弓張月

ある晩、美月は一人で帰宅している途中、ふと足を止めた。彼女の前に現れたのは、黒い服をまとった謎の男。彼は、どこか神秘的な雰囲気を纏い、美月に静かに近づいてきた。


「お前は、やはり月の姫だな。」


美月は驚いて男を見つめる。「あなた、誰…?」


男は微笑みながら答える。「俺は月影。お前を迎えに来た。」


その言葉を聞いた瞬間、美月の胸に忘れ去っていた感覚がよみがえる。幼い頃から感じていた月への不思議な親近感、そして心の奥底に隠されていた自分自身の秘密。


「お前はここにいるべきではない。月に戻る時が来た。」


月影の言葉に混乱する美月。彼女は自分が本当に地球に属しているのか、あるいは何か別の存在なのかを問い始めるが、それを藤原に打ち明けることができずにいた。




「お前はここにいるべきではない。月が、お前を待っている。」


その言葉が、美月の胸に重くのしかかる。月影が去った後も、彼の声が何度も頭の中で繰り返され、心に居場所のない不安を植え付けた。


家に帰る途中、彼女はふと立ち止まり、夜空を見上げた。そこにはいつものように、月が穏やかに輝いている。しかし今夜は、その光がどこか遠く冷たいものに感じられた。心の奥底でくすぶっていた感情が、月影の言葉によって呼び覚まされてしまった。


「私は本当に、この世界にいていいのだろうか…?」


美月は、自分の正体や過去について深く考えるようになる。月への不思議な親近感はずっと感じていたものの、それが何かは分からず、ずっと無視してきた。しかし今、月影の言葉によってその謎を無視することはできなくなっていた。


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