3-6 火遊び
動画サイトを開いて
夜の十一時。コンビニの前で友人二人とたむろしていた哲也は、スマホを放り出したい衝動にかられてなんとか抑える。苛つきを感じ取ったのか、コンビニの車止めポールに腰掛け、タバコを吹かしていた
「今回も伸びなかった感じ?」
「心霊スポット凸とか、絶対伸びると思ったのに、意外と伸びねえな」
同じくポールに腰掛け、フライドチキンにかじりついている
「見る目がねえ奴らばっか。嫌になる」
「ほんとなー。広告収入で稼ごうと思ったのに」
忠はそういって、フライドチキンが入っていた包みを丸めて放り投げた。
「他の心霊スポットいく?」
「でも、他はあんまり心霊現象起きないんだろ?」
正樹がスマホを操作し、情報収集に使っているオカルト掲示板を開いた。その情報によると現在哲也たちが通っている廃墟は、異常なくらい心霊現象が起こるらしい。
今までも動画にその場にいない女の声が入っていたり、人影が写ったり、物が勝手に動いたりとバリエーションは豊富だ。ただどれもパッとしない。
「ガチの所だって聞いたのに、思ったより普通なんだよなあ」
掲示板をスクロールしつつ正樹が呟いた。
「ほんとそれ、期待外れだよな。ほら、しつこくやめとけって言ってるやついたじゃ? 蜜蜂とかいう名前の」
「あーいたな」
心霊スポットの情報を集めている最中、今通ってる廃病院はやめとけとしつこい奴がいた。蜜蜂というハンドルネームで、そこは管理してる奴がヤバいというわりには詳しいことは教えてくれなかった。
「管理人がヤバいって、ただのビビリじゃん。今まで管理人にあったことないし、他の奴らも生きてる人間は誰も見かけなかったって言ってたし」
不可思議な現象は何度も見ているが、生きてる人間こそ怖い理論で生きている哲也たちからすれば恐ろしいものではなかった。むしろ金になる木だと浮かれていたのに、結果はパッとしない。
「もっと派手な動画じゃないと伸びないか……」
「派手っていってもどうすんだよ」
正樹の問いに哲也は顔をしかめた。それが分かったら、とっくにやっている。
「いっそ、燃やしちゃうか」
忠が突然、頭の沸いたことをいった。
「いやいや、流石に放火はやばいって」
「放火っていっても廃墟じゃん。持ち主だってどうせ持て余してるんだよ。俺達が好き勝手しても全然でてこないのが証拠。この際、チリになった方が立て壊す手間省けていいんじゃね?」
言われてみるとそんな気がしてくる。最初は止めていた正樹も「たしかに」と呟いた。
「誰もいない廃墟なんて目撃者いねえし、偶然俺達が通りかかって、燃えてる廃墟を動画に収めたらバズるんじゃねえ?」
「さすがに足つくだろ」
「大丈夫、大丈夫。証拠も全部燃えるって」
忠は愉快そうにゲラゲラ笑う。その姿を見ていたら全部うまくいきそうな気がしてきた。
「そうだなあ。全然バズんなくて苛ついてきたし、パァッと燃やすか!」
「景気いいね」
三人で顔を見合わせてにやりと笑う。忠は鼻歌を歌いながらさっき出てきたコンビニに入り、缶ビールやツマミを買った。
ガソリンも欲しかったが、今は買うのが色々と面倒くさいので諦めた。
とりあえず火をつけてみて、うまく燃えなかったらまた考えればいいと、正樹の車に乗り込んで廃墟に向かう。
廃墟につく頃には日付が変わっていた。燃やす前に動画回そうという話になり、自撮り棒にスマホをセットする。車に積みっぱなしになっていた懐中電灯をつけ、廃墟の中へと足を踏み入れた。
中は数日前に訪れた時と何も変わらない。置きっぱなしのビール缶も、落書きした壁もそのままだ。壁に血文字でゆるさないとか書いてあったらネタになったのにと思いながら、すっかり見慣れた廃墟をぐるりと懐中電灯で照らす。
燃やす前になにかおもしろい動画でも取れないものかと思ったが、何もなさそうだと肩透かしを食らった。さっさと火つけて帰るかと思ったところで、奥に人影が見えて懐中電灯で照らす。
急に光を向けられた人影は、驚いたように顔を腕で覆った。古めかしい黒いセーラー服が、懐中電灯の明かりで浮かび上がる。
なんでこんなところにと哲也は思ったが、忠は口笛を吹いた。そう言えば、女にふられたばかりだと言っていた。
「こんな夜中にどうしたんだ? 家出か?」
忠がそう言いながら近づく。夜中に女子高生が一人で廃墟にいる理由と言ったら、家出くらいしか思いつかない。それ以外なら自分たちと同じく、心霊スポットが目的か。
忠のあとに続いて哲也と正樹も少女に近づく。近づくにつれて少女の容姿が整っていることに気づいて、これはラッキーだと忠と同じく口笛を吹きそうになる。
オカルトマニアだろうが家出少女だろうが、こちらは男三人。世間知らずの女子高生一人を丸め込んで連れ帰るなんて簡単だ。
動画撮影も放火も後回しにして、今日はこの子と楽しもう。そう無言の正樹と目を合わせて頷きあう。正樹も期待が浮かんだ顔でニヤついていた。
「こんなところに女の子一人は危ないよ。なにか事情があるなら話を聞くよ」
黙っている少女に優しい声音を意識して声を掛ける。逃げようとしてもこっちは三人。捕まえるのは簡単だが面倒なのは少ない方がいい。
少女はパッチリとした黒い瞳でしばしこちらを見つめてから、にっこり笑った。
「お兄さんたち、私と遊んでくれるの?」
向こうも乗り気だと気づいてテンションが上がる。「もちろん」と答えると少女は笑みを深くした。
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