第3話 秋が待ち遠しい

山家さんは人目も気にせず葉っぱマークの消しゴムをクンクンと嗅いでいる。このことに気づいてるのはおそらく私だけ。どんな匂いがするか聞いてみたかったけど、周りの先生たちが学年ごとに話し合いをしていたり、保護者に連絡をしていていつも通り慌ただしいため自分の席に戻った。

左側を見ると校庭が広がっていてみんな汗をかきながらボールで遊んだり、縄跳びをしている。少しの間考えているふりをして校庭を眺めていると1人の女の子が私に気づきにっこり笑顔で手を振った。私も自然と笑顔で手を振り返した。(こういうときは自然と笑えるんだよな。)次月の予定をiPadに打ち込んで今日はもう帰ろう。そう心に決め目標は定時で帰ることを目指した。(いつも1組だけ授業潰れちゃうな。でも振替にも限界があるし、担任が忘れて教室まで迎えに行くのも気まずいしほどほどにしよう。)専科は担任にとても気を使う。今の私のポジションからでは担任は5倍ほど多く働いている。そりゃあ抜けるのも無理ないといつも思う。「あ〜暑すぎる〜。今日の晩御飯どうしよう。音葉さんは今日どうするの?」声をかけたのは英語のエドウィン先生。鼻筋が通っていて顔の彫りが深いのはオーストラリア人の父と日本人の母から生まれたからだろう。その顔立ちから話すペラペラの日本語に最初は違和感があったが今となっては当たり前になっている。「お疲れ様です!なにがいいですかね〜。暑いからお蕎麦とかですか??」暑い=手軽さを考えるとお蕎麦しか思いつかない。「お蕎麦か〜天ぷらとか丼ものも欲しくなりそうだね〜」確かに身長が180㎝近くあるエドウィン先生が麺だけで足りるわけない。「でっかい旬の魚があったらご馳走だな〜」黄色かかった地毛が風でふわっと揺れ舌をぺろっとする姿はねこ…いやライオンに見えた。「1週間頑張ったご褒美に魚いいですね。例えば秋刀魚とか?」晩御飯の話に乗ってきたのは図工の海野先生。私生活があまりよく分からない20代後半の先生は子どもたちが書いた生まれ変わったらなりたい動物を見ながら答える。「秋刀魚いいですね!秋を感じられて!」秋刀魚を食べたい欲がでてきて香りまで思い出そうとする私に対してエドウィン先生は「ちょっとサイズは小さいけど悪くない」と答える。晩御飯の話をしているとあっという間に定時になってしまった。パソコンの画面は1週目しかできていない。つい話を咲かせて作業ができないのは日常茶飯事。(あともう少ししてから帰ろう。)「今日はみんな秋刀魚を買いに行きましょう」と話をしている後ろで山家先生が聞いていたことに気づいたのは博多出張から帰ってきた後のこと。

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