと意味がない」
まぁ、召喚ですからね。送還はできないのか……。
「それに、召喚には多大な犠牲が必要なのだ。我が娘も――」
「そんなこと聞いていない。それで、勝手に別世界から誘拐した挙句に無理矢理魔王と戦わせて、約束した帰還の方法も見つけられなかったこの世界有数の大国の王様は俺たちに何してくれるの?」
お前の娘のことなど知るか!
こっちは今まで必死に……どんだけ必死にやって来たと思っとるんだよっ!
「うっ……」
「そ、それは……」
「ふざけんなよっ!? 今までお前らに言われるがままに! 死ぬ思いをしながら散々働いてきたんだぞ! どうしてくれんだよっ! 元の世界に大切な人達だっているんだぞ!」
裏切られる形となった憤りを、怒りを込めて目の前の権力者2人を怒鳴りつける。
いや、結構これ精神的に参りますね。
「……レイジ、落ち着け」
「落ち着いてられるかよ! お前が今までどんな思いで戦って来たと――」
「いいんだ。まだ可能性がない訳ではない。それに、今まで陛下たちにはお世話になってきたんだ、文句は言えないよ」
「おまえ……」
ユートが冷静でいられる理由、それは……。
この展開が予想できたから。
かつて俺たちのように召喚された者の文献や、召喚の魔法陣など色々調べ尽くし……至った結論は、帰還の方法はない、もしくはまだ見つかっていないと言うことだった。
「勇者殿……いえ皆様、本当に申し訳ございません。皆様の御尽力に報いるため、我が国にできることは何でもさせて頂きます」
俺の怒りから庇った形となった勇者に対し、先ほどよりも感謝を込めて宰相が言う。
俺、ヘイト役。ユート、いい奴。報酬がっぽり!
「それじゃあさ、魔王が封印されていたあの土地が欲しいんだけど」
「彼の土地か? 確かにあそこはどこの国の領土ではないが……」
これも当初予定していた通りに大賢者ミライ様が主張する。
「ええ。やりたいことがありまして。それに、私たちはきっとこれからどこの国に行っても様々な陰謀に巻き込まれてしまう」
「……む」
俺たちの力を利用とする輩や、そもそも魔王を討伐できるような危険人物をほっとけない、的な。
「だからこそ、今はどこの国の物でもないあそこの土地が最適なんです」
「……むむ。確かに、あそこは今はどこの国の物でもないが……」
まぁ、そういう思いも無くはないけどね。
人類も一枚岩ではない、当然だけど俺たちの旅にも色々あった。
特に見た目麗しいミライは俺たちよりも大変な思いをすることも多かった。
ノノさんは……何でだろうね。別に不細工じゃない……というか可愛い方だとは思うんだけど……。
「……」
ノノを見ると、彼女は明後日の方向を向いてぬぼぉーっとしていた。
そういうことか。
って言うかもうちょっと興味を持てよ! 俺たちの行く末を!
「……どうだろうか、宰相よ」
「勇者様が希望しているのであれば他国も強くは出れませんし……各国が所有権を主張しだして争いになるよりかはいいかと」
あの場所は大陸の中心にあるため、割と多くの国が隣接している。
所有権を主張しようと思えば、どこの国もできそうではある。
まぁ、周囲は険しい山々に囲まれてたり、強力な魔物が徘徊しているため毎日の防衛に精一杯で開拓どころじゃないのだろうけど。
しかし今後は魔王もいなくなったことで、このままではどんどん開拓は進むだろう。
「ですので、勇者殿を長として領地を主張し、実際の政や支援は我が国が行うと言うのが一番現実的かと」
「……それが一番いいか。如何かな、勇者殿」
あれ、それだとグランヘイム王国の土地になってね?
まぁいいか。俺らは俺らのやりたいことができれば。
他の国とかもさすがに黙っちゃいないだろうが、その辺を任せられるだろうし。
「ありがとうございます。いいと思います」
「ではその方向で話を詰めていきましょうか。まずは先ほど仰っていた、『やりたいこと』と言うのは――」
「実はテーマパークと言うものを――」
ミライと宰相が詳細を話し合っていく。
ともあれ、俺たちは無事に誰の物でもない土地を貰えることになった。
大陸の中心にある、所謂陸の孤島。そこに俺たちの居場所を作るのだ。
「……よかったね」
「そうだな」
ぬぼぉーっとしつつもちゃんと話を聞いていたっぽいノノさんが話しかけてくる。
そして、一先ず当初の目標を達成できそうなことに安堵するのだった。
この世界を裏切ることとなるであろう、1つの企みを抱きながら。
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